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七:みせません

 ざあざあ降り続ける雨。

 容赦ない雨をしのぐことさえできない、ミカフツの古びた屋敷。

 

 ミカフツはひとまずシロを風呂に放り込んだ。

 小物の妖怪たちから逃げ、屋敷に戻ったのだ。苔男を呼び出し風呂を沸かすよう命じたあと、ミカフツはいったんお山の方へ戻った。愛用の傘を取りに行くためだ。

 

 好奇心旺盛な子供の妖怪たちが、穴だらけのミカフツの傘を興味深そうにあちこちとさわっていたのを、ミカフツが無造作にふりほどいた。


 屋敷に再び帰って来たときには、すでにシロは風呂をすませていた。

「寒くはないか」

 そう聞くとシロが無言でうなずいた。せめて「はい」くらい言うかと思ったが、その期待ははずれた。


「あ、旦那」

「よぅ。俺のいない間にしゃべったか、チビは」

「いえ一言も。

 あ、それから部下に、四方津神のみなさんをつれてくるよう伝えました。もうそろそろ来ると思います」

「おぉよ、手間をかけるな」

「いえいえ。厨房かりていいっすか? お茶をお出ししますが」

「頼むわ」

「そん前に旦那」

「あん?」

「旦那も風呂はいったら?」

「……そうするわ」

 雨水をたくさん含んだ着物から、ぽろぽろと滴がしたたり落ちていた。


 苔男がさっと湯を張り直してくれた。

 ミカフツは静かに湯船につかる。風呂場は屋敷の奥に位置しており、丸く開いた窓から夜空をのぞくことができる。

 ガトーたちがこちらに来るまでのんびりつかっていよう。いつもの強面がややゆるんだ。


 それをうちやぶるように、苔男の大声が響いてきた。

「ああっ、ちょっとシロちゃんだめ! お風呂は今旦那が入ってるから! 着物濡れちゃうから! 着てても旦那に食べられちゃうから!」

 なんだぁ? といぶかしげにそちらを見やる。

 これにはさすがのミカフツも動揺した。

「おまえ……っ!」

 着物のすそをたくしあげたシロが、布を持って立っていた。

「ちょっと待て……! おま、風呂入っただろ!」

 シロは首肯する。

 桶に張った湯で布を浸した。ちょいちょいとミカフツに手招きする。

 その動作でミカフツはシロの本意をようやく悟った。

(二度風呂じゃなくて……背中流すってことか?)

 苔男も気づいたようで、シロをなだめるように風呂から出そうとあれこれまくし立てる。

「シロちゃん、旦那の背中なら俺が流しとくから、シロちゃんはあっちで待ってていいんだよ。四方津神の方々のお迎えもしてほしいし、お茶の用意も手伝ってほしいし」

 それでもシロは動かない。ぶんぶん首を横に振る。黒い目に潤みが増し、頬が赤らむ。

 これは言っても絶対にゆずらないだろう。

 ミカフツはあきらめた。


「わかった。好きにしろ。おい苔野郎、あいつらが屋敷についたら客間に通せ。終わったら俺もすぐに行く」

「へぇ……、承知しましたが……。旦那、間違ってもシロちゃん食べないでくださいよ?」

「じゃあ代わりにてめえが食われるか?」

「あっ、すいません。俺なんて食ってもうまくはないっすよー!」

「ああ、泥水の味とかしそうだしな、俺も食いたくねえ」

「ひど」

 苔男はすごすごと浴室から消えていった。


 ミカフツはいったん湯船からあがり、シロに背中を預ける。

「たのむわ」

 そうこぼすと、緊張したシロの顔がややゆるんだ。

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