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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
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プティ

俺が思った通り、真弓は、次の電車でやってきた。

額に少しだけ汗が浮かんでいたし、その点からも急いできてくれたということが分かる。

真弓が来たので、どこかの喫茶店に入って、それからどこに行くかを決めることになった。もう大体することは決まってしまったような気もするが…………。

入った喫茶店はとても涼しくて、とても快適な場所だった。

それに、まだ朝が早いためか、人も少なく、店員さんが二つの机をくっつけてくれた。皆合わせたら十人もいるわけだから、当然、一つの机では座れない人が出てくる。そんな懸念は、すぐに解消されたわけだ。

喫茶店に入ったのに、何も頼まないというのはさすがに忍びないので、俺達は、それぞれコーヒーやらなんやらを注文した。

俺もコーヒーにしたが、安めのやつにしておいた。案外、お財布の中身がピンチなのだ。ここは護の奢りね、とか言われたら大変なことになる。さすがに、それはないと思うけど…………。

「一息ついたところだし、そろそろどこに行くか決めようか」

杏先輩は、楽しそうに声をあげる。

「そうだな。何か案はあるのか? 」

杏先輩の隣に座っている佳奈が、言葉を返した。

「うん」

あ、ちなみに、今の席順は、ソファ組と椅子組で丁度五人五人に分かれていて、ソファ組に左から順番で、薫、心愛、俺、渚先輩、悠樹の順。椅子組は、同じく左からだと、葵、佳奈、杏先輩、真弓、成美となっている。

心愛と渚先輩に挟まれて座るってのが、ちょっとばかり新鮮だ。特に、渚先輩の隣に座るということ自体、今まであまり無かったような気がする。

渚先輩が隣にいるもんだから、渚先輩の胸元に目がいってしまう。佳奈や杏先輩に劣らないほど、ご立派なものをお持ちのようだし……。

「これから夏に入るわけだし、水着を買いに行くのはどうかなって」

「水着? 」

「うん、夏になったら皆でプールに行くわけだし、今日は護もいる。これはチャンスでしょ? 」

「そうかもしれんな…………」

俺が別のものに気を削がれていた間に、話は進んでいるらしい。

「…………っ」

突然、脇腹に痛みが走った。

「どうかしたの? 護君? 」

痛みが来た方とは反対側にいる渚先輩が、心配そうに聞いてくれる。

「い、いえ……。大丈夫です…………」

そう言いながら、ちらっと心愛を見た。

わ、怖い怖い。睨まれている。すいません。反省してます。すいません。許してください。

声に出すわけにもいかないので、目線だけでそう訴える。

そうすると心愛も分かってくれたようで、俺は、痛みから解放された。良かった…………。

「佳奈は賛成だね。他の皆はどうかな? 」

杏先輩は、確認を取るかのように、皆に視線を送っていく。

さっき、杏先輩が水着を買いに、と言った時に、誰も驚いたような反応を示さなかったし、買いに行くことは、もう決まったようなものだろう。

杏先輩に倣うように、俺も皆を見ていく。やはりなんというか、学校の時と受ける印象は違う。そりゃ、制服か私服かの違いもあるが、もっとこう、何か違うものがある。

特に、俺の隣に座っている心愛と渚先輩は、いつもと髪型が違う。心愛は、ツインテールではなくポニーテールだし、渚先輩も、短めのツインテールではなく、今の成美みたいに髪をおろしている。

「私は賛成だね。私も、そう提案しようと思ってたし」

真弓の言葉を皮切りに、他の皆も次々に賛成の意を唱える。

楽しくなることは間違いなしだが、ついでに大変になりそうだとも、俺は思った。


……はぁ……。

杏の言葉に建前上頷きながら、心の中で、心愛はため息をつく。

……水着か……。

泳げないというわけではない。むしろ、泳ぐのは得意だと自負している。

問題なのは、水着になるということ。杏や佳奈なども水着を着れば、自分はどうしてもそれに劣ってしまう。それはもうどうにもならないことだから、仕方ないと諦めるしかない。

……まぁ……。

護に見せると思えば、少し気は楽になる。それに、今日は、護に水着を選んでもらえるのだ。

またとないチャンス。

……頑張ろ……。


……さて……。

これで、水着を買いに行くことが決定した。しかも、護に選んでもらえる。でも、一気に、九人もの女の子の水着を選べるわけはない。順番を決めることが必要だ。

そうしておけば、揉めることもなく、合理的に護と二人きりにもなれる。

……そろそろ私も本気にならないとね……。

杏は、舌舐めずりをする。

今まで、あまり護と積極的に近づこうとはしなかった。順番を待っていたのだ。自分が護の隣にいれる順番を。

しかし、悠長なことをしていられないことが分かった。のんびり構えていると、他の人に護を取られる可能性がある。

だから、杏は待つのをやめた。

自分が欲しいと思うものは、自分で取りに行くのだ。

……護……。

護に気付かれないように、杏は、自分の視界に護の姿を捉える。

……まず、何からしようかな……。



水着を買いに行くというのが決まったので、俺達は、すぐに喫茶店から身体を移した。本当なら、もう少しの間涼んでいたかったのだが、杏先輩と真弓が今からすぐ行こうというもんだから、そうなったのだ。

と言っても、杏先輩は、この周りを全然知らないので、葵を先頭に買いに行くことになった。

「あそこで、売ってます」

五分くらい歩いただろうか。葵は、目の前の大きな建物を指差した。

【MISAKIデパート】

どうやら、ここに売ってるらしい。

「じゃ、買いに行くよーっ! 」

葵より一歩踏み出た杏先輩は、こちら側を振り返り、高らかに声を出した。


「で、順番はどうするんですか? 」

デパートに入った矢先、すぐに声を上げたのは成美だった。

「これから決めるよ。ちょっと移動しよっか」

その成美の疑問に、杏先輩は答えた。

御崎高校生にとっては休みの日であっても、普通の社会的には平日である。それなのに、このデパートには、たくさんの人で溢れていた。だから、杏先輩は、エスカレーター付近にある、休憩所みたいな場所に移動することにしたのだろう。

「順番の決め方なんだけど……、もうじゃんけんで良いよね? 」

皆を見渡しながら、杏は確認するように聞く。別に、確認を取る必要はあるのだろうか。それ以外の決め方が見当たらないが……。

「それしか方法無いだろうしな」

佳奈は、杏先輩の意見に賛同する。

「私、良い方法思い付いたよ。護君に選んでもらうってのは、どう? 」

「……………………え? 」

俺が順番を決めるの? 大変だ……。

「ってのは、冗談。じゃんけんで良いと思うよ」

「はぁ…………」

何だ、冗談か…………。良かった……。少し心臓に悪い冗談である。皆の水着姿はすぐにでも見たいものだし、誰からなんてものは選べない。だから、本当に良かった。


公正なるじゃんけんの結果、俺が水着を選ぶ順番は、心愛、渚先輩、薫、悠樹、杏先輩、真弓、佳奈、葵、成美の順になった。

「心愛からだねー」

「はいっ」

立ち上がった心愛は、元気良く頷いた。

「水着は絶対に一着買うこと。そして、長くても一時間経つまでに、ここに戻ってくること。分かった」

「はい」

「じゃ、いってらっしゃい」

皆に温かく見送られ、俺と心愛は、水着売り場に向った。



護の隣に並びたかったのだが、人が多かったので、心愛は、護の後ろに立って、エスカレーターを使って目的の物がある階まで向った。

「護っ!! 」

エスカレーターから降りたら、心愛は、護の左腕に抱きついた。

自分でも考えられないくらいにテンションが上がっていて、心愛は、自分自身にびっくりした。

皆とずっと一緒に回るものだと思っていたから、こうやって二人きりになれたということが、心愛にとって嬉しいのだ。しかも、最初に自分の水着を選んでもらえるのも、その嬉しさを高くするものだった。

そして、今から長くて一時間は、自分に与えられた時間だ。この時間の間は、誰も邪魔をしてこない。自分と護だけの時間なのだ。

「ど、どうしたんだ? 心愛? 」

「何でもないよ。ただ、楽しいだけ」

「そっか」

心愛は、出来るだけ、自分の身体を護にくっつける。歩きにくいなんてことは気にしない。

……やっぱり好き……。

しばらく護と離れていたような気がするから、久しぶりにこの距離にいれることで、心愛は、自分の強い想いを再度確認した。

【MISAKIデパート】の四階は、全て女の子の水着が売っているらしい。当たり前だが、護以外の男の子はいなく、護を見ると、すこしばかり顔を赤らめている。

「そういえば、二人でこうしてるのって、初めてかもしれんな」

「そうかも」

熱を出して護が看病に来てくれた以来。護と二人きりになるというのは。

「護」

「ん? どうした? 」

「ううん。呼んでみただけ」

心愛は言葉を続ける。

「じゃ、早く水着見よ? 一時間なんてすぐだし」

「そうだな」


さっきまで皆がいた場所で、渚は、一人で護と心愛の帰りを待つ。

帰ってくるのを皆で待っていても時間がもったいないということになり、次の番以外の人は、水着売り場の下の階で、服を見て待ってようということになった。

だから、渚は一人で待っている。

「まだかな…………」

護が心愛と一緒に向ってから、まだ十分ほどしか経っていない。一人でいるというのが、こんなにも暇だということを、渚は知らなかった。

自分を含めて二人以上いれば、話して時間をつぶすことが出来る。しかし、一人ではそうすることも出来ない。

「はぁ………………」

息をもらして、渚は、珍しくおろしてみた髪の毛に指を通した。

喫茶店で隣に座っていた時、護がこちらのことを何回か見ていたことを、渚は知っている。この髪型に、注目してくれていることは分かる。服を見ていたという可能性も無きにしも非ず。少しばかり、露出度多めにしていたし。



日曜日に、しーちゃん達とショッピングしてる時も思ったが、こういう場所に来ると、すごいアウェー感を感じる。というか、アウェー感しか感じない。

特に、今日みたいな水着売り場などは、それを余計に感じる。

葵曰く、この四階は、全て女の子の水着が売っているだとか。そうなれば、俺の気の休まる場所はどこにもない。

……大丈夫か……俺……。

そう思っていながらも、皆の水着を選べることを嬉しいと思える自分がいる。青春部にいることで、いつの間にか、思考回路が変わってきたのだろうか。

高校に入る前は、まさかこんなことになるとは思ってなかった。出会いってのは、不思議なものである。うん、本当に。

「護って、身長何センチだっけ? 」

「いきなりだな」

「こんなに隣にいるから、ちょっと気になって」

「そ、そっか…………」

俺は、昔の記憶を引っ張ってみる。四月末に測っているから、すぐに思い出すことが出来た。

「百七十八センチだな」

「じゃ、私と三十センチくらいは違うんだね」

「そうなのか」

てことは、百五十センチくらいか。悠樹と同じくらいだろうか。青春部の中では、小さい方である。

杏先輩や佳奈の身長が高いのだ。俺とそんなに変わらない。成美と渚先輩も普通より高いし、葵と薫が平均くらいだろうか。真弓も高い方だ。

「一時間しか時間無いんだよね」

「そうだな」

一時間あるなは、結構じっくり選べるような気がする。別に、一時間もかける必要は無いのだけど。皆、一時間も時間を使ってしまったら、待ってるメンバーは暇だろうし、俺の体力も持たない。九人分の水着を選ぶことになるのだから。

皆が、時間を目一杯使ったら、九時間もかかることになる。お、恐ろしい。それだけは避けたい。絶対に、俺の体力は持たないだろう。後、色々な物も持たないと思う……。

「てか……、水着って色々あるんだな………………」

男は少ないから、その点に関しては案外楽なのかもしれないな。

「うん」

たくさん種類がありすぎて、選ぶのにも一苦労だ。しかも、心愛に似合う水着を、これが良いと思える物を一つ選ばなければならない。一つに絞るのが大変そうだ……。

さーて、どれにしようか…………。これは、一時間必要なのかもしれん。

全員の水着を、こんなに考えていたら大変なのは分かっているんだけど、皆が、わざわざ俺に選んで欲しいと言ってくれているのだ。

そう言ってくれているのだから、頑張らないといけないだろう。頑張らない訳にはいかない。

「護は、こんな水着が好きとかある? 」

「うーん…………、どうだろう……」

そういうことを考えたことが今までに無いから、思い付かない。

「やっぱり…………、ビキニとか……? 」

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