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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜五章〜
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看病

「よしっ…………」

料理を作るのに必要な食材で、家の冷蔵庫に無かった食材。レンコン、長芋、大根を買ってきた沙耶は、それらを調理台に並べて、調理を開始する。

「エプロン付けないと……」

家でエプロン着るのは初めてだなぁ……、と思いながら、沙耶は、ゆっくりとエプロンを身に付けようとした。

「あれ……? 」

後ろ手で、エプロンの紐を結ぼうとしたのだが、距離が足りないらしく結ぶことができない。

「おかしいな…………」

このエプロンは、護も母も使っているやつなので、付けられないというのは、道理に合わない。

「まぁ、いっか…………」

沙耶は、エプロンを着ることを諦めた。別に、エプロンが無くても料理は出来るのだから。


まず、ボールにレンコンを入れて、そのレンコンが浸るくらいまで水をいれる。

「そして、そこにお酢を入れて……」

お酢が染み込むまでの時間、次の作業に取り掛かる。時間は無駄に出来ない。

今度は、大根を適量すりおろす。多過ぎず、それであって少なくなりすぎないようにする。

「えと…………」

こうしてる間にレンコンに酢が染み込んできたので、そのレンコンをすりおろす。

「最後まですりおろさないんだったっけ…………」

さっき調べた内容を思い出しながら、沙耶は、料理を続ける。

すりおろすのが終わったら、今度は、それらを鍋にいれる。この時に、残しておいたレンコンをみじん切りにして入れるのだ。

長芋もみじん切りなのだが、少し大きめにして、鍋に入れる。

それらが入っている鍋に水を五百CC入れて、火にかける。

「これで、沸騰するまで待つ………」

沸騰してきたら弱火に切り替えて、アクを取り除く。ここまできたら、後十分ほど、焦げないように注意しながら煮込めば完成だ。

「この間に…………」

食器棚から、このスープを入れる器を探し出す。

「あった………」

目当てのスープカップがあった。

それを手にしたまま、沙耶は完成の時を待つ。

「出来たっ!! 」

セットしていたアラームが、十分経ったことを知らせてくれる。これに、ごま油をちょっとだけ入れて、完成だ。

「風邪に効くレンコンスープの完成ーっ!! 」

気が付けば、時間は十二時になろうとしているところだった。

「護、今行くから…………」

もうお昼時。本来なら、もう少し寝かせてあげたいが、この頑張って作った料理を、早く食べてもらいたかった。


数時間振りに護の部屋に戻った沙耶は、今作ってきたばかりのレンコンスープを勉強机の上に一旦置いて、その側に置いてある折りたたみ式の小さい机を取り出しす。

それをベットの近くに組み立て、その上にレンコンスープを置く。

「護、一回起きて」

沙耶は、ゆっくりと、護の身体を揺らす。朝より顔色がよくなっていて、沙耶は、少し安堵する。

「ん…………、ふぁ……」

護の背中を支えるようにして、沙耶は、護が身体を起こすのを手伝う。

「ありがと。姉ちゃん……」

「気にしなくて良いのよ」

護は、ゆっくりとベットから降りてくる。

「よっと……」

護の隣に、沙耶も座る。

「姉ちゃん、料理出来たんだな……」

「当たり前じゃない。一人暮らししてたんだから」

「そうだったな」

護の顔に、少しの笑みが溢れる。

良かった。まだ辛そうにはしているが、この護の顔を見れただけで、沙耶は、ひとまず安心できた。


護が沙耶が作った昼ごはんを食べている頃、護がいない教室では、葵、薫、心愛のテンションは、いつもより格段に下がっていた。

「「「はぁ…………」」」

三人のため息が、珍しく重なった。

昼休み。いつもなら、この護を含めた四人で弁当を食べたりしている。たまに、青春部まで行って食べたりもして、この昼休みは、いつも楽しいものであった。

それなのに、護がいないだけで、こうもなるとは思っていなかった。

それのおかげが、自分達の中で、護がどれだけ必要であるかを再確認した。

「薫、心愛」

「どうしたの? 」

「何? 」

唐突な葵の呼びかけに、二人はすぐに、ご飯を食べる手を休める。

「放課後。護君の家に行きますよね? お見舞いに」

「当たり前じゃない」

「そうよ。心配だし」

葵に聞かれるまでもなく、薫と心愛は、そう決めていた。

「そうよね」

心強い二人の返事に、葵はホッとする。


この日、羚は、屋上にいた。昼ごはんを食べるためだ。

羚としては、教室で食べる方が良かったのだが、栞達が誘うものだから、ここに来たのだ。

奇しくも、羚は、昨日保留した答えを出す機会を得られた、ということになる。

しかし、この場にいるのは、羚、栞、楓、凛の四人では無かった。

「羚君っ! その卵焼きちょうだいっ! 」

「駄目ですよ、ララ」

「えぇ…………、良いじゃないのよぉ」

ララとラン。そして、

「星華、これあげるよ」

「ん? ありがと」

星華と玲奈の姿もあった。

女の子七人に囲まれている羚。という構図が、そこに出来上がっていた。


……はぁ、何でこうなってるのよ……。

羚の向かい側に座っている星華は、心の中だけで、盛大にため息をつく。

本来なら、自分と玲奈だけが、この屋上で、女子トークに花を咲かせながらお弁当を食べていたのだ。

それが今では、こんな大人数になってしまっている。

別に、羚がいるのだから、別に人数は気にしない。むしろ、人が多い方が少しばかり好都合なのだ。

だか、今回は違う。

羚の姿を確認した時、星華は、羚とも一緒に昼ごはんを食べようとした。もう一度、自分達の仲を深めるために。

しかし、羚に続くようにして、栞、楓、凛が入ってきた。それぞれがお弁当を持って。

その時、星華はすぐに分かった。この三人は、羚と自分達だけの空間を作りたくてここに来ているのだと。そうなら、星華は邪魔出来なかった。

だけど、栞は、星華が考えていたことに反して、「一緒に食べよ」と、誘って来た。

だから、今こうしている。さらに、ララとランも加わったことは、予定外だったが。


「はぁ…………」

生徒会室で、早めにお弁当を食べ終えていた佳奈は、少しだけ溜まっている書類を整理しながら、ため息をつく。

「どうかしたの? 」

そのため息に、佳奈の左斜め前に座っている真弓が反応した。猫耳のようになっている髪飾りも、ピクっと動く。

「いや……、何でもない……」

「何でも無いようには、見えないんだけどな〜? 」

……まぁ、真弓になら言っても構わんか……。

「護が熱をだしてな……」

「護君が!? 」

「あぁ…………」

真弓は、驚き顔を見せる。真弓が驚くのも無理は無い。自分だって驚いているのだから。

「自分の風邪が移ったかも? って、気に病んでる? 」

「まぁな……。護はずっと私の側にいてくれたわけだし」

佳奈は、ここで一つの違和感を感じた。

「な、真弓……」

「ん? 」

「何で、私が風邪を引いていたことを知ってるんだ? 護から聞いたのか? 」

「うん、そういうことだね。偶然、昨日電車で会ったんだよ」

「そういうことか……」

「あ、そうそう。佳奈はさ、護君の家知ってる? 」

「そういえば知らないな。どうしてだ……? 」

「護君が熱出してるなら、お見舞いに行こうと思ってね。昨日、いつでも家に来てくださいって言われたし」

「なるほど……、お見舞いか…………」

「うん。もしかしたら、私達が行くころには、熱下がってるかもしれないけどね」

「それでも構わん。一回護の家に行きたいと思ってたし、護と会えるのならそれで良い」

「へぇ…………。なるほどねぇ」

佳奈のその言葉に、真弓は、ニヤニヤしながら頷く。

「何だ、その笑い…………」

「何でもないよ〜? 放課後が楽しみだね? 佳奈」

「そうだが……、授業中寝るんじゃないぞ? 」

「分かってるよぉ」

完全に、頭の中が、これからの授業より護のことに変わってしまっている真弓に、佳奈は注意する。自分もそうなっているから、自分に対しての戒めとしても。

薫達から、護が今日熱で学校休んでいる、ということを聞いてから、もう心ここに在らずの状態だった。

自分が移した。そうとしか思えないからだ。ずっと側にいてほしいなんてことを言ったから、護はずっといてくれた。

そのことには、とても感謝している。護が隣にいるというだけで、すごく安心出来たから。

なら、今度は。

…………私が隣にいる番だ。

都合の良いことに、明日六月十一日は火曜日だか休みなのだ。御崎高校の、創立記念日だ。


時は同じく、昼休み。

いつもと同じように速く昼ご飯を食べ終えた遥は、生徒会室ではなく、図書室に向かった。

遥は図書委員長であるが、昼休みは滅多に行かない。生徒会室に行くことが多いからだ。どちらにしても、そこにいる人と喋ったりして、時間を潰すだけなのだが。

「あれ? 遥じゃないか」

図書室に足を踏み入れると、遥に一つの声が届いた。

その声の方向に目をやると、貸し出しカウンターの所にいきついた。

「美魅音先輩っ!?」

佐倉 美魅音。赤色の髪を持ち、長さはショートヘア。それだけなら普通なのだが、美魅音の前髪は、いつも美魅音の左目を隠しているのだ。

「どうしたんですか? こんな所で」

慌てて、美魅音の場所まで移動する。

「瑠奈が風邪を引いちまったみたいでさ、あたしが変わりにしてるってわけ」

「そうだったんですか………」

美魅音は、さっきから、ここのカウンターに置かれているパソコンをいじっている。

このパソコンは、どの生徒がどんな本を借りているかを調るためのものだ。

「誰も借りにこないから、ずっと色んな人のやつみてたんだけど」

「は、はい」

美魅音はニヤっとして、ある一人の生徒名をクリックする。

「あ、私の? 」

「あぁ、そうだ。で、遥」

美魅音はそう言うと、遥の肩に腕を回して、言葉を続ける。

「面白い本借りてんだな? 『恋を叶えるための方法』ってやつ」

「なっ………………」

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