二十四:残し消える
「わたし……、祟り神様のもとへ参ります」
「な。何言ってんだい!」
アマネに強く手を引かれても、シロの気持ちは動かない。
「わたしが祟り神様と一緒にいれば、お山の大嵐はひとまずおさまります。
力をおさえきれるまでの間ということですから、一生わたしが祟り神様のおそばにいる必要はないということです。
もともとわたしは、ふもとの村の大嵐をしずめるための供物でした。だったら、祟り神様にお付き添いするのが、わたしの今やることです」
「そうは言ったって……」
かといって、アマネとガトーに止められる論はなかった。
戦いや荒事をとり扱うミカフツはお山から戻ってこない。ライは苔男に看てもらっている状態だ。
おもに頭脳でやりあう二柱は、祟り神を相手に戦える自信がない。
シロに祟り神の力を抑えてもらって、その間に対策を練るというのが、一番現実的な作戦だ。
そういう意味では、シロの行動は理にかなう。
シロを祟り神のもとへよこしたくないのは、四方津神の勝手な親心に近いものがある。そこに理性は働かない。ただの役立たずな自分たちだけが取り残される。
「シロの同意がえられたのなら、止める理由もあるまい。
それではシロ、こちらへどうぞ。屋敷もすべて吹き飛んでしまったから、ひとまず最奥の祠へいこう」
「は、はい……。でも、そこへは行くなと言われてて……。
祟られたりは、しないでしょうか」
「平気だよ。祠に封じられていたのはこの私だ。私の力を抑えるおまえは、私に祟られることはない。おいで、いっしょに」
「シロ……!」
シロは後ろを振り向いた。何もできず視線だけをよこすアマネとガトーが、視界に映る。
シロとて四方津神のもとを離れるのはいやだった。
だが、お山に連れてこられた事情を思い出して、この行動に踏み切った。
シロは祟り神に少しお時間を、と断って、二柱のもとへ一歩だけ近づいた。
「ガトー様、アマネ様」
「……」
「ミカフツ様とライ様を、おねがいします」
それきり、シロはむかずに祟り神と消えていく。




