目覚め
水の中を浮遊するように死してなお生きる。
氷の割れる音がする。目覚めはあと僅か。光の眩しさに困惑しながら、紫色の双眼を開く瞬間を待っている。何百年前の空気を取り込んだ肺に、また新しい空気が入って来るのを心待ちにしている。体温は上昇、血液が循環する感覚。ゆっくりと覚醒する脳からの信号を受け取り、ようやく手足を動かすのだ。歩き方がわからず転んでしまうかもしれない。そんな恐怖は一瞬にして消えるだろう。目の前の美しい風景へととけ込みたいがために。その絵画のような風景のひとつになりたいがために。
未来よ、あなたは生きているだろうか。信じてこその未来だと、夢見てこその将来だと。信じて疑わぬようにいようと。ひらめく瞬間、風にさらされたスカートはまるで未来へと向かっているようだ。生きるのは一瞬。風は永遠。ひらめくスカートは未来への可能性。
目覚めのホットコーヒーにしかめっ面をしたのは苦さから。砂糖の甘みは嫌いだから、ミルクのまろやかさで誤摩化して。晴れの日は美味しくないから雨が降れと願う。雨が降れば美味しいコーヒーが目覚めを待っている。崩れた目玉焼きは黄身が固まったまま動かない。割れたブロッコリーは小さな怪獣。口に含めば粒子が散布する。
何かに追われて幾星霜。地球が生まれて幾星霜。終わるときが来た。
私が目覚めるときが来た。