青春部の皆とそして真弓と #1
次の日。
絶好の遊び日和だと言わんばかりに、太陽様は、俺達の地球を照らしてくれている。
まだ六月の初旬だというのに、この日の気温は、三十度を超えていた。あまりの暑さに、それで今日は起きてしまった。だから、寝起きはすごい悪い。
姉ちゃんもそうだったらしく、リビングに行くと、姉ちゃんはむすっとした顔で、テレビの天気予報を見ていた。
例年よりも、五度ほど今日の気温は高いそうな。何でこんなに暑い日に、外に出なきゃならんのだろうか。
まだ、だからと言って、断れるわけも無いし、俺も楽しみにしている。いくら、青春部として毎日のように会ってるとしても、学校とそれ以外では、違う印象を受けるものだ。その人の私服とかも、そこで知れるわけだしな。
俺は、帰ってくるのは遅くなる、と伝えて、家を出た。
昨日、あの場で決めたのは、ただ遊ぶということと、集合時間と場所しか決めてない。それゆえ、何時に解散するかも分からない。
でも、早目に帰れることだけは無いだろうと思った。何たって、青春部全員と真弓とで、遊ぶのだから。
あ、ちなみに、俺の服装は……………………、え? 聞かなくても良い?
暑い。
いつもより早く起きた真弓は、とにかくそう思った。そして、何でこんなに暑いのかと、自分達をサンサンと照らす太陽に文句を言いたい気分になる。
といっても、実際にそんなことが出来るはずもないので、諦める。本当なら、もっと過ごしやすい気温の方が良かったと思うが、もう夏も近いから仕方ないのかなと、真弓は思う。
でも、真弓はこんなこともあろうかと。
「じゃじゃーん。キャミソールを買ってたのだ! 」
誰に聞いてもらうというわけでもなく、独り言のように真弓は言った。
そう言いながら真弓が取り出したのは、アイスブルーの色をしているキャミソール。それだけでは上半身だけなので、デニムのショートパンツも引っ張り出してくる。
すぐに着替えた真弓は、まだ集合時間まで時間があったから、自分の部屋をグルグルと回り始めた。
「何して遊ぼっかな……」
昨日、皆で遊ぼうと提案したのは、真弓だ。
しかし、何をするとまでは決めてなかった。何故なら、見切り発車で言った提案だったから。皆が、こんな短時間では護の側から離れないと思ったから、真弓はそう言ったのだ。
しかし、皆は真弓の提案に乗った。そうなるとは思っていなかったから、真弓は、今でもどうしてなのかを考えて居る。当然、答えは出てこないのだけれど。
「うーん…………」
発案者は真弓なのだから、考えなくてはならない。
「あ、プールとか………………、でも駄目かな…………」
良い案だとも思ったが、そもそも水着の問題がある。どうせなら、新調して、新しいものでプールに入りたい。こう思っているのは、真弓だけではないはずだ。
「どうしよっかな………………」
結局真弓は、集合時間ギリギリになるまで、頭を悩ませていたのだった。
珍しく白い色のワンピースに身を包んだ悠樹は、太陽を見上げて。
「暑い」
と、呟いた。
護と遊べるから、悠樹は、ずっと天気を確認していた。だから、こんなに晴れて良かったと思っている。
ただし、ここまで気温が高くなる必要があるのだろうかと、思ってしまう。
携帯で今日の気温を見たときは、少しばかり自分の目を疑った。
昨日の天気予報で気温が上がるとは言っていたのだが、まさか、ここまで上がるとは思っていなかったのだ。
「むぅ…………」
だから、悠樹は、ワンピースを着ているのだ。時間が無いため、夏服を探している時間がなかったのだ。
出来ることなら、もっと時間をかけて、今日着る服を選びたかった。
……どうして……?
悠樹は、自分に問う。
理由なんて、一つしかない。
……護のことが好きだから……。
そんな絶対に変わることの無い想いを胸に抱きながら、悠樹は、集合場所の御崎駅に向かった。
「やっぱ、誰もまだ来てないか……」
杏が御崎駅に着いた時、まだ誰も到着していなかった。時間は、八時半。集合時間の三十分も前だ。
「あっつ…………」
そう口に出しながら、杏は、着てきた長袖のシャツを肘が出るくらいまでめくりあげる。
何で長袖を着てきてしまったのかと、少しだけ後悔する。
「何しよ……。今日」
特にこれがしたいというものは無い。護と休みの日にいれるという、ただそれだけのことで良いのだ。買い物をしたり、一緒にご飯を食べたりするのは、二の次三の次だ。
だからこそ、いつもなら率先して意見を言ってきた杏だったが、今日は真弓に任せている。提案者でもあるわけだし。
目的が無かったとしても、ここは御崎駅。のんびりとゆっくりと見て回るだけでも、良い収穫になったりする。
「夏…………、水着…………」
何も案が出なかったら、水着を買いに行くという選択肢も良いのかもしれない。
丁度護もいるわけで、もしそういうことになれば、直接意見を聞くことが出来る。護は大変になるだろうけど。
「楽しそうかも…………」
プールにこの青春部全員で行ければ、どれだけ楽しくなるのかを考えてしまう。それだけで、はやく夏が来てくれないものだろうかとも、思ってしまう。
青春部、そして護の存在というものは、杏にとって、とても大切で何物にも変えられないものなのだから。杏が意識するまでも無く、そういうものになっていたのだ。
「護………………」
誰にも聞かれないように、杏は、そっと護の名前を口に出した。
「うぅぅ…………」
目を覚ました心愛は、朝食を食べるよりも前に洗面所に立ち、そこに映る自分を眺めていた。
「うぅぅぅ………………」
もう一度心愛は、情けない声をあげる。
悩んでいる。心愛が悩んでいるのは、髪型のこと。
悩むこと無く、いつも通りツインテールにすれば良いのかもしれない。しかし、それでは物足りないと思ってしまうのだ。
どうにかして、護を驚かせたいと思ってしまう。ただ、新しい印象を護に与えるために。
「心愛? 今日出かけるんでしょ? 早く朝ご飯食べなさいよー? 」
母が、洗面所に顔だけを出して、心愛を急かすような言葉をかけていく。
「分かってる」
心愛は、なおざりに返事をする。今の心愛にとって、朝食なんてものはどうでも良いのだ。髪型をどうするかだけが問題なのだ。
まぁ、お腹は空いているのだけど。
「どうしよ…………」
いつもツインテールなのだから、髪をおろしただけでも、かなり印象は変わるはずだ。
「ポニーテール……」
佳奈は、たとえ今日が楽しみだとしてもいつもの時間に起きて、ご飯を食べて、それから自分の部屋に戻った。ここからは、いつもより、時間をかけるつもりだ。
「ふぅ……」
一息入れる。これからの事に思いを馳せながら。
ゆっくりと、佳奈はベットに腰掛ける。
そして、どんな服を着ていこうかと考える。
いつも通りの服装で、自分に似合う服を着れば良いのかもしれない。けど、どうせなら、護の好みにヒットするような、そんな服を着ていきたい。
今日は、チャンスの日なのだ。
自分が風邪を引いたことにより、以前より護との距離は、凄く近くなったと佳奈は思っている。
だけど、もっともっと近くに護を感じられるようにしたい。自分にとっての護は、そう思えるほどの存在なのだ。
しかし、青春部の皆と真弓もいる。もしかしたら、二人きりになれないかもしれない。護が別の人と二人きりになってしまうのかもしれない。
たとえそうだとしても、今日、自分がしなければならないことが、一つだけある。
たった一つだけの願いを叶えるために、佳奈は、行動を開始した。
「よしっ……! 」