ノーマル
「お待たせ。護」
「おぅ」
いつも通りの薫の言葉に、護はいつも通りに声を返してくれる。
そんな、いつも通りが、薫は好きだった。
「こうやって二人になるのも、久しぶりかもね」
「そうかもな」
だから、久しぶりに二人きりになることが出来て、薫は、少し顔をほころばせる。
ここ数日は、そういう時間も減ってきていた。
それも仕方のないことかもしれないと、薫は自分に言い聞かせる。
中学の時より、護のことが好きだという女の子は、倍以上に増えている。
だから、自然と、二人きりになる時間は減っていく。
……順番だもんね……。
今日も、順番で、護に水着を選んでもらうということになっている。
それ以外でも、護と一緒にいれる時間というものは、限られているのだ。隣の家に住んでいるわけたから、会おうと思えばいつでも会える。
でも、さっきも言ったが順番なのだ。誰かと護が二人きりになれば、今度は、他の誰かが護と二人きりになる。
「ねぇ? 護」
「ん? どうした? 」
「私、護のこと好きだからね」
何度目か分からない告白を、薫は、さりげない感じでした。
改めて、自分のことを意識してもらうために。自分としても、より強く、護のことを強く思うために。
「お、おぅ………。急に言うな……。びっくりするだろ」
護は、自分から視線を恥ずかしそうに外す。
「ゴメンゴメン」
「ほら、行くぞ。水着買うんだろ」
「うん、護。手繋いで」
普通に、薫は、護に向かって左手を差し出す。
「分かった」
優しく包み込んでくれる護の手。これもまた、久しぶりに感じる感触だ。
薫は、護の指に自分の指を絡めるように手を握る。いわゆる、巷では、恋人繋ぎと呼ばれるもの。
薫の願いはただ一つ。
護の彼女になること。ただそれだけだ。
そのために、何が出来るのか。これまで考えてきたつもりだ。どんなことよりもこのことだけは、絶対に、何としても、叶えたい願いだから。
……恥ずかしいな……。
また、薫に告白されたというのもあるが、今みたいに、手を繋ぐのも何か久しぶりな気がするからだ。
しかも、恋人つなぎをしているからか、余計に薫を近くに感じることが出来る。こんなことを思うのも、久しぶりな気がする。
昔からずっと一緒に過ごしてきたかはか、こういう感覚は、あまり感じてこなかったものだ。
だから、いっそう恥ずかしいと思うのかもしれない。
……護のこと好きだからね……。
さっきの薫の言葉が、頭の中で自然と繰り返される。
返事出来ないのが、もどかしく感じられる。
……切り替え切り替え……。
今は、水着を選ぶことに集中しよう。薫を喜ばせることが先決だ。
心愛、渚先輩に続いて薫の水着を選ぶわけだから、すぐに選べると思っていた。
しかし。
「うーん……」
薫の趣味やら何やらを知り尽くしているが故になのだろうか。悩んでしまう。
夏休みに入れば、今日いるこのメンバーでプールに行くことになるだろう。杏先輩のことだ。絶対に、そう言うはずだ。
そうなれば、全員の水着を、被らないように選んだ方が良いだろう。
それが、案外大変だったりする。薫のことだけでなく、まだ選んでいない悠樹達のことを考えつつ、薫の水着を選ばないといけない。
「そんなに顔顰めてどうしたの? 」
「いや……、案外選ぶの大変だなぁって……」
「まぁ、そうだよね」
薫も、周りを見回して探してくれる。
あ、ちなみに手は繋いだまま。そうだから、水着を選ぶことより、薫自身に気がいってしまう。
やっぱり、ビキニとかが良いだろうか。ワンピースとかも似合う気がするが、ワンピースなら悠樹の方が似合うはずだ。
さっき、ちょっと良いのを見つけたが、渚先輩のやつと被ってしまう。うーん……。難しい……。
「護の好きに選んで」
「お、おぅ」
そうだ。俺が選んで良いのだ。俺の好きなように、皆をコーディネート出来るのだ。
「これか…………」
シンプルになりがちな黒のチェック柄のビキニ。下はミニスカートになっていて、腰周りがより細く見える。
ここで黒色を選ぶのは、ちょっと考えた。
やはり何と言うか、黒となれば杏先輩の方が似合う気がするのだ。杏先輩の大胆さを、より引き立ててくれたりするはず。
だけど、それと似たようなものを、薫に求めたいのかもしれない。
「黒…………? 」
「嫌か…………」
「ううん。そうじゃなくて……、こういうのは、杏先輩の方が合うと思んだけど…………」
「俺もそう思ったんだけど……、薫に似合うと思ったから」
「護って、大人っぽい方が好きなの? 」
「いや、そういうわけではないけど……」
何で、そんなふうに思ったんだ……。
「そう? 」
「あぁ」
「まぁ、護が選んでくれたわけだしね。試着した方が良い? 」
「おぅ。頼むわ」
「分かった」
ここで、薫は俺の手を離した。二十分くらいずっと繋いでいたし、何か名残惜しい。薫も、ちょっと物寂しい顔をしている。
「じゃ、着替えてくる」
「うん」
この階だけに、試着室ってどれくらいあるのだろうか。心愛と渚先輩の水着を選んだ時も、すぐ近くにあったし。