五:雨の日の散歩
雨は降り止まない。来る日も来る日も天気は晴れに戻らなかった。
日課の散歩を邪魔されるのがしゃくになって、大雨にもかかわらずミカフツは外にでていた。
苔男から知らされた情報は、その後すぐにほかの四方津神にミカフツが告げた。
ただごとじゃないねえ、と全員が同意していた。が、この大嵐をどう対策すべきかと問われて、具体的な提案ができるものはいなかった。
原因たる外の神がなにものなのか、くわしいことはわからない。苔男が新たな情報を得てくるのを待つしかない。
たとえ強い相手であろうとも、ミカフツはこの大嵐に屈するつもりはなかった。この不穏な空気の正体がわからない不気味さはつねにまとわりついていた。
それでも正体をつかめたのなら、あとは力任せにつぶせばいい。少なくともミカフツはそう思っていた。
本来なら今すぐにでも握りつぶしたいほどだったが、ガトーにいさめられておとなしくしていた。
雨をながめるのが好きなアマネでさえ、連日の雨には参っていたようだ。せっかく整えた髪がいたむとか何とか言っていたが、女の髪型などミカフツにはわかりようもない。
穴だらけの傘を差して、ミカフツは屋敷を出た。
水をふくんだ土を踏みしめると、草履に湿っぽい感覚がつたわってくる。
雨音は激しさを増す。穴を通して雨がミカフツに当たって着物や髪をぬらしていく。
天気が雨であろうと曇りであろうと、雪でも晴れていても気が向けばおかまいなしに外をぶらぶらしていた。
このお山には良くないものがすみついている。そのせいでお山の住人たちの気性もあれている。普段穏やかな性格の者でさえ、その気配はぴんとはりつめていた。
気を抜いていると住人たちの牙にくわれる。普段張りつめた気をゆるめてぶらぶらするのが良いのに、ゆるめた直後にお山のものたちの手にかけられるというのは何という皮肉だろう。
じゃっじゃっ、と土を踏み続けていたため、もう足は水に濡れまくった。不快感が足首までと届く。帰ったら風呂をわかそうと誓った。
(あの白いのは、今日はアマネんとこか?)
偶然居合わせたライの話では、シロはガトーとアマネの屋敷に行ったりきたりしているということだった。しばらくミカフツはシロの姿を見ていない。
自分に捧げられた供物だから面倒を見ると言っていたのに、結局ものわかりの良さそうなガトーとアマネに任せっきりになってしまった。
言葉に責任が持てず、ふがいなさにひとりミカフツはいらだちをつのらせる。
自然と足取りも乱暴になり、どんどん深い道へと進んでいく。
光が弱くなりつつある奥の方へと、ミカフツは気づかずに進む。
夜目がきくから、暗がりにも気づかない。
後ろから誰かが追ってきていることも、まだ気づかない。