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三十:ねらいはさだまった

「白の一族を食わせる、ね」

 ガトーは苦い顔でつぶやいた。苔男の残した情報には確かに一つの方法がまぎれていた。その方法を使えば祟り神を撃退することは可能だろう。


 が、それを行えばシロを失うことになる。ガトーだけではない、ミカフツもアマネも、ライもその事態を避けたかった。そのためには、苔男の情報をもとに少なくとももう一つの方法を探す必要がある。


「シロは……体の一部を食わせて敵を弱体化させる力を持ってるわけじゃあ、ないんだよね?」

「あー、多分な。シロはせいぜい近くにいる奴の力を鎮めるくらいだ」

「てことは、シロを戦いの中におかなきゃならないってこったろ? 巻き込まれる可能性があるよ」

「そこはあれだ、姉さんのさ、羽衣で包んじゃえばいいんだ!」

「羽衣っつったってねえ……アタシの羽衣だって完全防御ってわけじゃないんだよ」

 アマネの羽衣には加護が働いており、外敵からの脅威をある程度取り払ってくれる。刃に矢に雨に風、炎や雷もすっと受け流し防ぐことができる。が、その力にも限度がある。あまりに強大すぎては受け流しきれない。

 祟り神の力もしかり。これを受け流そうとしても大けがはまぬがれない。

「でもないよりゃマシだろ? 姉さん動きが軽やかだから、シロを抱えて避ければいけるって」

「んな簡単に……」

「最悪シロの加護がなくてもいいよ。オレとミカフツなら、一発か二発くくらいは耐えられる」

「祟り神にぶちのめされてさっきまで寝てた奴がよく言う。あと俺を巻き込むな」

「ん? ミカフツは祟り神がこえーのー?」

「うっせえ。まじめに考えろ。

 ……だがアマネにシロを任すってのはいいな。羽衣がもしもの時に役立つ。ライにあおられたわけではないが、俺とライは三発までなら耐えられる。ガトーはまあ、平気だろ」

 ミカフツはうかがうようにガトーを一瞥する。

「私は何もなくてもいけるよ。祟り神の力を受け止めることはできるけど、アマネやおまえたちほど素早く動けないからね」

 ガトーの役目は主に壁だ。脅威をすべてその身に受け止める。まさに鉄壁の体を活かした役割ともいえるが、その図体を素早く動かすことができない。

 そして前に出て暴れ回るのはライとミカフツの役割だ。後先考えずつっこんでいくライと、取りこぼしや後かたづけをするミカフツ。役割はそれぞれしっかりと振り分けられている。ゆえに誰かひとりでも欠けてはいけないのだ。


「じゃあ具体的に、どうやって祟り神を倒すんだい? シロの力が働いていれば、祟り神を無力化することはできようけどさ」

「シロがいればいいんだろ? 姉さんとガトーががんばってる間にオレとミカフツでぶんなぐればいける」

「うんうん、もう少し詳しく教えてもらえる?」

「ガトーが壁、姉さんはシロだっこしてかわして、オレとミカフツで祟り神を殴る」

「アンタに聞いたアタシがアホだったよ……」

 アマネは本気で頭を抱えた。


 ライとアマネの言い合いを横で聞き流しながら、ミカフツはガトーを巻き込んでそれなりに戦い方を意見してみた。

「ライが派手に暴れ回るとすれば、シロにも被害が及ぶかもしれねえだろ? ガトーにはライの攻撃がこっちにくるのを防いで欲しいんだ」

「いいよ。あんまり動けないけど、シロの盾になるなら、動き回る必要はなくなってくるね。そのかわり、おまえは自分で自分の身を守るんだよ」

「わーってる」

「まあ防ぐは防ぐでこちらのやることは決まったけど。

 祟り神の力は未知数だよ。シロの力で祟り神を弱らせることができたとしても油断はならない」

「そこだよな。そこは戦ってみなけりゃわからん。……まあ、一発くらいなら当たっても治る。二発めは保証できねえけど」

「なるべく当たりたくないもんだねえ。行き当たりばったりってところか」

「最初は奇襲をかけよう。不意打ちくらえばさすがの祟り神もすぐには対処できない。そこをついてライに好き勝手暴れさせる」

「ライも納得の役割だ」

「その後でアマネがシロをこちらがわへ取り返す。あとは俺らと適当な距離をとりながら、俺とライで祟り神を相手する。ガトーは俺らとアマネの間に入ってひたすら壁だ」

「そうしよう」

「あっこら! アタシにライを丸投げしといて、アンタらで作戦会議ってかい?」

 そうはさせるか、とアマネがライの襟首をつかんで割ってはいってきた。

「なあなあ、オレは好きにしていいんだろ?」

「構わんが、シロを巻き込むなよ。それさえ守れりゃ祟り神との喧嘩はゆずってやる」

「わかった!」

「絶対わかってないよこれ」

「まあいいんじゃないの。仮にわかってなかったとしても、私とアマネでシロを守ればね」

 半ば諦めたガトーがそうこぼす。

「ミカフツは?オレにやらせといていいとこどりしたら許さねえぞ」

「やんねーよ。おまえに譲る。


 祟り神を叩きのめして、完全に力を失ったら、その神力を俺が吸い取る。それで祟り神の力は完全に無力化できる」

「はあー? いいとこどりじゃねえか!」

「うるっせえな! 他の神の力を自分の中に取り込むのは結構繊細な作業になるんだぞ! 針の穴に糸も通せねえようなおめえじゃ吸い取る途中で体破裂するわ!」


 荒荒しい神を鎮めるための策はいくつかある。

 そのうち一つは祀ること。おそれと敬意でもって社に祀れば、自然と荒々しい神々の脅威は穏やかになっていく。

 さらに一つは封じること。これは四方津神の統べるお山に封じられていた祟り神がこれにあたる。脅威的な力を無理矢理押し込める形になるのだ。


 そしてミカフツが言ったもう一つの策、それが力を吸収すること。

 封じも祀りも効かず、退治することもできない場合は、その神と同等の力を持った神によって、力を吸い取ることで鎮める。

 現状、お山で祟り神とかろうじて互角なのは四方津神だけだ。

 その中で相手の神力を吸収することに成功しているのは、どういうわけかミカフツだけだった。繊細な作業が得意なアマネは何度ためしても失敗した。ガトーの身体構造は、他の神の神力を吸収して自分の力に昇華する器官が鈍い。ライはいわずもがな、そんな器用なまねができない。下手をすると吸収に失敗してライの体が吹っ飛ぶ。


 憎たらしいというか騒々しくてめんどうな四方津神だとは思うが、それでもライがばらばらにぶっ飛んで死ぬのでは寝覚めが悪い。

「派手に戦わせてやるんだ。後始末する必要がないと考えてくれ。

 いくら暴れても構わん。シロに手出ししなけりゃな」

「ちぇー。しょうがねえなー」

 しぶしぶではあるものの、ライの同意は得た。

 さて、とミカフツは立ち上がる。 


「嵐は止んだ。空気が澄んで、生え放題だった木々もなぎ倒されてて視界も良い。

 今シロは祟り神と一緒に最奥の祠にいるわけだ。

 この天気が変わらないうちに、とっとと祟り神をぶちのめすぞ」


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