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1 イベントの始まり

 《夏のホラー企画》

 運営ではこの度、夏のホラーイベント参加者を募集しております。今年のイベントは参加者100名による感想獲得バトルです。


 *******


 カツカツカツカツ。ハイヒールでかなりの速さで歩く女性の後ろを俺の足音が追う。ギュッギュッギュッギュッ。俺のスニーカーのたてる音はどうにも足音を表現する擬音になりづらいな。やはり登場人物の履き物はカッカッとかコツコツとか音のする物がいいな。まあ、足音なんて描写しなければそれで済む話なんだけどね。


「こちらです。ログインしてメッセージをお読み頂いた後で、イベントに参加してください」


 はーい。と心の中で返事をしている間にハイヒールのお姉さんは姿を消した。お城の一室での執筆を期待していた俺はかなりガッカリ。だってボードに囲まれた狭いスペースにパソコンがポツンとあるだけなんだもの。気落ちしながらも俺はすみやかにパソコンの前に座ると、ユーザIDとパスワードを入力してログイン。見慣れた自分のホーム画面が見慣れない、つーかデカイ画面に表示されるのに、ちょっとした違和感を感じながらも届いているメッセージを開く。


『イベントページにログインして下さい。あなたの登録番号は33233です』


 へえ。覚えやすくていい番号じゃないか。幸先良いぞ。自宅のパソコンよりデカイ画面から受けた威圧感などあっさり忘れた俺は、ニヤニヤしながら言われた通りにログインした。イベント用のマイページがあり、申込後に届いた企画内容の詳細と同じ説明を読み流してイベント作品作成画面に。やべっ。ドキドキしてきた。


 大きく息をついてホーム画面に戻り、保存しておいた一話目をコピペしてイベント作品として投稿する。ふう。気づいたら呼吸忘れてる小心者の俺。おっとのんびりしてはいられない。一話目投稿後は、10作品に感想を入れなくてはならない。イベントページのトップ画面に戻ると投稿作品数はまだ30作品。上から順番に10作品ブックマークして読み始めた。


 *******


参加者は参加作品に参加者同士で感想をつけあい、切磋琢磨しながら読者からの感想を獲得することを目指します。

一話目は10本の作品に感想を書いてください。


 *******


 俺がこのイベントに参加した目的は感想だ。投稿を始めて一年たつが、まだ感想を貰ったことがない。活動報告に更新お疲れさまですとコメント入れるなら読んでくれ!そして感想をくれよ、と切実に思う今日この頃。


 最初の作品は乙女ゲーム転生もの。一話目では転生前の話がメインで、まだ主人公が悪役令嬢かヒロインか分からなかった。一話3000文字以内で10話完結、それがこのイベントの規定だ。こんなにのんびり展開してて大丈夫なのかと心配になってしまう。感想で指摘するか? いや、ストーリーの良い点か気になる点を入れないとダメだよな。しかしまだ一話で特に感想なんてないんだよなあ。後回し。


 次の作品は異世界転移して勇者になって、魔王をやっつけた強い俺のその後の物語らしいんだが、誤字が気になってストーリーはよく理解出来なかった。規定では誤字の指摘を封印されているため感想は他の何かを書かなくてはならないのだが、理解出来てないのに感想なんて書けるはずもない。これも後回しだ。


 次は現代青春小説。嫉妬するほど面白い。こんなイベント参加しなくてもいくらでも感想貰えそうなんだけどなあ。やはりジャンルがダメなんだろうか。このイベントで作者にファンがついて一気に人気作家作戦か? いや、余計な事を考えてる暇はない。良い点を100文字以上書いて感想を送った。


 *******


 イベント作品に読者(参加者は除く)10人から感想が入った時点で、その作品はイベントクリアとなり、作者名が公開されます。イベント終了後はイベントクリア作品コーナーにて、タイトル・作者名・あらすじが紹介されます。


 *******


 一度書くと勢いがつくのか、そこからは順調に進んで乙女ゲーム転生に戻ってきた。


『三人称で書かれていて、主人公の前世の性格が分かりやすかったです。転生ヒロインとしては、元気で明るいドジっこというキャラは珍しく、今後がとても楽しみです。』


 これで76文字。このイベント用の感想欄は、通常の感想欄と違い、レビュー画面のように文字数がカウントされる。参加者は100文字以上書くまで送れないのだ。しかし一話目の内容はこれで全てだ。他に何を書けと、あっ!


『ストーリーの進行が遅くて少し物足りなく感じました。』


 よし!気になる点にこれを入れたら合計101文字。俺、天才。どうでもいい天才っぷりだけどね、もう疲れたのよ。テンション上げていかないと。残るは誤字で意味不明小説だが、これはもうパスだ。ブックマークを外して他の作品を読むことにする。


 トップ画面に再び来ると、作品名の横に感想件数が載っていた。既に10件入っている作品もあった。信じられないことに誤字小説も既に9件感想がついていた。理解できた奴も居るなら俺が無理して頑張らなくて良いや。ちょっとホッとした。


 自分の作品を探してみると、7件感想が入っていた。感想全てに返信をしなくては次の話を更新できない。ちょっと焦る。投稿が新しいものから順に並んでいるため、一番上の作品にはまだ感想が入っていなかった。クリックして作品を読む。


 スゲー力作なんだが、漢字がやたら多くて、しかも難しい。文字数もたぶん3000文字ギリギリまで使っていやがるから、他の作品の二倍は読むのに時間かかった。途中で他の作品に変えるか迷いつつも読み終えてしまったからには、こいつに感想を入れたいのだが、さて、この力作に入れるような難しい言葉を俺は知らないぞ。ダメだ。一言も浮かばない


『スゴい力作で圧倒されました。ちょっとすぐには言葉になりそうにありません。とにかくグイグイとストーリーに引き込まれました。まだ序盤ですが、これからの主人公の活躍が楽しみです。』『難しい単語が多すぎて苦労しました。』


 よし。さすが俺。言葉が浮かばない気持ちを言葉にしたぜ。俺は清々しい気持ちで自分の作品に寄せられた感想を開いた。

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