6.突如後輩が出現して、何故か魔王軍の幹部と俺の取り合いを始めようとしているんだが、俺はいつからそんな罪深い存在になってしまったのだろうか?
6話目です。
とりあえず後輩キャラが好きなので後輩キャラを出しました。
内容は相変わらずですが、よろしくお願いします。
リオさんは思いのほか、まじめに授業を受けていた。とはいっても机の上には何も置いていないし、ただひたすら腕組みをして授業を聞いているという異様な光景だったが、認識疎外の魔法のおかげで、ほとんど誰にも気取られていなかった。
ちなみのリオさんは窓際の一番後ろの空いていた席に座って授業を受けていた。もともと空席だったので、特に問題になることもなく、これまた意識操作という魔法によってクラスメイト達からも普通に受け入れられていた。
ただその一つ前の席に座る俺は、授業中に何度かリオさんに質問されて、小声で返答していたせいで、隣の席に座っている子に何度かアブナイ奴を見るような視線を向けられてしまった。これもまた、リオさんの認識疎外の魔法のせいで独り言をぼそぼそ言っているように見えていたんだろうなあ……。もうヤダ。
「なるほど。思っていたよりも興味深いことを学んでいるのだな」
帰りのホームルームが終わり、生徒たちが帰宅や部活動へと向かい出すとリオさんは誰に憚るでもなくそう言った。
「そうですか? 退屈な内容ばかりだと思いますけど」
学校の勉強なんて、直接将来の役に立つわけじゃない。まあ一般教養としては多少役立つかもしれないけど、その本質はきっと、学ぶことへの姿勢を身に付けることにあるんだろうと勝手に解釈している。試験だって決められた期限までに試験範囲をいかに効率よく勉強し終えることができるかという、一種の事務作業訓練だと思っている。
「ところでこの後は家に帰るのか?」
「いえ、今日は週末なので部活があります」
「武活とはなんだ? 響きからして戦闘訓練の類か?」
そんな血の気の多そうな活動はしませんよ。
「生徒が各々好きなことをして過ごす時間です」
「なんだ娯楽か」
「そんなものです」
俺が教室を出て部室へ向かおうとするとリオさんがついてきた。
「あれ、リオさんも来るんですか? この世界の情報収集とやらはいいんですか?」
「解説役がいないと効率が悪い」
リオさんが不機嫌そうな顔をしてそう吐き捨てた。美少女にそんな顔をされちゃうと、なんかかまってあげたくなっちゃうな。もう部活はサボっちゃおうかなあ。
「あれ先輩これから部室ですか? 奇遇ですね、わたしもです」
「あ、伊角……」
部活をサボろうとした瞬間、部活の後輩に出くわしてしまった。何このタイミングの良さは。これでは、リオたんとの抜け駆けデートができんではないか。
「誰だこの小娘は?」
「彼女は伊角加奈です」
リオさんが問うてきたので簡潔に名前だけ伝える。加えて解説するならこうである。
とにかく見た目に関して言うなら彼女ほど、理想的な後輩はいないだろう。低めの身長に黒髪のツインテール。そして起伏の乏しい体つき。全身全霊を懸けて年下属性を体現している。おっぱい一つとっても、もはやちょっと胸板厚いねというレベルでまな板であるし、お尻に関してもよく引き締まっていて、眺める分にはよくても揉んでみたいとは微塵も思わない。女性としての魅力は無残の一言。性の対象とはなり得ない。だが、そこがいい。この未熟さこそが彼女を後輩の中の後輩足らしめていると、俺は思う。
「……先輩。今、わたしに対してめちゃくちゃ失礼なこと考えていませんでしたか?」
「いや、俺はおまえのことを最高の後輩だと思っているよ」
「本当ですか? その言葉、信じますよ? ところでそちらの超絶美少女は先輩の同級生の方ですか?」
「そこで彼女さんですかとは聞かないんだね」
「すみません。宝くじが当たるより低い確率なので、その可能性は考慮する余地なく除外してしまいました」
「君、結構ひどいこと言うよね」
「でも、そちらの方に先輩の彼女かと間違える失礼を犯すよりはマシですよね」
あれ、なんで今日はこんなに後輩のあたりが強いんだろう。ひょっとして先週の部活を無断で休んだからか? それともその前の週の部活も無断で休んだからかな?
「おい、私を蚊帳の外において会話をするな」
「すみません」
後輩と話していると、少し怒ったようにリオさんが口をはさんできた。
「おまえイスミ・カナといったか。ユウジとはどういう関係だ?」
く、初めてリオたんが俺の名前を正しく発音してくれたのに俺に対してじゃないのが、とても残念。
「部活動の先輩後輩というちょっと怪しげな関係ですけど、何か?」
おい後輩。部活動における関係のどこが怪しげなんだ。そういういかがわしい雰囲気を無意味に漂わせるのはやめろ。
「フッ、ただの娯楽に興ずるだけの仲であったか」
「何がおかしいんですか。そういうあなたは先輩とどういう関係なんですか?」
「ユウジはわが魔王軍の軍門に降った。ゆえにユウジは私の所有物に等しい」
え、上司と部下という関係じゃなかったの? 何その一方的な関係。聞いてないよ?
「なんですかそれ? ゲームの設定か何かですか? 頭大丈夫ですか?」
「げえむ? 何を訳の分からぬことを。あまり吠えるなよ小娘。貴様など私にかかれば一瞬で塵にできるのだぞ?」
「二次元をリアルに持ち込むのはやめといた方がいいですよ。痛々しいので」
魔王軍の大将の姿ではないにしろ、十分な殺気を含ませた視線を向けるリオさんと、ひるむことなく睨み返す伊角。
ちょっと待て。どうしてこんな対決姿勢が出来上がったんだ?
「というか、あなたは先輩のことを人間として見ていないんですね?」
「フン、それがどうした?」
えぇ……俺、人間として見られてなかったの? 男として見られていないならまだしも、それ以下って……悲しい。
「わたしは先輩のことはかろうじて人間として見ています」
「ちょっとまって。かろうじてって何? どうゆうこと?」
「しかも将来の婿候補の一人と考えています」
「ええ!? 初耳なんですけど!」
そんな話、一度もされたことなかったんだけど。え、伊角って俺のこと好きだったの? え、どうしよう。正直よくて妹くらいにしか見えないんだけど。むしろ伊角に美人のお姉さんがいるなら結婚して法律的に伊角を妹にしたいくらいではあるけどさ。
「初めて会ったとき、将来公務員を目指しているという言葉を聞いた瞬間、わたしの中で先輩は婿候補の一人になりました」
「おいいいい! 安定した地位が目当てかよ!」
「正直見た目はそこまででしたが、まあ公務員になるならアリかなと」
「何それ酷い……」
別に伊角の方も俺のことを好きなわけじゃないのか。ちょっと期待しちゃったじゃないか。
というか残念だけど公務員目指すのは辞めたよ? だって、すごい沢山勉強する必要があるみたいだったから。
「くだらんな。ユウジを婿にする? だからどうした? 私とユウジの関係はそんなことでは揺るがん」
「……いいでしょう。ではどちらが先輩をモノにするか。勝負しましょうか」
「望むところだ。消し炭にしてやる」
え、なに? ここから熱いバトルが繰り広げられちゃうんです?
「いやいや、ちょっと待てそれはマズいだろ」
というか、リオさんがマジで戦ったらきっと伊角とか瞬殺だろ。そういう血なまぐさいのはやめて。マジで。
「なんですか先輩。わたしの心配でしたら無用です。こう見えても結構強いんですよ」
いや知らんけど。でもリオさんのはきっと人外の強さだから。
「安心しろユウジ。私が本気を出せば小娘は肉片すら残らん。ゆえに誰にも悟られることもあるまい」
全く安心できねえ! というか今日の夜に家に帰ってこない時点で普通に親御さんに悟られるから。
しかし、どちらも引く様子は微塵もない。
「わかった。なら勝負の方法は俺に決めさせてくれ」
「何故おまえにそんなことを決められねばならない」
伊角は別にいいですけどと引き下がったが、リオさんの方はどうやら不満らしい。しょうがない。理を説くか。
「この世界には様々な戦い方があるんです。そして勇者候補もそういった戦い方を当然把握しているでしょう。いずれ勇者候補と一戦交えるなら、そういった敵の強さのルーツを知っておくことも悪くないのではないですか?」
「……そういうものか?」
「そうですとも。それにリオさんならどんな勝負だろうと負けはしないでしょう? 仮にも魔王軍の大将なんですから」
「フッ、当たり前だ。……いいだろう。手段はユウジが決めよ」
「わかりました」
ふう。何とかなった。意外とチョロイぜ、リオたん。
こうして俺たちは部室へと赴き、リオさんVS後輩の戦いが幕を開ける。
続きは明日掲載します。
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