表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
89/384

お見舞い #2

渚は、護の家を見て、その大きさに感嘆する。

……おっきい……。

それから、他の皆に視線を移動させてみる。この護の家を見て驚いているのは、自分を含め佳奈、真弓、葵の四人だった。

……お姉ちゃんは来たことあるんだね……。

自然と先週の金曜日のことが、思い出された。

遅れて青春部の部室に行くと、そこには心愛しかいなかった。そして、一枚の置き手紙。

その置き手紙には、「護の家に行ってくる」と、書かれていた。

その文字を見た瞬間、渚も、護の家に行きたいと思った。

しかし、他のメンバーが全員行っていると考えたから、行くのをやめたのだ。

その時からずっと行きたいと思っていたから、こんなにも早くその思いが叶ったことに、少々驚いている。

……護君、大丈夫なのかな……。

熱が下がっているのなら、こんな大人数で押しかけても、そんなに問題は無いだろう。だけど、まだ熱があったりしたら、話は別だ。お見舞いとして来ているが、逆に邪魔になってしまう。

出来ることなら、護が元気な時に、護の家に来たかった。護の素を見ることが出来るのなら、元気なほうが良いに決まってるから。

「じゃ、押すよ」

杏は家のチャイムに手をかけてから、皆に確認を取る。

「うん」

佳奈の了承を最初にして、後の皆もそれに続いた。



「今開けるから」

家の扉を開けた沙耶は、その先に広がる光景に、空いた口が塞がらなかった。

……女の子だらけだねぇ……。

自分が会ったことがある女の子から、今日初めて会った女の子まで。合計で九人の女の子が、そこにいた。

「どうしたの? 薫に他の皆も……」

驚きが抜き切れてなかったが、沙耶は、皆に向かって声を出すしか無かった。

「二日振りです、沙耶さん」

「そうだね。で、今日はどうしたの? 」

「護が風邪をひいたって聞いたので、お見舞いにと思ったんです」

「皆来てくれたの? 護のお見舞いに…………? 」

「はいっ! 」

皆の声が、肯定の意を持って重なった。

……これはまた……。

沙耶は、皆をぐるっと見回す。

護が女の子に好かれやすいということは、重々承知しているつもりだった。しかし、さすがの沙耶でも、ここまでとは思っていなかった。だが、まだ心の中で揺れてる人もいるのかなと、沙耶は感じ取った。しかし、その思いに気付くのも、時間の問題だろう。

「じゃ、入って。もう熱は下がったんだけど、そんなに騒がしくしないでね? 」

一応注意をしてみたが、皆の目を見ていると、これは意味をなさないのかもねぇ、と思ってしまった。


階段の途中で、俺は、その足をすかさず止めた。もう誰が来ているのかが分かったからだ。

皆が「うん」と、沙耶に頷く声が聞こえた。

……皆来てくれたのか……。

杏先輩の声も、佳奈の声も、悠樹の声も、成美の声も、渚先輩の声も、心愛の声も、葵の声も、薫の声も聞こえる。そして、何故か真弓の声もした。

このまま部屋に引き返そうとも思ったが、ここで出向いておかないと何か言われそうだ。

「皆来てくれたんですか? 」


護の声が、皆の耳に届く。その瞬間、九人は、バッと顔を上げて護を見た。

その思っていたより元気そうな護の姿に、安堵する。

そんな姿に一番安心しているのは、佳奈だ。

……はぁ、良かった。

護の姿を見るなり、どんどんと家に入っていったので、そんな皆を見ながら、佳奈も靴をきちんと綺麗に並べ、護の姿を見据える。

「じゃ、ゆっくりしていってね」

お姉さんがこの場から離れたのを確認すると、一斉に護の周りが女の子で埋まる。

護も佳奈が見ているということに気付いたらしく、ニコっと微笑みを返してくれる。

……後で良いか……。

すぐにでも謝りたかったが、このタイミングでは言うことが出来なかった。


護の部屋に入った悠樹は、これで二回目、とそう思う。しかし、その時とは、明らかに違うものがある。

それは、護の周りにいる女の子の数だ。あの時は、自分と護の二人だった。

当たり前だが、今回はそうじゃない。恋敵

ライバル

と呼べる娘達が、ここに揃っているのだ。

一度、自分の気持ちは護に伝えている。だから、少しだけ気は楽だ。でも、のんびりはしていられない。自分からもっと行動を起こさないと、ゴールまで辿り着くことが出来ないのだ。

……せまい……。

そう感じるが、部屋が小さいというわけではない。この部屋に、十人もいるから、そう思うのだ。

「杏先輩」

おもむろに悠樹は、護の横に座っている杏に声をかけた。自分がそこにいたいと思いながら。

「どうしたの? 」

無言だった空間を破った悠樹の声に、皆の集中が集まる。

……いや……見られても……困る。

そんなに対したことは言わないのだから。

「これから……、どうするの………………? 」

悠樹の言葉に、杏を含めて皆が静かになる。

「どうしよっかな…………」

杏は、少しとぼけてみせる。

言ってしまえば、もう十分なのだ。護の元気な姿を見られただけで。杏以外の皆も、そう思っている。

「護は、何かしたいことある? 」

「何も無いです……。病み上がりなので…………」


……うーん……。

入り口の近くで、真弓は今のやりとりを見ていた。真弓は立っているので、座っている杏達を見ていた。

真弓は、そんな彼女らを見て思う。皆は護のことが好きなんだと。

皆の表情を見ていると分かる。この空間にいるだけで満足しているように、真弓の目には映った。

だからこそ、悠樹が尋ねた質問に、杏は答えられなかったのだと。

だから、真弓は提案した。

「一つ提案あるんだけど…………、良い? 」


心愛は、先を越されたと思う。

何たって、心愛も、皆に提案をしようと思っていたからだ。

先に真弓に口を開かれてしまったので、心愛は、喋ろうとした言葉を飲み込む。

「なになに? 」

杏は、その提案という言葉に、興味を示している。自分は思いつかなかったから、真弓に任せようという算段だ。

「護君も病み上がりなわけだし今日はこれで帰るとしてさ、明日、皆でどっかに行かない? 」

明日休みなんだしさ、と真弓は付け足す。

真弓が言ったその提案は、まさに心愛が言おうとしてたものと同じだった。

だからこそ。

「あたしは賛成です」

心愛は、真弓の意見を肯定した。


心愛が頷いたのを確認してから。

「それは良い案だな」

佳奈も、賛成の意を示した。

「でしょ? 」

真弓は嬉しそうに声をあげた。

佳奈が賛成した理由は、一つ。護ともう一度二人きりになるため。この状況じゃ、どうしても謝ることは出来ない。だからといって、明日もそんなチャンスが訪れるかどうか分からない。けど、佳奈は、それに賭けるしか無かった。

「心愛ちゃんだっけ? 」

「あ、はい」

「うん。これで、佳奈と心愛ちゃんは賛成してくれたよ。護君はどうかな? 」

真弓がそういう発言をしたということは、少なからず、真弓も護といたいということだろうか。それとも、別の理由があるのかは分からない。

「僕は構いませんよ。明日には完全回復してると思いますから」

「分かった。他の皆はどう? おっけーなら、これで決定にするよ? 」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ