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二十九:食われし白の一族

 一日の時間という制約を受けながら、苔男はその約束を果たした。


 ミカフツのお屋敷へ戻ってきた苔男はくたくたになって今にも倒れそうだった。目を赤く晴らし息も絶え絶え、崩れた着物やほつれた髪を整える余裕もなく足がおぼつかない。


「持ってきました」

 やりとげた、という表情で口端をつり上げる。

 ライが無造作に苔男を支えた。

「あ、すんません」

「すっげぇへろへろだなぁ。どこまで跳んだんだぁ?」

「柄にもなく……お外を一通り……お山みっつくらい越えました……」

「よくやったよ……アンタ、さすがだね」

「これも報酬のためなんで……」


 四方津神の末席に居住まいをただす苔男を見て、ガトーは「休んでからでもいいよ」と声をかける。さすがのミカフツも声こそ出さないが、苔男が倒れるかもしれない可能性を見越して腰を浮かす。


「ちょっと、ふらふらじゃないか。まずアンタは寝な」

「いえいえ姉さん。情報お伝えしたら寝ますんで、へへ」

「……。わかった。でも危なくなったら奥の寝室にぶっこむからね」

「うっす」


 

「お山の中でもじゅうぶん情報はありました。あの祟り神を封じる方法はつきつめてみりゃ簡単なことです。


 白の一族……まあシロちゃんの生まれた血筋ですね。祟り神だけでなく、俺らのような神々や妖怪みてーな人間じゃない種族の力を鎮めることができるんですわ。


 シロちゃんにもそういう力は備わっていて、神々の力をひょろくさせられます。つってもどの神にも通用するわけじゃないようで、故郷を脅かすと判断した対象にだけ効くっぽいんですね。これはシロちゃん限定で、ほかの白の一族はわかりません。一族の子ひとりひとり力にいくばくかの差があるらしいんです。


 で、祟り神を過去に封じた俺らの祖先は、白の一族を味方につけたようです。

 その味方につけた一族なんですが……」

 苔男の言葉がきゅうにしぼむ。何だ、とミカフツが目で問うが、しばし苔男は言いよどんだ。

「言いにくいことなのか」

「その、残酷っつーか信じられない、やりかたで」

「いい、話してくれ」

「では。


 食わせたんですよ、祟り神に白の一族を」

 ミカフツの目が一瞬大きく開かれた。がそれだけだった。怒号を飛ばすでも苔男につかみかかるでもなく、重い腰を上げることはついぞない。


「続けていいっすか? ……いい?


 白の一族を供物と偽って差し出したんですよ。人間の中で一番うまい一族の肉だっつって。


 祟り神はそれを喜んで食った。食った祟り神は白の一族を体ん中に取り込んじまった。

 食われた白の一族は、体の一部を食わせることで神々の力を封じる型だったようです。それは髪の毛一本でも血ぃ一滴でも切った爪でも充分な効果を得られるんです。それを体全部っすよ。絶大なんてもんじゃない。

 祟り神は力全てを失った。


 その隙をついて、俺らの祖先はこれ幸いと祟り神を斬ろうとしました。

 でも祟り神もただじゃやられない。白の一族の体全部をつかっても祟り神の力を完全に落とすことはできなかった。


 祖先はかろうじて最奥の祠に封じたんです。あの祠ってもともとはふつうの祠だったんですが、祟り神が封じられてからじょじょにあんなまがまがしくなっちゃったということのようで。


 ……まあ要するに、シロちゃんを祟り神の近くにおくことで祟り神の力を損なわせ、その隙に俺らでもう一度封じる……」

「封じるじゃねーよ今度こそ叩きのめすんだよ!」

「ああ、はい……ぶちのめすんですね」

 疲労でふらふらの苔男はライによって肩を揺すられる。


「ぐへっ。……んでですけどもね、勝算はシロちゃんを祟り神のどの位置におくかにかかってます。俺は情報はお知らせできますけど、それ以外はからっきしなんで戦力とか頭脳とかはみなさまがたにおまかせします……」

 苔男は立ち上がってふらふらの体で奥の部屋へ進んでいく。見ていられないライは苔男を担ぎ上げて寝室へ放り投げた。

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