十二:一番こわい四方津神
激しく降る雨の中。アマネは不機嫌そうにお山の森を歩いていた。
傍らにはのんびりとした歩調のガトーがいる。
「どうしたもんかねえ」
端正な顔をゆがませながら、ぬかるみに散らばる妖怪たちの体をけ飛ばす。死んではいない。背後から襲いかかってきたから叩きのめしただけのこと。
「どうしたもこうしたも、件の嵐が原因だよ、アマネ」
「そりゃわかってるさ。それにしちゃずいぶん気が荒くなってるねえ。ただの大嵐だろ? アタシにならまだしも、このお山で一番怖いガトーにまで飛びかかってくるなんて……正気を失ってるね」
ここ数日、お山の妖怪たちの気性は格段と荒くなっていた。大嵐が起こってからというものの、ろくに外出もできなくなった。
だれかれ構わず、妖怪たちが襲いかかってくるからだ。
力のある四方津神であれば問題ないが、シロや戦いに向かない苔男にしてみれば、日常の生活に大きく支障がでる。
特にミカフツはシロを口には出さねど心配しており、シロが外へ出ようものなら「俺も行く。連れて行け。荷物持ちになってやる」といいわけを考えてついて行くのが日課になった。
本日のガトーとアマネは、苔男が原因にたどり着くための手伝いをするために、外でのした妖怪たちから情報を聞き出すことにしていた。
いずれも小物の妖怪たちだったため、ふたりは特に苦戦することもなく、片手であしらう程度だった。およそ十数体の数に頼った奇襲もさほどではない。
「何も聞かせてもらえなかったねえ」
やれやれだー、とガトーはため息をつく。
小物妖怪たちは、四方津神のガトーとアマネを相手にしても、決して口を割らなかった。
何かにおびえるように、断固として黙秘した。
「ライをつれてくるべきだったかねえ」
「いやぁ、それでも黙ってたと思うよ。あの恐怖具合は相当だったからね」
「ちょいと脅せばすぐにしゃべってくれると思ったんだけどねえ」
「ということは相手が私たち四方津神よりも強大でとてつもないってことだよ。いよいよ大嵐の解決が難しくなってきそうだね」
「あてがはずれたね。アタシらは帰ろうか」
「そうしよう。帰ってシロにおとぎ話きかせたい」
「またそれかい」
アマネは苦笑した。




