青春部の皆とそして真弓と #2
朝ご飯を食べ終え、後は準備をするだけになった薫は、パジャマ姿のままで、もう一度ベットにダイブした。そして、枕に顔を埋める。
ベットに置いてあるはずの携帯を、薫はそのままの状態で探した。
……あった……。
慣れた手付きで画面を開き、顔だけをその携帯の方にへと向ける。
「はぁ………………」
そして、通話帳から護の名前を選択する。が、まだ連絡は取らない。
迷っているのだ。
二人で集合場所まで行くか行かないか、ということに。
皆が集まってしまえば、護を占領することはまず無理になってしまう可能性がある。
そうなるならば、そこに着くまでの間だけでも二人きりになる方が良い。その方が得策だと思える。
しかし、今から二人きりになったとしても、何を話せば良いのかが分からないのだ。
話したいことは一杯あるし、護に聞いてもらいたい。だが、必然的に、話の内容には心愛や葵、そして青春部の皆が出てくるということになる。
二人でいる時くらいは、護のことだけを考えていたいのだ。
「護…………」
護に想いを伝えてから約一ヶ月。昔と比べたら、話す機会も減ってしまったようなそんな気がする。
それは、周りにライバルが増えたから。
中学時代、護のことが好きだったのは、自分と咲だけだったと認識論している。たったの二人だけだ。
だが、今は違う。中学時代とは比べものにならないほどに、護のことが好きな女の子は沢山いる。好きまではいかないが、気にいってるという女の子だって沢山いる。
……真弓先輩も……だもんね……。
真弓は、後者の部類に入る。だから、そこまで気にすることはない。まぁ、今更、護のことが好きだという女の子が増えたとしても、驚きはしないのだけれど。
護は、無自覚に周りに優しさを振りまく。見返りを求るなんてことを、一切しない。勝手に身体が動いてしまうのだろう。
護のことをずっと隣で見てきた薫は、そう認識している。
「ま、いっか…………」
ふぅ、と息を吐き出し、携帯を閉じる。
無理に二人きりになろうとしなくても良いのかもしれない。なろうと思えば、いつでも二人きりになれるのだから。そんな距離に薫と護はいるのだ。
そう思うと、護と付き合えるのではと考えてしまう。
だけど実際は、上手くいかないのだ。だからこそ、頑張ろうと思える。護に振り向いてもらえるように、より一層努力しようと思えるのだ。
そう思うのは自分だけではないから、大変である。しかし、張り合いがある。
「よしっ」
「ねぇ? 葵」
準備も終わり、そろそろ集合場所の御崎駅に行こうと、玄関で靴を履いていた葵の背後から、母の声が届く。
「どうしたの? お母さん」
「まだ早いんだけど、お母さんとお父さん。七月入って最初の土日に、出張があるの。家明けることになるんだけど…………、大丈夫よね? 」
「うん、大丈夫」
「ありがとね。それじゃ、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
……よしっ!!
玄関の扉を後ろ手で閉めた葵は、小さくガッツポーズをした。
母と父が出張に出る日。それは、自分と護の二人きりで勉強をしようと約束した日だ。
そうなると、その二日間、御上家には護と葵しかいないということになる。
……泊まってもらう……?
良い考えかもしれないと、葵は、自画自賛する。
土曜日も日曜日も勉強するのだ。一回家に帰るより、泊まった方がより勉強出来る。それに、交通費だって浮く。
二日もの間、護と二人きりになれるというのは、葵にとって嬉しいものだった。
何らやましい気持ちは無い。ただ、勉強がしたい。護の隣にいたいのだ。この理由なら、護だって、うんと頷いてくれるはすだ。
「…………よしっ」
葵はもう一度、ガッツポーズをした。さっきよりも、少しだけ大きく、より喜びを表すように。
「渚ー。服どうする? 」
先に洗面所で歯を磨いていた渚の元に、同じように歯を磨くために成美がやってくる。
「お姉ちゃんはどうするの…………? 」
「うーん? まだ決めてないかな……」
自分の歯ブラシを手に取り、成美は渚の横に立つ。
「そういえば、お姉ちゃん……」
歯磨きを終えた渚は、口の中を濯いでから、成美に問いかける。
「どしたの? 」
歯を磨きながら、成美は答える。
「最近、ツインテールしなくなったよね……? 」
「…………。まぁ、そうだねぇ…………」
渚は、成美にどういう心情の変化があったのかは知らない。ただ、そこに護が関わっていることだけは、なんとなく伝わってくる。
確証は無い。だとしても、どうして? とは、聞きづらい。
「渚も…………。おろしてみる? 」
「うーん…………」
渚は、ゆっくりと自分の髪を触りながら思案してみる。
渚がハーフツインテールにしているのは、成美がそういう髪型にしていたから。お姉ちゃんがしていると、どうしてもしたくなってしまう。
だから、姉ちゃんがやってきたものは、全て自分もやってきた。しかし、合わないものも多々あった。服の種類とかは、それに入るものだ。
「似合うと思う…………? 」
「私がこうしてるんだから、大丈夫だよ。私達双子だしね」
「護君は…………、褒めてくれる……? 」
髪型を変えるなら、護に褒めてもらいたい。そういう思いが、少なからず渚の中にもあった。
「大丈夫。私も褒めてもらえたから」
「うん、分かった」