風邪 #2
案の定、電車は、後ちょっとのところで間に合わなかった。
猛ダッシュをした結果、ギリギリの時間に着けたのだが、切符を買わなければならないということを、忘れていた。
焦りのあまり小銭を地面にぶちまけたりしちゃったりもして、残念ながら、間に合わなかった。
次の電車がくるまで十五分あったので、少しだけ休むことが出来たが、疲れがあまり取れていない身体には、あんまり効かなかった。
姉ちゃんのほうも疲れていたようで、電車の中では、二人とも寝てしまっていた。これは、本当に危なかった。もうちょっと、降り遅れるところだったし。
「やっと着いた…………」
「そうだね…………」
そんなこんなで、家に着いた時には、もう八時になろうとしていた。
一旦呼吸を落ち着けてから、俺達は、我が家に入った。
姉ちゃんは、これからゆっくりと休むことが出来るが、俺は、そう出来ない。学校がある。
……あぁ、今日が休みだったらなぁ……。
そう思うが、今日は月曜日。これは、変わりようの無い事実だ。
「急がないと……」
靴も適当に脱ぎ捨て、俺は、ダッシュで階段を登ろうと、玄関から廊下に足を踏み入れた。
その瞬間。
「…………護っ!? 」
視界がぐらっと揺れ、驚く姉ちゃんの声を聞きながら、俺の意識は、ブラックアウトした。
「…………護っ!? 」
沙耶は、目の前で、護の身体が急に前方向に倒れるのを確認した。それを見て沙耶は、すぐにそれの原因が何か分かった。
沙耶は慌てて、廊下に倒れている抱きかかえる。
「熱…………」
護の顔は、赤くなっていた。熱によるものだ。沙耶は、おもむろに護のおでこに触れる。
「高い…………」
朝確認した時とは、比にならないくらい。熱が上がっている。
「っ…………」
沙耶は、護をおんぶした。二階に、護の自室に運ぶためだ。
「重くなった。護」
久しぶりにおんぶした護は重くなっていて、少し考え深いものがあるが、そんなことを思っている時間は、毛頭ない。
しっかりと護をおんぶして、沙耶は、階段を駆け上がった。護の重さを十分に感じながら。
「ふぅ…………」
ひとまず、安心出来る。
護を寝かせてから、隣に住む薫に電話したり、学校に電話したり、その他色々なことをやっていると、すぐに時間は過ぎて行き、もう九時になろうとしていた。
「護、護」
することが無くなったから、沙耶は、護の部屋にへと戻ることにした。もし護が起きたら、熱が移るからと言って、追い出されるかもしれないけれど。
目を覚ますと、俺はベットの上で寝ていた。
「…………ん」
記憶がちょっと曖昧になっている。家に帰って来たところまでは、覚えている。その後だ。その後からの記憶が無い。
「てか、学校……っ!! 」
俺は、慌ててベットから起き上がった。時間時間……。部屋にある時計に目をやると、時間は九時を過ぎていたところだ。
「っ…………」
頭が痛い。俺はどさっと、もう一回ベットに倒れ込む。
風邪引いたのかな……。起きた時も頭が少し痛かったが、その時の痛みとは比べられないほどに痛くなってるし、身体も、全体的にダルい。
風邪を引いたのなんて、何年振りだろうか。二年か一年振りなのかもしれない。
「携帯…………」
どこに置いていたのだろうか。さっきまではジーンズのポケットに入れていたはずなんだが、今は無い。
ちなみに、服が着替えられている。姉ちゃんが着替えさせてくれたのだろう。ありがたい。
俺は、重い身体をもう一回無理矢理起こして、部屋をぐるっと、見回す。
「あった…………」
机の上に、俺が持っていっていたポーチの横と一緒に置いてあった。
ゆっくりとベットから降りて、携帯を取りに行く。
「あ……」
携帯を手にした瞬間、部屋の扉が開いた。
沙耶が護の部屋に入ると、護はベットで寝ていなくて、携帯を手にして、こちらを向いていた。
「護! 大丈夫? 」
「ん、まぁ、大丈夫じゃないかもな…………」
護がベットに戻ったのを確認してから、沙耶は、護に近づいた。
「姉ちゃん……」
さりげなく、沙耶は、さっきと同じようにおでこに手を触れて、熱を確認する。体温計で測れば良いのかもしれないが、沙耶は、こっちの方を選んだ。常に護の側にいるからこそ、こうした方がすぐに分かるのだ。
「三十八度は超えてるかも…………」
「マジか…………」
「ゆっくりしなさいよ。食欲ある? 」
ベットの近くに、沙耶は身体を降ろす。
「まぁ、あるっちゃあるけど……、あんまり食べれないかな」
「ん、分かった」
護に何をしてあげられるか、沙耶は考える。そして、自分が風邪を引いた時のことを思い出して、何をすれば良いのかを考えてみる。
定番でいくなら、お粥とかを作ってあげれば良い。でも、もっと良いものを作ってあげたい。護のために。
……どうしようかな……。