青春部の皆とそして真弓と #4
護を視界の中にいれつつ、悠樹は、杏を見上げる。
何がしたいか。急にそんなことを言われても、思いつかない。でも、悠樹は考える。ここで何か良い案を言えば、それが今日やることになるかもしれないのだ。
「したいこと…………」
「うん、そう」
悠樹にとって、護と一緒にいれるだけで十分。だから、護のしたいことが、悠樹のしたいこととなる。
「護は…………、あるの? したいこと」
「俺ですか…………!? 」
突然振ったから、驚きながら自分を見てくる。
悠樹は、何となく、じっと護の目を見つめた。護も自分と目を合わせてくれる。
「俺は特にないですね」
「そう………………」
少しがっかり。
「でも、杏先輩が言ってたんですけど、水着買いに行くとか、どうかなって…………」
護は、終始顔を赤らめながらそう言う。言い終わった護は、杏にへと目線を送る。それに倣うように、悠樹も杏の方を向く。
「水着…………? 」
「もう夏だし、それに向けて買っておくのもアリでしょ? 」
夏。後数週間もすれば、本格的に始まるものだ。
夏休みになったら、青春部で、また色々とすることになるのだろう。
皆とプールに行くこともたくさんあるかもしれない。そこには、当然護もいるわけだ。前日とかになって、護の好みに合いそうな水着を買いにいくより、今日ここで護に選んでもらった方が得策。
……杏先輩も……同じこと考えてる……。
そう思った悠樹は。
「うん、私も賛成する」
杏の言葉に頷いた。
「ありがと」
……水着……。
悠樹達が通っている御崎高校にプールというものは存在しない。だから、悠樹は、ここの高校を選んだようなものなのだ。
中学の時から泳げず、今でもそれは変わっていない。妹の時雨と氷雨と暮らしているので、練習する時間なども無かった。
それ故、今、悠樹が持っている水着は、中学の時に使っていたスクール水着だけだ。
そんな何年も前のものは着れないだろうし、いかんせん、そんな格好で護の前、皆の前に出るわけにはいかない。
「護は…………、泳げる? 」
「人並みですけどね。悠樹はどうなんです? 」
「泳げない…………」
「そうだったんですか? てっきり泳げるかと…………」
「そんなイメージする…………? 」
「えぇ…………」
「護泳げるのなら、教えて…………? 」
悠樹は、俺を上目遣いで見ながらそう聞いてくる。
「別に良いですよ…………」
人に泳ぎを教えたことは無いが、問題無いだろう。悠樹が運動が苦手だとイメージは無いし、ちょっと手を引いて教えてあげたら、すぐに泳げるようになると思う。
まぁ、泳げると思っていたイメージが壊されたわけだから、どうなるかはその時になってみないと分からないと思うけど……。
「これなら、他の皆も頷くかもねー。護の特別レッスン付きだし」
杏先輩は、何やらニヤニヤした顔でこっちを見てくる。今日水着を買いに行くという案が、そろそろ現実味を帯びてきている。まぁ、別に良いんだけど。
「教えるのは、泳げない人だけですよ? 」
「皆泳げないって言ったらどうする? 」
「それは無いですよ。少なくとも薫は泳げますし」
ハンドボールでは薫に勝てなかったから、せめて泳ぎだけでも勝とうとしてたし、薫は泳げる。やっぱり、そんなに得意じゃないみたいだけど。
「私が泳げないとしたら? 」
「………………え? 」
さすがにそれは無いだろう。杏先輩には、佳奈という幼馴染がいるわけだし、泳げないということは無いと思う。もし泳げないのなら、佳奈が杏先輩に教えているはずだ。
「嘘だよ。ばっちり泳げるもんね」
良かった。本当に泳げないなんて言われたら、どうしようかと考えるところだったし。
「ちなみに、佳奈も泳げるからね。佳奈は凄いよー? 」
何でも出来そうなイメージがあるからなぁ。
「なら、楽しみにしてます。皆でプールに行くのを」
「そうだね」
「私も楽しみ」
三人だけで話が進んでいってしまっているが、大丈夫だろう。他の皆も乗ってくれるはずだ。
「そろそろ皆来るね」
俺達が立って待っているその先にある大きな時計は、もうすぐ九時になるということを、俺達に知らせてくれていた。
「そうですね」
杏先輩の言葉に頷いて、改札の方を見てみる。丁度、電車が着いたみたいだ。さっき時刻表を見ていたのだが、この九時前の時間には、佳奈と杏先輩が住んでる方面からの電車と、成美や渚先輩、心愛や薫が住んでる方面からの電車が、丁度同じ時間にこの駅に着くようになっていた。
もしかすると、皆が一緒にここに来るという可能性もある。
「護君、おはようございます」
俺の背後から、声がかかった。
「おぅ」
慌てて振り返り、葵に挨拶をする。
「杏先輩も悠樹先輩も、おはようございます」
「おはよー」
「おはよう」
葵の家がこの辺りだってことを忘れていた。
「心愛達も今来たみたいですね」
その声にもう一度振り返ると、俺が通った改札から成美達が。向こうのホームから繋がっているであろう階段から佳奈が、こちらに向かっているところだった。あれ? 真弓がいない。
「真弓がまだだね」
「そうみたいですね」
「真弓が遊ぼうって言ったのに」
「すぐに来るでしょう。次電車来るのは、十分後くらいですし」
まぁ、誰にだって遅れることくらいあるだろう。でも、真弓だから、一番最初に来てると思ってたんだけど。