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十四:最奥の祠

 二度ほど崖から転げおち、三度ぬかるみに足を取られ、生傷と泥水だらけになること多数。

 ライは雨空から目を離さず、空に漂う羽衣のようなものを追っていた。

 追われている方はライのことなど気にもせず、ただ気ままに空を漂うだけだった。


 あれが大嵐の元凶かどうかは、今のライにとってはどうでもよいことだ。あれはミカフツと並ぶほどの実力があると直感していた。

 だからあれを逃したくはなかった。


 先回りし、ライは水たまりをびちゃびちゃと踏みとばす。雨の滴が顔にぶつかるのも気にしない。

 空を漂う羽衣が、一度だけライの方を向いた。ようにライには見えた。

「おっ」

 ライは声を漏らし、走る速度を少し上げる。


 羽衣が速度を緩め、空から降りてくる。ライの居る場所からは少し離れている。が、目を離さず走れば追いつく距離だ。


 ライの顔が輝く。生まれてこの方、お山の表から裏まで駆け回ってきたのだ。お山の地形は体が覚えている。


 鬱蒼と茂る木々をかき分ける。ちょっかいをかけてくる妖怪は片手で振り払う。


「よーし」

 羽衣が降りた場所の見当はついている。この林を抜けた先にある、誰も近づかない祠のところだ。

 このお山には、入り口のほかにいくつか祠が建っている。そのうちの一つに、お山の中心部かつ最奥に、乱暴な赤い字で書き殴られた無数の札で封じられたおぞましい祠があるのだ。

 妖怪どころか、四方津神でさえひとりでは訪れないその場所、ライは知っていつつもそこに足を踏み入れる。好き好んでやってくるのはこの男くらいのものだ。


 暗がりの木々を抜けた。

 相変わらず曇天の空に、降り注ぐ雨。辺りは薄暗く視界が悪い。


 ライの目の前には、最奥の祠が建っている。

 まるで恐怖と怒りを込めたような字を記した札の数々が、ぼろ板の祠にべたべた張られている。蔦が祠に絡まり草木は伸び放題。


 祠から、風の吹き抜ける音が低く生まれている。暗闇に吸い込みそうな音。シロがここに来たら絶対に大泣きする。ライはそう思った。


 誰も近づきたがらない祠を眺め、ライはその上に恐れ知らずも尻を乗っけている誰かへ視線を移した。


 純白の小さな子供が、眠たげな目でライの方を見つめていた。

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