十八:ミカフツとマガツキ
「ライ!」
ミカフツは反射で駆け寄ろうとして、アマネに即座に袖をつかまれた。反抗の目をその女に向けるが、アマネの方も揺るぎがない。
「よく考えて行動おし! 下手につっこんだら、アタシらも餌食だよ!」
言われてミカフツの熱が少しずつさめていく。落ち着きを取り戻したミカフツは、改めて状態をたしかめた。
泥に顔をつっこんで倒れているライの背中が、わずかに上下している。指先がびくっと動いた。ミカフツはほっと胸をなで下ろした。
目の前の子供は、全身真っ白だった。
何も気にせず祠に乗り、その表情は子供とは思えないほどの腹黒さを持っていた。
こちらを小馬鹿にするように口端をつり上げ、品定めをするかのような視線がミカフツに注がれる。
アマネはその子供ーーマガツキと周囲の瘴気に注意しながら、ゆっくりとライににじりよる。
マガツキや瘴気のご機嫌を損ねることはなく、アマネはライに触れることができた。
「アマネ、そいつ死んでるか?」
「生きてるよ。アンタさっきホッとしてたじゃないさ」
「いや、その後すぐ死んだかもしれないから、念のため」
「意地が悪いねえ」
アマネはライを抱き起こす。着物が泥まみれになっても気にしない。
泥水に濡れたライの顔には生気が宿っていなかった。呼吸はかろうじてしている。無造作に揺り起こしても、ライの口からはうめき声が漏れるだけだ。
「アマネ、そいつを連れて屋敷へ戻れ。戻ったら苔野郎を呼んで手当しろ。殺しても死なねえようなライだ、三日でもとに戻る」
「アタシが戻るとして……アンタは?」
「こいつにはいろいろと聞きたいことがあるんでな」
「わかったよ。お話に熱中しすぎて、暴れるんじゃないよ」
「言われるまでもない」
アマネは重たげにライを引きずり、最奥の祠から消えていく。
そこには、ミカフツとマガツキだけが残された。




