序:雷鳴と共に捧ぐもの
雷鳴とどろく逢魔が時。何人かの男と女が、ぼろきれにくるんだ何かを小脇に抱えて歩いていた。
その顔けわしく、決しておだやかではない。じきにあたりが暗闇に包まれるだろう。その前に、すべきことを終わらせねばならない。でなければ、自分たちの身が危うい。
ぼろきれにつつまれたそれは、ときどきじたばたと暴れる。中身は動物だろうか、それとも人だろうか。
雨がぽつぽつふってきた。ぼろきれを運ぶ彼らの足が自然と速くなる。
うっそうと生い茂る林の入り口の少し奥。朱塗りのところどころはげた鳥居の端を、一度深く頭を下げてからそろそろとわたる。
その先は苔むした石造りのほこらが、静かにたたずんでいる。彼らの目的はそれだった。
「どうか」
一人が声をしぼり出す。抱えていたぼろきれを、ほこらの前にそっと置いた。
「どうか、お恵みを」
その場にいた全員が、地に頭をすり付けて祈った。手入れの忘れ去られた祠に、最大限の畏敬を振りまきながら。
「どうか」
ひとしきり祈りたおすと、彼らはやっと立ち上がる。鳥居を出て一礼し、住処へと戻っていった。
その途中で、一組の男と女が、そろっと振り向いた。祠の前に置いて行かれたぼろきれの中身を案じるように。
「あの子を、あのこが大きくなれるように」
女の方がとっさに顔を細っこい両手でおおう。男が女の肩に手をそえた。
雷鳴とどろく雨夜が過ぎさった翌日。
祠の前のぼろきれは、姿を消した。