グラン・プティ
ここ最近、悠樹は、護のことを強く想うことが多くなった。
授業中だろうが、家にいようが、それは変わらない。
自分にとってみて、ここまで人のことを想う日が来るなんて、悠樹は、これっぽっちも思っていなかった。それもこれも、青春部のおかげだ。
悠樹は、最初から青春部に入っていたわけではない。
悠樹は裁縫が好きだったため、一年の時は家庭部に入っていた。
しかし、いかんせんメンバーが少なく、秋になって三年生が引退すると、悠樹一人になってしまった。
そこにやってきたのが、杏と佳奈であった。
杏の話はこうだった。「作りたい部活があるんだけど、この部屋……、貸してくれない? 」と。
これが、悠樹と杏とそして佳奈との出会いだった。
悠樹自身、裁縫さえ出来るのであれば、部活なんてものはどうでも良かった。だから、杏の案に乗ったのだ。
こうして、青春部は出来上がった。それから成美と渚が増え、学年が上がったところで、新たにメンバーが増えた。
まぁ、裁縫をする時間は減ってしまったものの、護と話している時間、他の皆と話している時間、というのは面白く、楽しいものである。
……感謝……。
あの時、杏がいなかったら、今の自分、護を好きでいる自分はいなかった。そう思うと、杏に対する感謝の気持ちが湧き上がってくる。
……でも、ライバル……。
感謝の気持ちはある。だからといって、譲るわけにはいかない。
護を振り向かせるために何が出来るのか。何をすれば良いのか。考えたところで、そういったものはすぐに思い付かない。
自分にとって護というのは、そばにいてくれるだけで落ち着く。気分が安らかになる。そうとも言える存在。護もそう思ってくれればと、悠樹は微かに思う。
……チャンスは生かす……。
一人長くても一時間。
この長いようで短いような時間は、それぞれ自分達に与えられた貴重な護との時間だ。無駄には出来ない。
この時間をどう使うかによって、護の中における自分の立ち位置が変化するかもしれない。少なからず、心愛、渚、薫は、そのチャンスをきちんとモノにしてきたように感じる。
特に、薫。護の表情から察するに、何かあったのだということが分かる。
それが何かは分からない。だけど、護を大きく揺さぶったものなような気がしてならない。
ようするに、薫は、与えられた一時間で、護の中に何かを確立したということになる。
……まずは水着……。
本来の目的は、護に水着を選んでもらうということだ。それ以上でもそれ以下でも無い。
悠樹は、頭の中を水着選びにへとシフトさせる。それ以外、今関係ないものを、頭の片隅にへと追いやる。
……よし……。
悠樹は思う。護のことが好きだと。
悠樹は思う。その先に行きたいと。
悠樹は思う。皆より一番近い距離にいたいと。
悠樹は思う。自分が護の中で一番の存在になれるようにと。
「もう行きますか…………? 」
少し無言が生まれた空間に耐えられなかったのか、すぐに護が口を開いた。
「護が、そうしたいのなら……」
悠樹は、護の言葉に頷く。
ここで喋っていても、水着を選びに行くのだとしても、護と一緒にいることが出来る。それだけで、十分。
「じゃ、じゃ、行きましょうか」
「うん」
悠樹は、少し間を空けて考える。
「護………………? 」
「はい? 」
「手、繋いで良い……? 」
手を繋げば、より近くに護を感じることが出来る。護に自分を感じさせることが出来る。
「え、あ、はい。分かりました」
護は、スッと手を差し伸ばしてくれる。
「ありがと」
奇しくも、この時。手の繋ぎ方は薫と一緒の、恋人繋ぎだった。第三者の立場からそれらを見たら、薫より、距離が近いようなそんな気がした。
「どんなのがいいですかね…………」
悠樹の右側にいる護は、悩んでるような口振りであったが、その顔を見ると、とても楽しんでいるようにも見えた。
「護の好きにして……」
「わ、分かりました…………」
そう言った悠樹であったが、少なからずこういう水着が良い、という希望があった。
ビキニとかそういうのは着たく無い。
護と二人きりでプールに行くというのなら、それでも良い。しかし、そうはならない。杏や佳奈を筆頭に、凄いものを持ってる人が、青春部には沢山いる。どうしても、肩身が狭くなってしまう。そういうことくらい、悠樹は、重々に承知していた。
「あ…………」
「どうしたの……? 」
「あれ……、良さそうでは? 」
悠樹の手を引いて、護はその場所まで引っ張っていってくれる。
「どう……ですか…………? 」
護が選んでくれたものはチューブトップの水着で、胸元にはレイヤードフリルがついている。柄は、白と水色の水玉模様だ。
柄も、そこから感じられる雰囲気も、悠樹が好きなものと一致していた。
……うん。良い……。
フリルが付いているから、少し、現実より大きく見えるのかもしれない。
そのことについて、気にしていないというわけではない。やはり、気にはなってしまう。
だけど、そんな武器を使わなくても、悠樹はやっていける自信がある。
自分の想いを一心に伝えるのなら、そんなものは関係ない。
「さすが護。すごく良い」
「ありがとうございます」