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7.日常系とかギャグ系ってどうやったら物語が進んでいくの? え、適当なところでシリアスな展開をぶち込めばいい? いやいや、今までのゆるい流れからいきなりそれは厳しいと思います。 

7話です。

よろしくお願いします。

「で、どのような方法で戦うのだ?」

「そうですね。では、じゃんけんで」

「じゃんけんとは、なんだ?」


 まあそうなるだろうとは思っていたよ。

 俺はリオさんにじゃんけんのルールを説明する。リオさんは真剣に俺のじゃんけん講義を受講していて、なんだかほほえましい気持ちになった。


「で、それが勇者の強さのルーツとどう関係あるんだ?」


 ああ、真剣に聞いていたのは俺が、勇者がどうのとか言っていたからか。うーん、じゃんけんと勇者って全く関係ないよな。けど言っちゃったものはしょうがないし。


「じゃんけんは相性で勝負が決まります」

「ふむ」

「いかに勇者といえども得意なこともあれば、苦手なこともあるでしょう。そしてそれは魔王……様でも同じですよね」

「それはまあ、そうだろうな」

「勇者はこのじゃんけんの性質を身に染み込ませていることによって、自分の得意なことで、相手の苦手なところを突くという戦い方も身に着けていると考えられます」

「なるほど。単純な力では圧倒的な魔王様がいつも勇者に滅ぼされる原因の一端は、じゃんけんから培われた戦術の活用にあったとは……。じゃんけん、恐るべし」

「え、うん、そうですね」


 いや、適当なこじつけだけどね。これだとなんかじゃんけんのせいで魔王がいつも負けてるようなことになってるけど、実際は勇者がチート能力全開で魔王を滅ぼしているんだと思うよ? たぶん、じゃんけん微塵も関係ない。


「ならば、私もじゃんけんとやらを覚えて帰って、勇者に対抗するために脳筋だらけの魔王軍に広めていかなければ」


 なんか壮大な計画に発展してる……。というかリオさん自身も魔王軍は脳筋集団だと自覚していたんだ。でも、そんな脳筋魔王軍にじゃんけんを広めるのとか、かなり大変じゃない? 何故紙切れが石より強いのだ! なに? 包み込むから? 紙など突き破ってしまえばよかろう! とか言いだしそう。


「どうですか? ルールは覚えられましたか?」

「ああ。私はいつでも戦えるぞ」


 さっそく戦い(?)を始めようとするリオさんと伊角。


「ちなみに一つ言っておきますけど、初心者は――」

「別にグーしか出せないとかないからな。パクリな上に姑息な手段に出ようとするな後輩よ」

「チッ。先輩、真剣勝負に口出しは無用ですよ」


 真剣勝負とかどの口が言うか。まあ、真面目にやるなら、これ以上の口出しはしないでおくけどさ。


「リオさん。わたしはこの勝負、グーを出しますよ」

「フッ。馬鹿かおまえは。戦う前から自らの手の内を明かすとは。兵法のへの字も知らぬと見える。ならば私はパーを出すまでだ」


 いやいやいや。最初の宣言は単なる心理戦のふっかけだからね。伊角が本当にグーを出す保障はないよ? じゃんけんの兵法のへの字も知らないのはリオさんの方だから。


「あの、リオさん? 今のは――」

「先輩、女同士の真剣勝負に水を差さないでください」

「おまえなあ……」


 後輩は完全にやる気だ。じゃんけんの素人相手に、玄人向けの心理テクを駆使して容赦なく叩き潰す腹づもりらしい。

 

「では行きますよ? 最初はグー。じゃんけん――」


 ――ポン。


 リオさんは宣言通りパーを出していた。まあ、リオさんにじゃんけんの心理戦など望むべくもないが。そして、伊角の方は宣言など知らぬ存ぜぬといった顔でチョキを出していた。……まあ、当然だよね。


「な……貴様!」

「どうやらわたしの勝ちみたいですね」


 悔しそうに顔を歪めるリオさん。どや顔の伊角。まったく大人げないよな。なんかリオさんがかわいそうに思えてきた。と思ったらリオさんは――


「まだ、戦いは終わっていない!」

「え……?」


 ――素早く伊角の手を掴んだ。正確にはリオさんのパーが伊角のチョキの刃の部分である人差し指と中指を包み込んだ。


「えーと、これは……?」


 困惑の表情を浮かべる伊角。


「油断したなイスミ・カナ。これで貴様のチョキに勝ち目はないぞ!」


 リオさんは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 え、ちょっと待って、どういうこと?


「パーは相手を包み込むことで勝利する。そして、チョキは相手をはさんで切ることで勝利する。現時点で私は勝利条件を満たし、かつ貴様は勝利条件の達成が不可能になった。よってこの勝負は私の勝ちだ」


 いや、まあ確かにグー、チョキ、パーがそれぞれどうして勝てるのかをそんな風に説明したけどさ。別にその手段を使って実際に戦うわけではないからね? というかそんなこと言ったら俺、グーは相手の刃を粉砕できるからとか説明しちゃったよ? もしリオさんがグーを出してたら伊角の右手は粉砕されちゃってたよ? ……ナニソレ超危ないところだった。


「あの……リオさん。この勝負はリオさんの負けだから」

「なんだと。おまえ、言ってることが違うぞ」

「いや、俺、実際に出した手で戦うなんて言ってないですよね……」


 それから不満げに抗議してくるリオさんに、何とか説明して、納得してもらうまで五分くらいかかった。


「そうか、パーの包み込む力は抑止力……」


 なんだか説明を重ねるうちに自分でも訳が分からなくなってしまったが、何とか手を出した時点で勝負が決まることに納得してくれたようでよかった。


「で、勝負はわたしの勝ちなんですよね?」

「悔しいがそうなるな」

「じゃあ、先輩はわたしのものという事で」

「ユウジを婿にするという話か」

「まあ、婿にするかはわからないのでとりあえずキープってことにしときます。あ、今の段階ではお付き合いもしませんから」


 ナニソレ酷い。なんか俺、後輩の人生の滑り止めにされてない?


「ユウジを婿にするのは構わん。だがそうなった場合、貴様も魔王軍の軍門に降るという事になるな」

「まだそんなよくわからない設定を口にしますか。いい加減痛いですよ」


 伊角は呆れた表情をする。それを見たリオさんの眉がピクリとはねる。ヤバいな、このままだと二人はまたしてもいがみ合うことになる。もういっそ、リオさんが人間じゃないってことをバラしてしまおうか。なんかその方がいい気がしてきた。


「なあ、伊角。実はここだけの話、リオさんは人間ではない」

「先輩まで何を言い出すんですか。頭大丈夫ですか? それともここは空気を読んで話を合わせた方がいいですか?」

「そうだね。できれば驚愕の事実を知って驚いた風で」

「り、リオさんが人間じゃない――ッ。な、なんだってぇ!?」


 ノリのいい後輩でいてくれてありがとう。


「実はリオさんは異世界の魔王軍を率いる大将の一人だ」

「大将――ッ。何故それほど強大な力を持った魔族が単身でこんなところにッ!?」

「ああ、それなんだが、実は――」

「――え、まだこの設定話続くんですか?」


 チッ、中途半端なところでやめるなよ。どうせならこのまま全部説明させてくれよ。


「仕方がない。リオさん、この後輩にリオさんの本当の姿を見せてあげてくれませんか?」

「ここでか? まあ別に構わんが」


 面倒なので、実物を見せて無理やり納得させる作戦に変更。

 

 リオさんがボソッと何かを呟くと、途端に身体が濃紫の輝きに包まれて瞬く間に背中には漆黒の羽根が、頭には鮮血が染み込んでいそうな角が生える。そして、麻篠高校の制服から、露出重視のビキニ戦闘装束姿になる。


 途端に放たれる圧倒的な威圧感。前はいきなりだったからビビッて漏らしちゃったけど今度は心構えがあったから何とか膀胱の決壊は防げた。フッ、俺は二度同じ手はくわんぞ!


 そして、伊角の方へと視線をやる。圧倒的な威圧感を放つ次元の違う存在を目前にして、二歩、三歩と後ずさる。表情はやや恐怖の色を浮かべ、肩は小刻みに震えている。そして足元には水たまりが……なかった。あれ、後輩は漏らさなかったの? 初めてこんなの見たら普通漏らすよね? え、漏らしたの俺だけ?


「な、何ですか、これは?」

「ふん、生意気な小娘も、私のこの姿を前にしては吠えることもできぬようだな」


 なんかリオさんが勝ち誇った顔をして、若干うれしそうな笑みを浮かべる。さっきは伊角にいいようにやられていたからね。そんな相手がビビッて震えてたらいい気味だよね。えーと、俺もなんか震えが止まらないから、そろそろ人間の姿に戻ってもらってもいいかな?


 俺がもういいですよというと、リオさんは少しつまらなそうな顔をしていたが、無駄に魔力を消費するのも得策ではないかと言って、元の人間の姿に戻った。そして、改めて自らの名を知らしめる。


「私はオストラントの魔王軍三大将の一人、メルクーリオ・エンドレスだ。小娘よ。あまり生意気なことを言っていると次は消すからな」

「魔王軍……」


 伊角はあまりのことに言葉を失っていた。

 うん、初めて見たときは俺もそんな感じだったよ。でも、漏らさなかったのは偉いよ。うん。


「……いいでしょう。あなたが本物の魔王軍の大将だという事は信じます。ですが……魔王軍の大将がなぜこんなところに?」


 質問自体は俺が適当にノリで説明していた時のものと同じだが、先ほどとは違い伊角は真剣な表情で問いかけている。そこにはふざけた雰囲気は一切ない。


「この国にいると思われる、勇者の候補を抹殺するためだ。そして、この国から二度と勇者が私の世界へと送られぬように、つながりを断つためにこの世界に来た」


 俺にしたとき同様の簡潔な説明。これで伊角も少しは恐怖が薄れたのではないか。これでもし人類に対して侵略しに来たとかだったら、恐怖は助長されるけど、勇者候補探しとか、俺たちにはほとんど害がないもんね。あとはリオさんが勇者候補探しで無茶しないように俺が手綱を握っておけばこの世界も安泰というわけさ。


「……なるほど。勇者候補の抹殺ですか」

「そうだ。私たちの世界に送りこまれる前のまだ弱い状態の勇者を始末する。その程度なら私でもできるからな」

「そうですか。それはなかなかいい作戦ですね」


 伊角もそう思うか。この勇者水際排除作戦はなかなかいいと俺も思ったんだけどな。でも、魔王やほかの大将には反対されたらしいぜ。笑っちまうよな。


「……でも残念でした」


 リオさんの下へとふらっと近づいた伊角は、いつの間にか手にしていたナイフをリオさんの腹に躊躇なく突き刺した。


 え、なにやってんの? は……?


「き、貴様ッ……んぐ!?」

「おっと、変身はさせませんよ。おっかな過ぎておしっこちびっちゃいますからね」


 伊角はリオさんの口を塞ぐとリオさんの身体を壁際に押し付けた。そして、伊角は一度刺したナイフを抜くと、今度はリオさんの胸に突き立てる。押さえつけたれたリオさんの口からは血が溢れだし、伊角の指の隙間から滴っていく。足元にはリオさんから流れ出た鮮血によって赤い血だまりができていた。


「おい、伊角……おまえ、何やってるんだよ?」

「何って、殺られる前に殺っておこうと思っただけですけど」

「は……?」


 殺られる前って……おい、まさか。


「おまえ……もしかして――」


 俺の問いにかぶせる形で、伊角はなんてことのない風に気軽にそれを口にした。


「そうですよ。わたし、勇者候補なんです」


 言葉を失った俺のもとへはリオさんから流れ落ちる血の滴る音と不快な鉄臭い香りのみが届いていた。

 

 結局俺は、リオさんと後輩の血なまぐさい戦いを回避させることはできなかった。


キリが悪いので、次話もすぐに投稿します。

よろしければ、ブクマ登録、感想等よろしくお願いします<m(__)m>

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