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4 遭遇

 やっと感想が届きはじめた。読者からではなく、参加者からの感想だ。四話目の修正は手付かずのままだ。感想も書かなくてはならない。それなのにディスプレイはイベントトップページを表示している。


 読者からの感想を期待して、マイページで悲観してはトップページで呪詛の言葉を吐き、再びマイページで感想を確認して。行ったり来たりしながら呪詛の言葉を吐き続けていた。


 感想が届きはじめて、だんだん黒い感情がぼんやりと薄れていく。


 なんとなくトップページを眺めていたら、1つのタイトルが目についた。例の青春小説だ。更新されたばかりのそのタイトルをクリックすると三話目だった。随分とのんびり更新しているらしい。これだけ上手ければ焦ったりしないのだろう。


 三話目もやっぱり上手くて面白くて、ゆっくりと読み耽った。二話目の感想を入れる時にはひどく焦っていたが、嘘みたいにどうでも良くなってきた。


『お前ら落ち着け!まずは発見、名付けはそこからだろ!と思わずツッコミ入れてました。天文部の面々の個性が三話目で極まって爆笑の嵐が吹き荒れました。腹筋がヤバイ!なのにストーリーも大きく動いてて本当に読みごたえがあります』


 あっという間に100文字書ける。


 試しに送信してみたが、まだ出来なかった。新たにタブを開いて更新時間を確認すると、40分前になっていた。20分あったら他の作品に感想を入れられそうだ。


 次々と新しく更新されたものを読んでいくか、次はちゃんと書くと心で詫びながら書いた作品にするか迷う。どうせなら面白い作品に気持ち良く書きたい気分だったが、ブックマークした作品から確認していくことにした。


 ううむ。唸る俺。何が書きたいんだかわかんねーよ。君の見た夢?イベント足りなくない?つーかどこの世界にそんな臆病者に惚れてくれる女の子がいるのよ。あ、そんな世界なんですか。そうですか。ダメだ。これに感想入れるには今の俺は黒すぎる。パスしよう。


 ってこれもまた、ツッコミどころ満載な破綻しまくってる設定だな。お話になりません。次。うわあ。女の子のこういう心理って理解の外。別生物だね。いくらイケメンに限るでもこれはないでしょ。不思議生物だね、女の子。


 気持ちを込めた感想5本、おざなり5本。心を入れ換えても結果は同じだったが仕方ない。これ以上時間をかけるよりも更新に情熱を注ぎたい。


 ブックマークした作品を読み返して丁寧に感想を入れ、無理だと判断したものはブックマークを外し、更新時間から30分前後の作品を一話目から読んで感想を書く。これだけで2時間かかった。2時間もかけても俺が貰ったとして嬉しいと感じる感想は半分しか書けなかった。切磋琢磨を目的とした感想を書くことの難しさを知った。


 しかし時間をかけただけに期待も募る。二話目は全ておざなりな感想を書いてバチが当たったかのような、それでも神は見捨てなかったのかもしれない2割の切磋琢磨を目的とした感想率。


『かっこいいだろ?俺の物語おつ』

『誰に何を伝えたいのか全く分かりません』

『勢いだけ?』

『自己投影した主人公が幸せになる物語ですね。ヒロインたちの幸せの行方が心配でたまりません』

『無意味なイベントを毎話無理矢理挿入するので話が進まない』


 打率で言うと5割、、、的確にえぐられた。おざなり感想だけの方がありがた、、、いや、ちゃんと読んでくれて気になる点として上げてくれて、感謝、、、できる人間になることから始めよう。


「お知らせします」


 ボーゼンとしていたらお知らせが入る。二人目だろうか。


「消灯まで一時間となりました」


 もうそんな時間らしい。四話目の修整が済んでいない今、返信も投稿も明日でいいかと思う。食事と風呂のために立ち上がった。


 *******


 ドリームキャッスル付近に簡易シャワーを設置致します。1回400円にて1日何度でもご利用頂けます。


 *******


 さて、風呂にするか食事にするか。気分転換に外の空気を吸いたい。風呂を選んだ。


 大ホールから玄関ホールに続く回廊に出ると受付スペースになっている。今はハイヒールのお姉さん3人で対応中で、並んで待っている参加者がたくさんいた。シャワーは混んでいる模様。


 簡易シャワー3つ✖男女の6つで、女性40人は時間内に終わりそうにない。一日中使い放題で一斉に押し寄せるとは思っておらず、説明不足だったとハイヒールお姉さんが謝罪し、短時間で済ませられる男性は後回しの上で、消灯を一時間延長することを提案された。とりあえず騒いでいる高齢のおば様に落ち着いて欲しい思いが透けて見えた。男性陣もうんざりしていた為、あっさりと了承する。


 お陰さまで男性陣揃っての晩餐会となり、これが盛り上がる。一日中狭い個室でパソコンとだけ向き合っていたため、会話に飢えていた。


 俺も右隣の紳士と左隣の青年と仲良く賑やかな食事風景の住人になった。独り暮らしに慣れてしまうと会話しながらの食事が難しく、ついつい無口になる俺を挟んで両隣の方々が盛り上がっている。何故か男性用の下着の話で。心地好い下着とは。


 これ、俺が無口なのは単に引いてるだけともいう。


 ところで感想入りましたか?という質問が来たのは背後から。ここの異様な盛り上がりに徐々に人が集まり、食後に下着話で盛り上がる男共に一陣の風を吹かせたのは、中学生くらいに見える少年だった。


 ちょっと空気がヒンヤリ。


「お一人、いつも感想下さるユーザさんが見つけて下さって、いつも通りに素敵な感想を入れて下さってます」


 右隣の紳士のお言葉で空気はもう凍りつきそう。


「人気のないジャンルですからランキングなんて夢見ることもなく、ただ自作の完結だけを目標に更新してた作品を見つけて下さって、初めてのブックマークと初めてのポイント、そして感想まで、どれもとても嬉しくてね。ああ、読んで下さる方がいるんだ、気に入って下さる方がいるんだ、と」


「読者一人の存在で世界は何倍にも広がりますよね」


 そう答えたのは左隣の青年だった。自分も経験あります、と。空気は、とても暖かいものに変わった。ここに人気作家なんていない。そんな安心感。


「俺は感想貰ったことなくて、感想欲しさに参加したんですよ」


 緩んだ空気に乗せられてポロッと漏らす。


 え?何よ、哀れみの目で見ないでよ。そこ、視線そらさないでっ!


「なるほど。そう来ましたか」


 中学生、おまえかーーーー!

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