十六:マガツキ
大雨がたたきつけるその日。
ガトーの屋敷にミカフツ、アマネ、シロが招かれた。
その屋敷には、主のガトーとすでに招かれた苔男が待っていた。
「ええーっと、まず、こないだ祠に捧げられた……そのー、供物なんですが」
バラバラの死体、という言葉を避けた。シロをおびえさせることになる。
「供物……? また、誰かがいらっしゃったのですか?」
「ああ、いや、シロちゃん……えーっと」
口ごもる苔男の代わりに、ガトーが応えた。
「人間じゃないんだ。ちょっと腐りかけの果物だったんだよ」
「そうだったんですか。腐ってたら、食べられないですね……」
「そうだね。だから肥料にしたよ」
ガトーの方便を後ろで聞いていたミカフツの目はしらけていた。供物の内容を理解していたためだろう。
「あっ、申し訳ございません、お話、遮ってしまって」
「いやいやいいよいいよ。
そんじゃ本題に戻りますけども。
んん、その供物はシロちゃんのいた村から捧げられたものだとわかりました」
「シロの?」
「はい。これは推測なんですが、シロちゃんという供物を捧げても、村の被害はなくならない。供物が足りないと判断して、もっと供物を捧げたと思われます」
「わ、わたしが、ちゃんと嵐を止めなかったから……」
「これこれ、シロは何にも悪くないよ。アタシらはシロのおかげで助かってるんだからね」
アマネがシロを抱きしめてその小さな背中をなでる。
それを見て安心したミカフツは、苔男に視線を移す。
「で、嵐の元凶はどうだ」
「ええ、これは最近きた新しい神による仕業です。
どこからきたのかまではわかりませんでしたが、生まれたての赤ん坊の神です。
名前は『禍月』。お山での目撃情報をまとめて、見た目やら嵐を呼ぶ特徴やらから、最近名づけられたその神だということがわかったしだい」
「まがつき?」
「えぇ。神力は旦那方に匹敵するほど膨大です。でも生まれたばかりの子供だから制御を知らず、無自覚に嵐を巻き起こしてるんだと思います」
「この嵐を止める方法は?」
ガトーが穏やかに聞く。
「まあ、禍月がこっからでてってくれればいいんですよ。どっか遠くに飛んでっていけば、嵐も禍月についていきますから」
「出て行かなかった場合は?」
「禍月を封じ込めるか、神力を制御する何かをもたせるか、のどちらかですねえ。どっちを選んでもそうとう手間なんで、オレは追い出すのをおすすめしますけど」
へらへらと苔男は苦笑するが、その回答は至ってまじめだった。
「そういやさあ」
シロをじっくり堪能しながらアマネがこぼす。
「なんだよ、アマネ」
「ライは?」
「さあ、散歩だろ?」
ミカフツは適当に応える。
突如。
屋敷の外から、強い轟音が飛んできた。
「わっ!?」
轟音と強い振動にシロが驚く。
ミカフツは窓から外を確かめる。
遠くで、目をつぶしそうなほど眩い雷が現れていた。
そして暴風が太い木々をなぎ倒し、雨粒が容赦なく屋敷にたたきつけられる。
「何だぁ!? これもマガツキってヤツの仕業か?」
「いや、こんなにひどいはずじゃないっすよ!?」
「じゃあ何で……!」
ミカフツは言葉を切った。
嵐の根元はどこにあるか探った。
ミカフツの鋭い目は、すばやくその根元を見つけだす。
冷や汗がだらだら流れた。背筋がふるえた。
その先には、奥の古びた祠だったのだから。




