3. チョコの日
本編後の神楽坂くんとテンちゃんのちょこっとしたお話です。
特別期待していたわけじゃない。だとしてもこれはひどい、あんまりだ。恋する男の子に、神さまは冷たい。
二月の中頃。
授業が終わって帰り支度をする神楽坂のところに、テンがやってきた。
「なあ、神楽坂」
「どうした? 南條」
「今日、なんの日か、知ってるか」
「……あ、ああ。まあ知ってるぜ、そりゃあな」
「そうか」
テンは言ったきり、神楽坂を見つめるだけだった。たっぷりの沈黙を挟む。
耐えかねて神楽坂は言う。
「……あのさ、今日ってバレンタインデーだよな?」
「うん。そんなような名前だったな」
「……じゃあ、その、えっと」
「うん、……?」
「……???」
「なあ、黒はね、神楽坂のヤツ、チョコくれなかったぞ。結構粘ったんだけどな」
「あああ、神楽坂さん……きっと今頃泣いてますよ」
「なんで神楽坂が泣くんだ、悲しいのはチョコがもらえなかったあたしなのに」
「いやまあ、そうなんですけどね……つまりその、バレンタインデーというのはそもそも……」
次の日、放課後、教室。
「おい、神楽坂、昨日は悪かったな」
「い、いや、いいんだ南條」
神楽坂は力なく笑った。南條がどんなヤツかなんてよく分かっていたのに、無用な期待をした自分が悪かったと、そう思っていた。
と――。
「ほら、これ」
「……南條? これって」
「チョコだ」
「い、いいのか? 俺に? 俺にくれるのか?」
「ああ、やるぞ」
「マジで? すげー嬉しい! 大事に食べるよ」
神楽坂はただその喜びを噛みしめた。
「なあ、神楽坂」
「うん? 何?」
「あたしにもなんかくれよ」
「ああ、勿論ホワイトデーにはお返しするよ!」
「ほわいとでー? そんなのいいから、今くれよ、チョコ」
「今? でも俺、なんにも持ってないし……」
「そんなことないぞ、神楽坂。今手にチョコ持ってるぞ。あたしそれでいい。くれ」
「えっ……でもこれは……」
言いよどむ神楽坂。
「くれないか」
真剣な顔の南條。それを見て、彼は観念した。
「……うん……あげる」
「なあ、黒はね、今日へんてこなことが起こったんだ……」
「ええ、分かってますよ、分かってます。後でちゃんとフォローしておきますから、安心して、そのチョコ食べて下さい」
Give me chocolate.