青春部の皆とそして真弓と #3
自分の部屋に入った成美は、扉を閉めて、そこにもたれかかる。
「………………」
護の名前を出しただけで、渚の気持ちが変わったような、そんな気がした。
だからといって、渚に力を貸すわけにはいかない。自分だって、今日は頑張らないといけないからだ。
扉から身体を離し、成美は椅子にドッと身体を下ろす。
「ふぅ…………」
時間的に、こんなにのんびりしている暇は全く無い。着る服を選んで、すぐ御崎駅に行かなければならない。
しかし、どんな服を着れば良いのかが分からない。
渚みたいにイメージチェンジをしようとしても、成美の場合は、露出度を控える形になる。
「暑いし…………」
昨日ならまだ良かった。だが、今日は駄目だ。気温が高すぎる。
「どうしよう…………」
「護ーっ! おっはよー」
御崎駅に着くと、いたのは杏先輩だけだった。周りを見回してみても、他の皆は、まだ来てないことが分かった。
「おはようございます」
杏先輩は、ミントグリーン色のチェニックブラウスを着ていた。リボンベルトが付属で付いているようで、ウエストが強調されている。
杏先輩には、とても似合ってる気がする。いつもより、ウエストが細くなっているのだろうか。というか、青春部の皆は細いと思う。
「今日暑いね〜」
「そうですね…………」
「私、長袖着てきたから余計にね……」
そう言いながら、杏先輩は、肘までまくっていたのであろう服の袖をおろした。
「マジですか…………」
「うん。こんなに暑くなるとは、思ってなかったからね。準備してなくてさ」
杏先輩は、もう一回袖をまくる。
「あ、そうだ。護」
「はい? 」
「何かしたいこと…………ある? 」
「何も決めてませんもんね……」
集合場所と集合時間。それだけを決めて、昨日は解散だった。まぁ、俺が病み上がりだったから、皆が気を効かせてくれたのだろう。
「だね…………」
特に、何かしたいという気持ちはない。適当にショッピングしたり、映画を見たり、そんなんで良いと思う。
しかし、皆で集まることが出来たので、今日しか出来ないことをしてみてもいいのかもしれない。まぁ、思いつかないんだけど…………。
「夏ですねぇ…………」
「そうだね…………」
こうして、俺と杏先輩は、横に並んで他の皆を待っているんだが、そうしているので、余計に暑く感じてしまう。
気温が高いので、何もしていなくても汗が出てきそうになる。本当に暑い。
「まだ六月ですよね…………」
「そうだね……。これから、まだまだ暑くなるんだよ…………」
「憂鬱ですね…………」
「だね…………」
段々と、喋るのも面倒になってきた。ヤバいヤバい。
「護は、泳げる? 」
「それなりには泳げますけど…………」
「だよねー。プール行く……? 」
「今日ですか……? 」
まぁ、こんなにも暑かったら泳ぎたい気持ちにはなる。しかし、今日は、水着とかは持ってきていない。
「違う違う。夏休みに入ってから」
「ですよね。準備してませんし」
「でね? 水着買おうと思ってるんだけど……」
「はい」
俺も買ったりしようかな。まぁ、去年のやつでも着れるような気がするが。
「選んでもらっていい? 」
「俺がですか? 杏先輩の水着を? 」
「うん。駄目? 」
「駄目ではないですけど…………」
まぁ、色々とまずいような気がするけど……。男が女の子の水着を選ぶってのは。
「今日買いに行くんですか? 」
「何も案が出なかったら、それでも良いと思ってるけど、他に良い案が出るならそっちを優先するよ」
よし、他の案を考えよう。
さっきも言った通り、水着を選ぶのは別に良い。ただ、今日買いに行くとなるなら、他の皆も水着を買うと言い出すだろう。
男からすれば、女の子の水着を選ぶなんてことは滅多に訪れないチャンスだし、良いかもしれない。しかし、もし今日買いに行くのなら、俺は、九人分の水着を選ぶことになる。それはそれで大変だ。良い体験にはなるだろうけど。
もしそうなったら、羚に自慢でもしてやろうか。
「護は、水着買いに行くことに賛成でしょ? 」
確認を取るように、杏先輩は聞いてくる。え……、これは頷かないといけない雰囲気…………?
「まぁ…………、構いませんけど……」
「うん、ありがと」
「いえいえ……」
杏先輩は、ニッコリと微笑む。まぁ、こんな笑顔見せられたら断れないし、こんな笑顔を見れるのなら、良いのかもしれない。
「あ、悠樹が来たみたい……」
杏先輩が指を指した先に目をやると、白色のワンピースを着てこっちに向って来る悠樹の姿が、そこにあった。
「おはよう、護。杏先輩もおはようございます」
「おはようございます」
「うん、おはよ」
悠樹は、普通に俺の横に立つ。
「ねぇ、悠樹」
「…………? 」
「今日ね、悠樹は何がしたい? 」