三十三:逆転の風
「お?」
祟り神の目の前からシロが消えた。
強い風がやむころには、四方津神がそこにいた。
「あれ……?」
シロは何かに抱きしめられている感覚を覚えた。なんだかこの感覚は懐かしい。
「無事かい、シロ」
「アマネ様!」
「待たせたねえ、ようがんばったよ」
「お待ちしておりました……!」
アマネをかばうようにしてガトーが祟り神とシロの隔たりとなる。
「なんと」
祟り神が半眼でガトーをにらむ。穏やかな眼差しのガトーがそれをにらみ返した。
「私のごちそうを……」
「シロを食べる気だったのかい? それは見過ごせないね」
「かけらをちょっとかじるくらいだったのに」
「かけらもだめだね。こんなかわいい子に歯を立てるなんて……」
「手厳しい」
おっと、と祟り神は一歩後ろに下がる。
シロをかばうようにしてアマネ、立ちふさがるガトーのさらに前へ、祟り神の目と鼻の先に空から何かが降ってきた。
「よお」
ぶわっ、と風を発して着地する。すっと立ち上がって楽しそうな目つきを祟り神に向ける。
「もう一度戦りあおうや」
きひひっ、と甲高い笑い声を吐き出して、ライがすでに祟り神にくってかかっていく。
祟り神は素早く繰り出されるライの足技を軽くいなしていく。
ライの連撃は休むことなく続くが、祟り神にたった一撃でも当たる気配は感じられない。
祟り神が反撃することも今はない。
見くびられているのだ。本気を出すほどの相手ではないと。
だがライはそれに対して怒りを覚えない。それどころか気分は高揚している。
もっと本気を出してもいいのだ。手加減する必要はないのだと、祟り神が証明してくれているようなものだから。
「派手にやろうやぁ! 好きに暴れるぜぇ!!」
「ほ、何ということだ」
祟り神はふっと息を吐いた。吐息が煙りになり、ライの繰り出す技を防がせる。
煙はライの手足にからみついて衝撃を吸収する。するっと受け流してあちらへこちらへ、ライを適当にあしらっている。
「おいおい、すげえじゃねえの! まるで手応えないじゃん!」
ライは煙を振り払った。
祟り神から一歩下がって深く一呼吸おく。
「もっともっと派手にやっていいんだな!
だったら全力の全力出すわ!!
ミカフツ! ガトー! シロが巻き込まれないようにしっかり守っとけよぉ!!」
ライの両手に光がきらめく。一閃がいくつも生まれてほとばしる。
雷が、ライの手に集まってくる。
ミカフツは、うわあ……と顔を苦くした。ライは祟り神をつぶすことだけを考えている。こちらはシロを守らなければならないということを忘れている。忘れていると言うより、考えから捨てている。
「シロ、アタシから離れちゃだめだかんね」
「は、はい……。あの、ライ様は何を……?」
「ライは雷の力を借りることができるんだ。雷とか、あとは雹もだな。
ただアマネみてーにしっかり制御はしない。好き勝手暴れるから、こちらに雷がこないとも限らねえ」
「まあ心配いらないよ。ライと祟り神の攻撃は、私が防いであげるからね」
「その取りこぼしを俺が弾く。シロはじっとしてればいい」
「ミカフツ様がそう仰せなら……」
ミカフツは満足そうに笑う。
「うむ、いい子だ」




