3.俺が魔王軍の軍門に降った?フッ、それは人類のためにわざとそうしたのさ。だって、俺みたいな凡人を従えているうちは、魔王軍幹部はまともな情報収集なんてできないだろ?
なんか勢いで三話も書けたので投稿します。相変わらずの内容ですが、よろしくお願いします。
「なあ、ユウジンよ」
「すみません、俺の名前は雄二です。そろそろ覚えてください」
「そんなことより、これはなんだ?」
家を出てすぐそばにあった自動販売機を見たリオさんは興味深そうにしていた。
「自動販売機ですよ。リオさんのいた国にはなかったんですか?」
「そんなものはないな。ところでこれはどういうものなのだ?」
「お金を入れてボタンを押すと飲み物が出てきます」
「なんだ、ただの店か。しかし、売り子の姿が見えぬが……」
「いませんよそんなの」
「馬鹿な。そんなものどうやって売り買いするというのだ」
リオさんが怪訝な表情をするので、説明するよりも見せた方が早いと思った俺は財布から小銭を取り出し投入口へと入れる。すると投入額で購入可能な飲み物の下にあるボタンが光りだす。
「なんだ。光魔法か?」
「いや、ただの電気だと思いますけど……それよりも光っているボタンの中から好きなのを押してみてください」
「む……わかった。ではこれにしよう」
リオさんはホットのマッ○スコーヒーをチョイスしていた。それ、俺は甘すぎて途中で飽きちゃうんだよな。リオさんは全部飲み干せるんだろうか。まあ、残したとしても、リオさんの飲みさしなら喜んで俺が全部飲み干しますが。
ガコン、と音がして、リオさんの肩がビクッと跳ねる。
あ、今のちょっと可愛かったな。
ほほえましい気持ちで生暖かい視線を向けていると、それに気づいたリオさんに殺意の混じった視線で射抜かれた。
「……で?」
「あ、下のカバーを開ければ、買ったものが取り出せます」
リオさんはぶすっとした表情のまま、マック○コーヒーを取り出す。そして、缶を振ったり回したり、果ては思いっきり顔を近づけながら観察している。
「そんなに珍しいですか?」
「これは……どうやって開けるのだ?」
ああ、そういう事か。
「こうするんですよ」
俺はリオさんから缶を受け取り、タブを開けた。パキッという音がしてあの甘ったるい匂いが湯気と共に漂ってくる。
「どうぞ」
「あ、ああ」
リオさんは缶を受け取ると、訝しげな表情で中身を見た。
「何やら甘い香りがする泥水のようなものが入っているのだが」
「大丈夫です。それ、飲み物です」
「毒味せよ」
リオさんに缶を手渡される。ああ、こっちのパターンが来ちゃったか。この先攻パターンの間接キスは俺にうま味が一切ないんだよな。けどまあ仕方ないか。
思えば俺の間接キスは男どもには結構くれてやったことはあるが、女の子には初めてだ。いいよ。やるよ。俺の女の子との初間接キッスはリオたんにくれてやるよ。ハア、ハア。
「……何をしている。早く飲め」
「すみません」
グビリ。喉が音を立てて、甘ったるい液体を流し込む。味わうまでもなく口内に広がる破壊的な甘さはさすがの一言だった。
「美味ですよ」
「そうか」
俺が缶を手渡す。リオさんは受け取るなり、一気に煽った。そしてあまりの甘さに吹き出し、それを俺が全身で浴びるという妄想をしていたが、それは現実のモノとはならなかった。リオさんは普通にむしろ夢中で飲み干していた。
「これは……何と素晴らしい。ここまでひたすらに甘さのみを追及するとは……美味だ」
「さいですか」
どうやらリオさんはかなりの甘党らしかった。残念。
「もう二つほど買っておけ。魔王様への献上品とする」
「今買うと冷めちゃいますよ。元いた世界に帰るときに買えばいいのでは?」
「む、それもそうだな。……では一つだけ買っておけ」
「え、今ですか。もしかしてコレ、気に入っちゃんたんですか?」
「うるさい。つべこべ言わずにおまえは私の言われたとおりにしろ」
「はいはい」
って、簡単に言ってくれるけど、買うためにはお金が必要だからね。これ、俺の貴重な身銭だからね。
再び自動販売機にお金を入れて、同じものを買う。リオさんは缶が出てくるとすぐさま手にとり、一瞬顔をほころばせた。うん、俺はこの一瞬の笑顔のためにお金を払ったんだ。そう思うことにしよう。
それから、商店街へと繰り出す。すでに時間も時間なので、半分くらいの店が、店じまいを始めていた。うちの街は昼間の主婦層やご老人がメインターゲットだからね。店じまいも早いんだよね。
「なるほど、この国の市もそれなりにものがそろっているではないか。あいにくすでに閉まっている店もあるようだが」
「そうですね。何か興味を惹かれる店とかありますか?」
「あれ、だな」
リオさんが指をさした先にはケーキ屋があった。本当に甘いものが好きなんですね。可愛らしい趣向でいいと思います。
リオさんに促されて俺たちはケーキ屋へと足を踏み入れる。店内には本日の売れ残りがずらりと並んでいた。あ、まだモンブラン残ってるじゃん。ここのモンブランはちょっとビターな感じでおいしいんだよね。まだ残っていたのはうれしい反面、俺のフェイバリットなスイーツが売れ残り扱いという事実が少し悲しくもある。
「それで、何か欲しいのはある?」
「どれも食してみたいな。おい店員。残っているものをすべて包んでくれ」
「やめてえええええ!?」
俺は店員さんに必死で制止を呼びかける。
「なぜ止める。ここにあるものはどれもおいしそうではないか」
「それはそうだけど。お金が……」
「そうか。金がないのか。……おい店員。足りぬ分はこいつが身体で返す。それで構わぬか?」
「いやそれ、俺が構うから!」
ちょっと店員のおばさん、僕の方を見て悩まし気な表情をしないで。ていうかあんた左手の薬指に指輪嵌めてるよね。思いっきり既婚者ですってアピってるよね。俺、そういうタダレタ関係はよくないと思うの。
「申し訳ないわね。ちょっと今人を雇うだけの余裕がないのよ」
「そうか」
ああ、なんだ、身体って労働の方だったの。ごめんなさい。勘違いしてました。あらぬ疑いをかけてしまい申し訳ありません。お詫びにケーキは買っていきます。もちろん一人に一つだけですけど。
「別に労働に限らず好きにしていいのだぞ?」
「あらぁ……そうなの?」
ちょっと店員さん!? そこで俺を見て頬を赤らめないで!?
「冗談よ。おばさんもう結婚してるからそういうのはダメ。それに彼女さんもあんまりそういうことは言うものではないわよ?」
「こいつは私の部下だ。それ以外の何物でもない」
「そうなの」
店員さんはちょっと訝しむような表情をしたが、それ以上はあまり深く突っ込んでこなかったので、ケーキ屋ではこれ以上の騒動となることはなかった。俺はモンブランを買い、リオさんにはショートケーキを買った。店員さんがおまけでシュークリームをくれたりしたので感謝の言葉を述べて、俺たちは店を出た。
「ケーキを早く食してみたいのだが」
「じゃあ、今日のところは家に帰りますか」
「うむ」
リオさんは頷くと踵を返し、来た道を戻り始めた。
って、ほんとに帰っちゃっていいの? なんかこの国の文明とか、戦力とか知りたいとか言ってなかった? 結局マック○コーヒーの味と、商店街のケーキ屋のラインナップしかわかってないよ?
まあ、今からこの街歩いてもそんなに有意義な情報収集にはならないと思うし、別にいいか。
むしろこうやって魔王軍とやらの先鋒を停滞させている俺って、実はこの世界の英雄なんじゃないだろうか。
そうだ、俺は人類初の裏切り者じゃない。敵に寝返ったふりをしているだけのスパイだ。今日みたいに魔王軍の先鋒を惑わし、情報かく乱することで、人類に貢献しているのだ。
「おい、もたもたするな。消すぞ」
「すみませんすみません急ぎますから消さないでください」
これだって演技さ。奴に従順な様子を見せ付けて油断を誘っているに過ぎない。
……と、思うことにしよう。
こうして、俺とリオさんの初めてのデート(?)は終了した。
次話掲載予定は不明です。今週は忙しくなってしまうので、もう一つの方の小説を進めるので手一杯になりそうな気しかしないです、すみません。平日中に一話出せるか……あるいは、土日になってしまうかわかりません。
あ、とりあえず次回は雄二の母さんを出す予定です。
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