5.魔王軍幹部は主君と同僚の反対を押し切って、どうやらこの世界に勇者狩りに来たようです。え、これって俺も強制参加なの?ミカン狩りくらいしかしたことないけど俺、参加して大丈夫なの?
5話目です。
ついに魔王軍三大将の一人がこの世界にやってきた理由が判明!(タイトルが完全にネタバレな件)
相変わらずな内容ですが、よろしくお願いします^^
「ほう、学校へ行くのか。私もつれていけ」
「え、無理です」
朝起きると(結局床に転んで座布団を枕に寝た……)未だ夢の中だったリオさんを起こさないように学校へと行く支度を済ませた。そして、朝ごはんを食べて部屋に戻ると、ようやくリオさんは目を覚ましていたのだが……俺が準備していた鞄の中身をあさっていた。
「この書物はなんだ?」
「教科書です。これから行く学校で使うんですよ」
と、ここまで言って、リオさんはにやりと口の端を上げて、冒頭の言葉をのたまったのだ。
「何とかしろ。この国の教育機関を視察することで、この国の教育水準を知ることができるだろう」
「そりゃ、そうですけど。生徒以外は校内には入れないんです」
「なら、生徒になればいいんだな?」
「え……? そんなことできるわけが……いろいろと手続きがあって」
「魔法を使えばどうとでもなるだろう」
「魔法――!?」
やっぱり魔法あるんだ。待てよ、そういえばリオさんがあのおっかない姿から今の可憐な美少女に変身したときに使っていたのもよく考えれば魔法か。なんだ、俺すでに魔法を目撃してるじゃん。
でも、魔法といったら、もっとわかりやすいのも見てみたいよな。
「どんな魔法が使えるんですか?」
「ん、今回の場合だと認識疎外や意識誘導程度でなんとかなるだろう」
「え、いや、もっと魔法っぽい……例えば、火を出したり風を起こしたりとかはできないんですか?」
「そんな下級魔法など造作もないが……なんだ、その目は。見たいのか?」
「それは、もちろん!」
「仕方ないな」
リオさんは手をかざすと、二三言何かを呟く。すると何もないところから火の玉が生まれ、射出される。そして、すぐそばにあった俺の教科書へと直撃し、赤々と燃え上がった。
「って、おいいいい! 俺の教科書がああああ!!」
俺は魔法に感動する間もなく、慌てて座布団で燃え盛る教科書を叩いて火を消し止めた。が、すでに半分以上が炭化してしまっていた。ああ、今日の授業、どうしよう……。いや、待てよ。魔法でこんなことになったなら魔法でなんとかすればいいのでは?
「……次は、回復とか再生とか、そういう感じの魔法を見たいなあ」
「そんな魔法は使えない」
「え……?」
「私には必要ないから使えない」
「えぇ……」
じゃあ、この半分炭化した教科書どうすんの……? どう見ても授業で使えないんですけど。
……しょうがない。今日は別のクラスにいる友人に借りて済ますか。
「さあ、学校に行くぞ」
「ちょっと待って、まだ連れていくとは……」
「私がおまえに許可を取る必要はないだろう。反対しようと無駄だ」
リオさんは昨日おまけでもらったシュークリームを二つ頬張って朝ごはんにすると(というか二つあったら一つは俺のだと思うんですが……)部屋を出ていく。
仕方がないのでもう何も言わずに後をついていき、家を出た。
通学路では、リオさんが車に驚いて見せたり、電車に乗ってみたいと言い出したりもしたが、何とか言いなだめて学校へのみちを行く。言いなだめるといっても、諦めの悪いリオさんを説得するために結局、あとで電車の乗せる約束をさせられてしまったが。
「ところで、リオさんはこの国のことを調べて、どうするつもりなんですか?」
今まで気になっていたことをこの機会に聞いておくことにした。まさか魔王軍を率いて侵略をしに来るとか言わないよな? そうなったらどうなるんだろうか。この世界は魔法とか使う未知の世界に勝てるんだろうか?
しかし、リオさんが口にしたのは俺の予想とはまったく異なる答えだった。
「この世界とのつながりを断つ」
「え……? それってどういうことですか?」
「話せば長くなるので手短に言うと、この世界から、私たちの世界に時々勇者という厄介なものが送られてくる。そいつはいつも人類に味方して、我々魔王軍に多大な被害をもたらすのだ。だから、その迷惑なつながりを断つために私はこの世界に来た」
「へえ……そうなんだ」
勇者になって異世界に転移ってのは、結構あこがれるものがあるけれど、確かに敵対する側からすればたまったものではないな。うん、なんだかんだで勇者って魔王を滅ぼそうとするし。
「だから私はこの世界とのつながりを断つために、勇者が送られてくる原因を究明して、排除するために、この世界にいる。最悪でも転移前に勇者候補をこちらの世界で排除することで魔王様の負担を減らしたい。なにせ勇者というやつは私たちの世界に来てから急激に強くなるらしいからな」
勇者はチートと相場が決まっているし、転移してからこっちの知識とか何やらで無双するからね。ある意味その考え方は正しい。転移する前ならたぶんチート性能もないし。
「じゃあ、勇者が送られるシステムの解明と勇者候補の排除が済めばリオさんは魔界に帰るんだね?」
「魔界ではない。オストラントだ」
リオさんが訂正する。確か最初にそんなこと言っていたか。オストラントの魔王軍三大将の一人とかなんとか。
「というか、リオさんて魔王軍の大将なんですよね?」
「そうだが。どうした? 今更ながら恐れをなしたか?」
「いえ、なんで大将自ら部下もつれずにこの世界にやってきたのかなって」
「それは……反対されたからだ」
「え……?」
「魔王様やほかの大将は私の考えに反対した。だから私は軍を動かせず、単独で来たのだ」
「ちなみになんで反対されたんですか? 人類の俺が言うのもなんですが、勇者水際排除作戦はなかなかいい案だと思いますが」
「……つまらんそうだ」
「はい……?」
「私の考え方はつまらないそうだ。そんなことをせずに、勇者が来るなら、来たところで戦って倒せばいいと皆はいった。魔王様も本気で戦える相手がいなくなってはつまらんとおっしゃられた」
魔王軍って戦闘狂集団なのかな。ほのかに脳筋の香りがするよ。
「まあ、そんなに戦いたいなら戦わせておけばいいんじゃないですか? 案外勇者が来ても返り討ちにしてしまうかもしれませんよ」
「魔王様には悪いが、それは無理だと思う」
「何でですか?」
「先代も、先々代も、先々々代の魔王様も勇者との戦闘で命を落としている」
「おう……それは」
もう魔王の死因は勇者で決まりだな。何というか世界の意思を感じるよ。
「私は今の魔王様に死んでほしくない。だから、たとえ魔王様の意に反することになろうとも私は勇者候補を抹殺し、今後勇者がオストラントに送られてくることのないように勇者産出国であるこの世界とのつながり断ちたいのだ」
勇者産出国って、すごい単語だな。この世界の名産品の一つが勇者だったとは。
「ちなみにオストラントと最もつながりの濃い地に転移門を開いたはずだったのだが……。何故かおまえの部屋に繋がってしまったのだ」
「はは……そうなんですか」
「もしかしておまえ……いや、ないな。なんでもない」
「え、何ですか? なんかすごい失礼な話の切りかたしましたよね?」
「こんなヘタレが勇者候補なわけがないと思っただけだ」
「まあ俺はヘタレですけど」
あんたの本来の姿で睨まれただけで尿漏れ起こすほどの臆病者ですけど。
「ちなみに勇者候補を見つける方法とかあるんですか?」
「これといってはないが……強いて言うなら勇者は皆、強い信念を持っている。どんなことがあろうと揺るがぬ意思、あるいはその片鱗を持っている。私はその心の持ちようが勇者の候補たりえる条件だと思っている。最もこの世界の人類で最初に迷わず魔王軍の軍門に下ったおまえはあり得ないだろうがな」
「……うるさいですよ」
そのことはちょっと気にしちゃってるんですから、蒸し返さないでください。
俺は、通学路でリオさんのこの世界に来た目的を知った。今後は勇者候補探しに協力させられるんだろうなと思いつつ、校門をくぐっていった。
そういえば美少女と肩を並べて登校しているというのになぜ男子どもの視線が突き刺さってこないんだろう。あれ、嫉妬と怨嗟に満ちたまなざしが見当たらないぞ、と思っていたらリオさんは認識疎外の魔法を使っていたらしいです。
しかもかなり強めにかけていたので、ちらっと見た感じだとリオさんに話しかけていた俺は、周りには独り言をぶつぶつしゃべっているように認識されているそうだ。え、ナニソレ。若干感じていたかわいそうなものを見るような視線はその所為だったのかよ! やめて! 俺はそんなアブナイ感じの子じゃないから!
早くも心が折れ掛かったが、まだリオさんが乗り込む学校生活は始まってすらいない。いったいどうなることやら。
またしても胃が痛い……。このままじゃ、ストレス性胃炎まっしぐらだよ……。
次回は新たなヒロインとなる後輩が参戦!……の予定。
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