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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
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time

俺が選んだ黒のビキニを買ってからすぐに、薫は杏先輩達の元に戻るのかと思ったが、そんなこと無かった。

エレベーター近くのベンチに腰かけて、時間ギリギリまで、話し込んでいた。

まぁ、こういう風に二人きりで話すのも久しぶりだったし、良かった。その間だけ、昔の時間が戻ってきたようなそんな気がした。

そう思うってことは、それだけ薫といる時間が減ってしまったということだ。

時の流れというのか、何というのか。環境の変化が大きいのかもしれない。

主に、青春部が環境の変化だ。

小学校や中学校の時から、女の子と話す機会ってのは多かった。が、高校になってからも、そんな機会が減るどころか増えているかもしれない。同年代だけではなく、先輩などとも話すようになった。

それであるから、自然と薫と話す機会が減っている。

……何だかな……。

薫が好きという思いは、昔の時は少なからずあった。時間の経過につれ、薫が隣にいるのが普通になって、そんな思いが薄れてきてしまってるのかもしれない。

だけど、そんな思いは、またしても薫によって思い出された。

「ごめん。喋りすぎちゃったかも」

自分の腕時計を見ながら、薫は言う。

「気にするな」

「うん」

頷いた薫はスッと立ち上がり、続けてこっちを向いた。

「じゃ、また後でね」

「おぅ」


「…………わ」

薫の帰りを待っていた悠樹は一つの振動を受け、驚きの声をあげる。

悠樹は自分の左側に置いていた鞄から、急いで携帯を取り出す。この音は、メールではなく通話の報せだからだ。

「もしもし…………? 」

「あ、悠樹? 薫そっちにいる? 」

杏からだ。

「いないです」

「じゃ、まだ悠樹は、選んでもらってないんだね」

「……はい」

「そっか………………」

「どうかしたんですか……? 」

杏の口振りから、何か一つの予定が崩れたと、そういう印象を受けた。

「昼ご飯、どうしようって思って」

「あぁ…………」

時間は、十一時半。気が付けば、そんな時間になっていた。

自分に与えられた時間を目一杯使うとなると、終わる時間は十二時半だ。丁度昼時。

「悠樹の番が終わったら、昼ご飯。それで良い? 」

「はい」

「よし。時間取らせて悪かったね」

「いえ…………」

「それじゃ、楽しむのよ」

「はいっ」



「おっと…………」

薫の姿が見えなくなってからすぐ、それを図ったかのような形で、ジーンズのポケットに入れていた携帯が振動した。

メールでは無く電話だった。

「佳奈先輩? どうかしたんですか? 」

「悠樹はそっちにいるのか? 」

「いえ。まだです」

そんなことを聞くために電話してきたのだろうか。

「そうか。じゃ、昼ご飯は、もうちょっと後になるな」

あ、そっか。もうそんな時間になるのか。気が付けば、こんなに時間が経っていたって感じだ。

「一回のあの場所に集合ですか? 」

「あぁ、そうなる」

「分かりました。十二時半までに行けば良いですよね? 」

「そうだな……。でも、一時間も時間かかるのか? 」

「かからないかもしれませんね」

話し込むか話し込まないかで、差が出る。というか、それでしか差が生まれない。

「まぁ、楽しむことだな。こんな機会はあまり無いだろうからな」

「はい」

「後、護? 」

「はい……? 」

何か言い忘れたことでもあるのだろうか。

「佳奈って、呼び捨てにするんじゃなかったのか? 」

「………………っ」

すっかり忘れていた。

佳奈先輩と呼ぶ方がしっくりくるからだろう。まぁ、気にしてなかったというのもあるのだが。

「今は良い。私と二人きりになる時は外してほしい」

「わ、分かりました…………」

またしても、忘れそうだ。

「忘れたら、罰だからな? 」

「はい……」

一体、何されるのだろうか。逆に、そう言われると、罰を受けたくなってしまう。Mでは無いからな? 絶対に。

「それじゃ、また後でな。時間取らせて悪かった」

「いえいえ、気にしないてください」

悠樹が来るまでの時間潰しになったし。

「ありがとう。それじゃ」

「はい」


悠樹と杏の電話が終わったタイミングで、護と佳奈との電話も終わった。


「護、おまたせ」

四階に着くと、ベンチに座っている護の姿をすぐに確認した。

「いえ」

すぐに、水着を選びに行くという選択肢もあったが、悠樹は護の横に、護と同じように腰をおろした。

「水着選ぶの…………、大変……? 」

「まぁ、大変といえばそうですけど、面白いですし、そこまで感じません」

「そう」

……護、楽しんでる……。

悠樹の目には、そう映った。

こんな護を見ているだけで、自分の気分も護につられていく。護がいるからこそ、楽しく、面白く、そう過ごすことが出来るのだ。

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