三十五:ミカフツの一手
ライの雹はミカフツにとって脅威ではない。夏場に肌を刺してくる虫のほうがやっかいだ。
目的は祟り神の無力化。それは変わらない。
ライの攻撃に気をつけていれば祟り神の相手は難しくない。
祟り神はライの執拗な攻撃に手一杯であり、新手のミカフツにかまっている余裕がないのだ。
それに気づいたミカフツはライをおとりにしながら、確実に祟り神へ近づいていく。
力の制御にいまだ惑う祟り神相手なら、じっくり時間をかけて吸い取れば当初の目的は果たされる。
なぎ倒された木々とライの雹に隠れる。祟り神がまれに視線を泳がす。
ライの攻撃とミカフツのやり方。ライに至ってはさんざん追いかけ回されているから予想はできるが、ミカフツはまだ打って出ないために祟り神にとっての弱みでもある。何をしかけられるかわからない。その不安が祟り神を泳がせる。
ライの雹と雷を軽くいなす祟り神の背後まで、ミカフツは近づいた。相手はこちらを意識しつつも手を出すほどの暇がない。
なればこれは好機である。
ミカフツは迷わず飛び出した。一歩で届く距離だった。
祟り神の襟首をつかみ、そのまま後ろへ強引に引きずりおろす。
「ぐっ」
祟り神の顔が驚愕にゆがんだ。
雹だらけの地面に組み敷いて、祟り神の首根っこをつかみなおす。
背中に雹がびしびし刺さったがミカフツはこの際無視した。
「あぁ!? ずるい!」
「うっせー! ちょっと黙ってろ!」
ライの不満声も聞く必要はない。
ここで祟り神の力をすべて吸い取ればミカフツの勝ちだ。
集中しろ。意識して呼吸を行え。ミカフツは自分に言い聞かせる。
これで終わらせて、さっさと帰るのだ。大嵐続きでまともにできなかった散歩を再開するのだ。供物を取り返して、退屈な日々を取り戻すのだ。




