そして……
「ふぅ…………」
皆を玄関まで見送って、自分の部屋に戻るとすぐにベットにどさっと倒れる。
急に静かになった。それもそうだろう。さっきまで、青春部のメンバーがここに全員集まっていたのだから。
それにしても、全員がお見舞いに来てくれるなんて思ってもみなかったし、正直とても嬉しかった。しんどさも、どっかに飛んでいったみたいだし。この恩返しは、いつか絶対にしなくちゃならない。
「護、入って良い? 」
姉ちゃんが、俺の部屋をノックした。珍しい。いつもは、勝手に入ってくるのに。
「良いよ。どうしたの? 」
「晩ご飯、どうする? もう食べられる? 」
「大丈夫」
今でも、若干お腹がすいているくらいなのだ。晩ご飯が出来るまでの数時間、もつかどうかも分からない。
「良かった。また私が作るから楽みにしててね」
「母さんは…………? 」
「今日も仕事で遅くなるってさ……」
「そうなんだ」
「あ、護の熱が下がったってことは、ちゃんと言ってあるから」
「うん、分かった」
姉ちゃんは、俺が頷いたのを確認すると、部屋から出ていった。まだちゃんと寝ておきなさいよ? という言葉をつけながら。
俺は姉ちゃんの言葉に従うように、ベットに潜った。明日も出かけるわけだし、今のうちに疲れも取っておかなければならないだろうし。
「………………ん? 」
日も暮れて、夜が始まった頃、気持ち良く寝ていた俺を起こしたのは、姉ちゃんではなく携帯の着信音だった。
メールなら後で見ようかとも思ったが、今回は電話だったので、俺は急いで起きて、誰からの着信かも見ないで、電話に出た。
「もしもし……? 」
「すいません。葵です」
「どうしたんだ……? 」
「護君、もしかして寝てました? 」
「まぁな……」
「じゃ、起こしてしまいましたね。ごめんなさい」
「良いよ、気にしないで。で、どうかしたの? 」
「あ、はい。丁度後一ヶ月で期末試験が始まるのは知ってますよね? 」
「あぁ…………」
そうだった…………。一ヶ月なんて案外速いものだし、のんびりとしてる場合ではないのかもしれない。
「それでです。テスト前最後の土日のどちらかに、一緒に勉強しませんか? 」
「両方、ってのは無理なのか? 」
出来ることなら、その方が俺としては嬉しい。だって、勉強も教えてもらえるし、よりはかどるかもしれない。
「護君がどちらとも勉強したいというなら、私は構いませんよ」
「ありがと。でさ、今回も、青春部皆で勉強するのか? 」
俺のこの問いの後、数秒の間沈黙が訪れた。
「…………いえ。私と護君だけでしたいと思ってます」
「二人で? 」
まぁ、そりゃ人数は少ない方が集中は出来るし、その方が良いかもしれない。
「護君は、私と二人きりになるのが嫌なんですか? 」
「や、そういうわけじゃないよ。ただ、びっくりしただけだから」
「良かったです」
葵の声からも、言葉通りの感じが伝わってきた。
これで、また土日が潰れるということになる。青春部に入ってからから、毎週毎週、週末に何かをやっているような気がする。気のせいかな…………。
「で、時間はどうするんだ? 」
「まだ決めてないです。時間の指定はありますか? 」
「俺は何時でも良いよ」
「分かりました。じゃ、時間は追って連絡します」
「うん、分かった」
「じゃ、また明日。楽しみましょうね」
「おぅよ。じゃあな」
「はい」
電話を終えた葵は、よしっと小さくガッツポーズをする。
護と二人きりで勉強するという約束をすることが出来た。
しかし、勉強なんてものは、ただの口実にすぎない。護と一緒にいることが出来るなら、それだけで良いのだ。
ただ、一緒にいると約束したのはテスト前。勉強は、きちんとしないといけない。
でも、息抜きは必要。その時が、葵にとって大切にしないといけない時間だ。
ようやく、二人きりになれるチャンスを手に入れることが出来たのだ。
このまま、この二人きりの勉強会が周りにバレなければ、それが実際になる。
自分がバラさなければ、絶対にバレることは無いと思う。護は、きちんと人の思いを汲んでくれる人だからだ。葵が二人きりが良いと言うのなら、そうしてくれるはず。
……楽しみです……。