十三:舞うは元凶、追うは四方津神
「つまんねえの」
大雨がめずらしく止んだその夜。ライは気ままにのんびりとお山をうろついていた。
ライはもともと退屈しのぎにお山の荒っぽい妖怪たちとあばれるのが好きである。不要な争いごとを避けるミカフツとはそこが違う。
そうして意味もなく気晴らしや気まぐれで体を動かして妖怪をのしていくことで、たちの悪い妖怪たちはライを恐怖する。
大嵐が巻き起こってからも、ライはその日課を止めることがなかった。今日も今日とて、視界に入るめざわりないたずら好きの妖怪どもを片っ端から吹っ飛ばしてきた。
「大嵐の大将降りてこねぇかなぁー」
足下にちらばる獣や妖怪たちは微動だにしない。
おもむろに暗闇の空を見上げると、半月が雲から這い出てきたところだった。雲が輝き辺りが照らされる。
「お」
思わず声が漏れた。何も考えていない脳が筋肉でできているような男でも、月夜には何かしら感じ入るものはあるらしい。
ぼおっとその空を眺めていると、奇妙なものが漂うのを見つけた。
「なんだあれ」
羽衣が風に揺れ、柔らかそうな着物をまとった小さな物体が、月の前を通り過ぎていった。
遠目で眺めただけだから確証はもてない。だがライは野生の勘のようなもので、そらを泳ぐ正体不明の何者かから、自分の退屈を吹き飛ばしてくれるような雰囲気をかぎとった。
片手でひねりあげられるような雑魚ではない。かつてミカフツで味わった戦闘の快感を、もう一度味わわせてくれるにちがいない。と。
自分と互角にたたかえるのは四方津神のものくらいのものだったから、ライはずっとそんな相手を求めていた。
目を輝かせ、「きひひっ」と笑い声を上げて、ライは走る。




