青い空の下に訪れる春 #2
しーちゃんと羚が部屋を出てから数分後。本当に大きなソファを持って戻ってきた。
「デカイな。それ……」
「でしょ? 」
羚は楽そうに運んでいたが、しーちゃんは結構辛そうにしていた。
見た感じからしても重たそうだし、女の子が運ぶというのは大変だろう。
大きなテレビの前に大きなテーブルがあり、その前に今運んで来たものを置く。
こう三つも並んでいると、何やら存在感がある。
しーちゃんの指示通り、俺、雪ちゃん、楓ちゃん、凛ちゃん、羚、しーちゃんの順で座った。
「見るジャンルなにが良い? アクション映画、ミリタリーアクション映画、SF映画、コメディ映画、時代劇、ホラー映画、探偵映画、青春映画、西部劇、とかとか色んなものあるけど、どれが良い? 」
しーちゃんが、ずらずらと映画のジャンルを言ってくれる。
ふむ……。これは皆の意見を聞くパターンなのだろうか。映画は基本的に見ないし、どれにしたものか……。
「俺はミリタリーで」
「私はコメディかな……」
「SFだね。面白そうだし」
「わ、私は……、探偵映画……」
「青春映画かな」
見事に、全員の意見が割れた。
え? 俺が青春映画を選んだ理由? まぁ、入ってる部活が青春部だし、それが理由である。
「私はホラーが見たいんだけどなぁ……。どうしよっか……」
「じゃんけんで良いんじゃないか? これなら運だし、恨みっこ無しだ」
「そうだね」
そう言うとしーちゃんは、自分の手を見つめ出した。じゃんけんが弱いのだろうか。
当たり前だが、じゃんけんというのは運で成り立つゲーム(?)である。だから、連続で勝てる時もあれば、全くといってほど勝てない時もある。
でも、何となくだが、杏先輩は強そうな気がする。本当に何となくだけど……。
「行くよー? じゃんけん、ぽんっ!! 」
あいこだ。
「あいこで、しょ!! 」
決まった。
しーちゃんがパーで、残りの俺達がグー。しーちゃんの一人勝ちだ。
「よしっ! じゃ、ホラーだね」
ソファから立ち上がると、しーちゃんはテレビの前でしゃがみ込んだ。 そこに映画のフィルムが、一杯仕舞ってあるのだろう。
しーちゃんが勝ったため、見る映画のジャンルはホラーになった。
ホラー。幽霊とかゾンビとか、そんなものがわんさかと出てくることだろう。しーちゃんが、どの程度のレベルの物を見せてくれるのかは分からないけど。
二時間くらいが経っただろうか。しーちゃんがオススメしたホラー映画が終わった。
しーちゃんが見せてくれたのは、ホラーの中でもスプラッター映画と呼ばれるものだった。
出てきたのは幽霊ではなくゾンビで、そのゾンビに噛まれたりしたら自分もゾンビになってしまうという類いのものだった。
しーちゃんは本当に楽しそうに見ていたし、羚は凛ちゃんに手を握られていて、途中から顔がニヤニヤしだし映画に集中していないように見えた。
楓ちゃんと雪ちゃんは、凛ちゃんみたいに怖がることは無かった。雪ちゃんはそういうのが苦手だと思っていたが、それは俺の見当違いだったらしい。
まぁ、人のイメージというのは自分の中だけのものだし、他の人からみると違うイメージだったりする。そういうのを聞いてみたりすると、面白いのかもしれない。
「もう一回見る? 」
しーちゃんはそう聞いてくれたが、そのしーちゃんの表情はもう一回見たいとそう言っていた。
「もう昼前だしな……」
羚は渋っている。
もう一回見たいという思いはあるものの、それは時間と相談しなければならないだろう。
これからは街に戻ってショッピングをしないと駄目だろうし、その前には昼ご飯も食べなくてはならない。
「それもそうだね……」
しーちゃんはテーブルの上に置いていたリモコンを手に取り、テレビの電源を落とした。
「昼ご飯はどうする……? 私が作っても良いし、どこかで食べても良いし……」
「一之瀬料理するのか!? 」
案の定、羚が食いついた。これで羚がもし無反応だったりしたら、びっくりするところだ。
「それなりにはね」
「へぇ……、そうなんだ」
「栞が作る方が良いかもね。その方がお金も浮くから」
「私達も手伝えば、早く作れそうだしね」
凛ちゃんのその言葉に、楓ちゃんも雪ちゃんも頷いている。
「俺達も手伝った方が良いか? 」
「大丈夫だよ、宮永っち」
「そうか? 」
「うん」
しーちゃんは勢いよく立ち上がり、キッチンの方にへと走っていってしまった。
それに続くように、凛ちゃん達もキッチンの方に向かった。
さて、これから俺達はどうするべきか……。
「な、護」
羚が距離を詰めてきて、俺の名を呼ぶ。
「どうした? 」
「お前はさ……、女の子の手料理食べたことあるのか? 」
「あるって言ったらあるかな」
悠樹の手料理だが、あの時は俺も手伝っていたし……。
「やっぱりか」
「でも、そん時は俺も一緒に作ってたし」
「それは一緒に台所に並んだってことだよな? 」
「そう言われてみればそうだな」
そんな事を気にした事が無かった。俺が気にしなさすぎなのだろうか。
「お前はそういうの全然気にしないよな」
やっぱりそういうことなのか……?
「まぁ、それがお前らしいといえばそうなんだがな」
羚はそう言うと、何かを考えているかのようにうんうんと頷き始めた。一体何を考えていることやら。
「お、思ったんだけど……、四人で作る意味ってあるのかなぁ……」
雪菜は、申し訳なさそうに言葉を言葉を作った。
「それ言っちゃダメだよ、雪菜ちゃん。私も思ってたのに言わなかったんだから……」
楓が頭を抑えながら、雪菜に言葉を返す。
「別に良いと思うけどなぁ。四人で料理を作るなんてこと、滅多にないわけだし」
栞は冷蔵庫の中をのぞきながら言う。
「私も良いと思うよ? 楽しそうだしね」
「で、栞? 何を作るつもりなの? 」
「えっと……、宮永っちと羚君は結構食べるだろし、豚丼にしようかなって」
楓に言葉を返した栞は、冷蔵庫から豚こま肉、キャベツ、タマネギ、生姜、蜂蜜を取り出した。
「ね、凛」
「何? 」
「そこの調味料が置いてある所からさ、砂糖と醤油とめんつゆを取ってくれないかな? 」
「分かった」
凛は、栞に言われたものをめんつゆから順に取って行く。
……砂糖ってどっちだっけ……?
手伝うなんて自分から言い出したものの、凛は、料理を作ったことがない。そんな凛にとって、砂糖と塩の区別はつかない。たとえ取り間違えたとしても栞なら気付いてくれると思うが、絶対に笑われる。そして、リビングには羚もいるのだ。だから、こんな単純なミスなどあってはならない。
「凛? 何してるの? 」
栞から声がかかる。
「ごめん……。今行くよ」
どれだけの量を使うのかが分からなかったので、凛は近くにあったスプーンを手に取り、スプーンの横に置いてあった小さい皿の上に砂糖を適量のせて、栞の元に運んだ。
……料理か……。
雪菜はあまり料理をしたことがない。といっても姉もいるし栞もいるから、教えてもらったことは何回もある。
自分でも当初より出来るようになったとは思うものの、それは姉と栞が作る料理の劣化版でしかないのだ。
だから、雪菜は内心ドキドキしている。どんなことを頼まれるのだろうかと。
「あ、凛。またで悪いんだけどごま油取ってもらえるかな? 」
「うん。分かった」
凛にまた注文が入った。
少しばかりオドオドしているように、雪菜の目には映った。
……凛ちゃん、料理苦手なのかなぁ……。
「ねぇ、雪菜ちゃん」
凛からごま油を受け取った栞は、今度、雪菜に声をかける。
「ど、どうしたの……? 」
「お酒取ってもらって良い? 」
「お酒…………? 」
「うん。何か美味しくなりそうだし」
「わ、分かった」
栞はたまに、突拍子もないことを口にする時がある。料理に関して。
でもそれは、いつも功を奏するのだ。だから、雪菜は栞の言葉に頷く。
栞の家には沢山のお酒が置いてある。あるお酒のほとんどが料理に使うためのものである。
食器棚の近くに地下物置場が存在し、そこにはお酒が常に五本常備されている。
雪菜はしゃがみ込み、そこからお酒を取り出す。
「赤ワイン……」
どの種類が必要なのか、雪菜には分からなかった。
「栞ちゃん……っ。どんなやつが必要なの……? 」
いつもより大きな声を、雪菜は栞に向ける。
「日本酒ある? 」
置いてあるお酒を全て取り出し、日本酒があるかどうかを確認する。
「無かったよ……」
「そう? なら、仕方ないね。ゴメンね、雪菜ちゃん」
「良いよ……。気にしないで」
周りの皆に指示しながら自分のやるべきことをしっかりしている栞を見て、自分には出来ないことだなぁ、と思う。
栞が豚肉を切っている横で、楓は、栞から任されたタマネギとキャベツを切り刻んでいく。
それが終わればごま油やらを絡めて炒めるだけで、完成する。
栞のお弁当をよくつまみ食いをしているから、楓は、この手順で美味しく仕上がるのだと、確信している。
でも。
……何かもう一つ……。
「ねぇ、栞」
「ん? どうしたの? 」
「完成したらさ、上に卵乗せて見たらもっと美味しくなるかも」
「ゆで卵ってこと? 」
「そうそう。半熟にしてみたらより良いかもだし」
「時間もそんなにかからないし……。やってみようか」
「卵出しとくね」
丁度良い感じに切り終えられたことだし、楓は一度手を洗ってから、冷蔵庫に手をかける。
「ありがとう。中々良い案だね」
「でしょ? 栞のお弁当つまんでるから」
「なるほどね」
肉と野菜とを炒めている匂いが、リビングにいる羚達の元にも届いてくる。
それに混ざってくる二つの匂いがある。それは。
……ハチミツと…………、これは……、生姜か?
当たり前だが、羚は料理なんてものはしない。たとえ、女の子に作って、と言われたとしても、その時に出来上がるのは黒く焦げた何かだろう。
「生姜をすりおろした匂いだよな? 」
「あぁ、そうだろうな」
羚は、護の言葉に頷く。
料理をしない羚であっても、今漂ってくる匂いが何であるか、ということは分かる。
羚自身が料理をしなくても、羚の母が料理好きなのだ。
「後、ハチミツの匂いもするぞ」
「ハチミツ……? 」
「おぅよ」
護が料理をしている皆の方を向いたので、羚も護に倣う。
後ろ姿から見るに、エプロンを着けているのは栞だけだと分かる。
羚が手料理を食べたい、と言った理由の一つにそれがある。ただ、エプロン姿が見たかったのだ。女の子の。出来ることなら、栞以外の人のエプロン姿も見てみたかったなぁ、と思う。
「そう言われればするな……」
「だろ? 」
護と羚の視線を感じたのだろうか、楓の横で事の成り行きを見ていた凛がこちらを向いた。
……俺か?
凛の笑顔が自分に向けられていたような気がしたから、そんな凛に、羚は笑みを返す。
凛はその羚の微笑みを受け、すぐに顔を赤くして、顔をそらしてしまった。
俺は、凛ちゃんの視線が俺ではなく隣の羚に向けられたものだと、すぐに分かった。
横目で羚を見てみると、普通に笑顔で凛ちゃんの方を見ていた。いつもみたいに、何やら変な笑みを浮かべているものだと思っていたから、ちょっとびっくり。
そんないつもとは少し違う羚の笑顔を受けてか、凛ちゃんは顔を赤くして、すぐに視線を戻してしまった。
む……、これはつまり…………、あー、分からん……。
俺が何やらモヤモヤとした気持ちを覚えてから数分後、昼ご飯が出来た。
しーちゃんの家は六人家族というわけではないので、ダイニングチェアが六個もない。
こればっかりはどうにもならないので、皆、リビングのテーブルを囲んで食べることになった。
しーちゃん達が作ってくれたのは、豚丼だった。しーちゃん曰く、キャベツも一杯乗ってるから豚キャベ丼だー、ということらしい。
何より良かったのが、上にチョコンと可愛らしく乗っていた温泉卵だった。これが良い感じの半熟具合いで、中々良かった。
俺も何度か挑戦してみたことがあったが、こんなに上手くはいかなかった。あれは、案外難しいものなのだ。時間をちょっとでも間違えると、固すぎたり、きちんと半熟にならなかったりするのだ。後でコツとかを教えて欲しいものだ。
羚もとても美味しそうに食べていたし、そんな羚を見ているしーちゃんと凛ちゃんもとても嬉しそうにしていた。
家族との食事、というのが一番良いものなのだが、友達とのこういう風な食事もまた一風違うもので、良いなぁ、と思う。
後片付けは俺達男もするということになった。こんなに美味しい物をご馳走になったのだから、皿洗いはしなければならない。
一回は、しーちゃんの発言で全員で洗おうということになったのだが、キッチンに六人は並べなかった。
だから、頑張ってたと楓ちゃんと雪ちゃんに言われたしーちゃんと凛ちゃんには休んでもらうことにした。二人が結構残念そうな顔をしてたのが、ちょっと不思議だった……。
「これから駅の方まで行くけど、雪菜ちゃんも来るよね? 」
「うん」
片付けも全部終わった後、一旦しーちゃんの部屋に集まることになった。しーちゃんの部屋の隣に弟さんの部屋もあった。へぇ、弟いたんだ。
俺の部屋に杏先輩達が集まった時もそうだが、大人数が集まると元が大きな部屋だとしても、狭狭とした感覚がある。
「やっぱりそうこなくっちゃね」
「何しに行くの? 」
「買い物かなぁ……」
「買い物……? 」
「うん。服とか、もうすぐ夏だし」
「なるほど……」
今日もそこそこ暑く、こんな日が来ると、梅雨が来て夏が来るんだなぁ、と思う。
……梅雨か……。
雨が嫌いというわけではないが、あのジメジメとした空気は好きではない。
「それに宮永っちと羚君がいるし、男の子の意見も聞ける。こんなチャンスはもう無いかもだし」
「本来の目的はこっちだもんね」
そうだ。もう色々と楽しくて、最初にしーちゃん達と約束したことを忘れてしまいそうになるが、服とかを買ったり、見て回ったりするのが、本来の目的なのだ。
「そっか……」
対面にいる雪ちゃんの視線が、俺の方を向いた。
「どうかした? 」
「何でもないよ、まーくん」
「そうか」
雪ちゃんは俺から目線を外すと、しーちゃんの方を向き。
「もう……、行く? 」
「そうだね。休憩も出来たことだし。じゃ、れっつごー」
また少し長い道を戻らなければならないと考えれば大変なのだが、下り坂だしそう思えば楽だ。それに、しーちゃん達の楽しそうな顔を見ていると、余計に楽しくなってくる。朝に猛烈に感じていた眠気も、どっかにいってしまったようだし。
久し振りに駅の近くまでやってきた雪菜は、やはり人が多いと思ってしまう。近くに住んでいるとしても、雪菜はあまり外にでないため、何か用事がない限りこんな場所にはこない。
使うとするなら、鳥宮駅の一つ前の駅、向蔵駅だ。実は、この向蔵駅の方が近いのだが、傾斜が急なため、大変なのだ。
人の多さで言うなら、鳥宮駅の方が上だ。まだデパートや、ファストフード店などがある。
しかし、向蔵駅にはそのような規模の大きいものなどは存在しない。せいぜい、コンビニ程度のものだ。
何せ向蔵駅は、昔から田んぼや畑などが多く存在し、それで生計を建ててきた人が多い。それは、今も昔も変わらない。だから、遅れて都市開発し始めた鳥宮駅周辺よりも遅れているのだ。
でも、遅れているからこそ、まだきっちりと自然が守られている。わざわざ、その自然を見るためだけにやってくる人もいるのだとか。
雪菜もどちらかといえば、都市の喧騒に包まれるより、野山の優雅で新鮮な空気に包まれる方が好きだ。そこに護との思い出もあるから。
「雪菜ちゃん。何ぼーっとしてるの! 早く行くよ! 」
人々の喧騒の間を縫うよに、栞の大きな通る声が雪菜の耳に届く。
昔の思い出を振り返っている時間は無い。
「今行くよ、待って」
雪菜は先に行く栞達に向けて、声を出す。
護の横を、雪菜は並んで歩く。
自分の横に、隣に護がいてくれる。ただそれだけのことで、雪菜は安心することが出来る。その安心出来る時間を、もっと長く、もっと長く感じていたいとそう思う。
幸い、今日のこのメンバーは、護との時間を邪魔してくる人達はいない。
雪菜は、少しだけ足を前に出すペースを落とす。護の服の袖をちょっと引っ張りながら。
「どうした、雪ちゃん? 」
「何でもないよ」
そうすると、護は自然とペースを合わせてくれた。それにより、栞、羚、楓、凛のペアと護、雪菜のペアが出来る。
「どした? 宮永っち? 」
「こうした方が道幅使わないし、他の人に迷惑かからないから良いかなって思ってさ」
護は、それらしい理由を作って言っている。護は普通に自然に、こういったことを考え、実行に移すことが出来る人である、と雪菜はそう思っている。
「なるほど、さすが宮永っち」
「横一列ってのは、幅取るからねぇ」
栞も楓も、護のその理由に頷いている。
栞は、他の人に迷惑がかからないようにするという名目で、左隣にいる羚との距離を少しだけ詰める。
「羚君はさ、どんな女の子がタイプなのさ? 」
唐突に、楓が聞いた。
その楓の言葉に、栞と凛がびくっと反応する。そんな二人を、雪菜は後ろから見ている。
「タイプ? 」
「うん。中学の時から一緒だけど、聞いてなかったから」
「今答えないと駄目なのか? 」
「聞かせてもらえるなら、私はいつでも良いんだけど、凛と栞は今聞きたいみたいだよ? 」
「い……、あ……」
「わ……、や……」
またしても唐突すぎる楓の言葉に、また二人は口を開けてびっくりする。
「あれ? 違う? 」
「知りたいけど……」
「気になる……」
「ほら、羚? 」
「分かった分かった……」
羚は頭をかきながら、顔を赤くする。
「料理とかそういうのが出来る人とかが良いけど、やっぱり、俺を好きになってくれる人かな……」
……お、羚君良いこと言った……。
その羚の言葉を受けて、栞達はポカーンと口を開けて固まっていた。
「ん? 何だ? その反応……」
「羚からそんな言葉が聞けるとは思ってなかったから……。ね? 凛、栞? 」
「うん……」
「びっくりしちゃった……」
「そんなに変……、だったか? 」
「そうじゃないのよ。羚のことだから、外見とか言ってくると思って」
「そりゃ、それも気にするけどさぁ……、一番大事なのは気持ちだろ? 」
羚が珍しく良いことを言った。
ここまでのことを羚の口から聞くことが出来るとは、思ってなかった。
だからこそ、質問をした楓も驚いているのだろう。
俺だって、身長は高い方が良いとか、髪型はこんなのが好きだとか、そういうのを言ってくると思ってた。
「護だって、そう思うだろ? 」
羚は、俺に振ってくる。
「まぁ、そうだけどさ……」
「宮永っちの口からそれを聞いても驚かないんだけど……」
俺も聞かれていたら、そう答えてかもしれない。実際に、そうなのだから。
「護君なら、驚かないね」
「そうね」
凛ちゃんと楓ちゃんも、そう思っているらしい。俺のイメージって、そういう感じなのか。
「あ、この店」
しーちゃんが足を止め、自分の右側にある店を指差した。
【COLULU】
これが、しーちゃんかま案内してくれた店の名前だった。
あ、この店俺も知ってる。姉ちゃんに、よく買い物に付き合わされることがあるのだが、その時にこんな感じの店の名前を見たような気がする。
「この店って、御崎駅の所にもあるよね……? 」
凛ちゃんが、しーちゃんに訪ねた。
「うん。御崎市にいっぱいあるみたいだね」
「そうだったんだ」
「凛もよく来るの? 」
「まぁね」
「楓は知ってる? 」
「いや、あんまり。私基本パソコンでしか買わないから、知らなかった」
「あぁ、パソコン楽だもんね」
「そうそう」
女の子三人で盛り上がっているなか、雪ちゃんは、ずっと俺の横にいる。混ざらないのだろうか。
「ねぇ、まーくん……」
「ん? どうした? 」
「まーくんは、部活入ってるの……? 」
どうやら雪ちゃんは、しーちゃん達に混ざるより、俺と話すことを選んだようだ。
「入ってるといえば入ってるけど……」
入部届けも出してあるし、一応部活はしているという体になっている。しかし、青春部を部活としても良いのだろうか? イマイチ何をしているのか分からない。
集まっても喋ったりしているだけだし、休日に部活と称して集まったとしても、同じことが行われることだろう。
このような部活は、他の高校やら中学やらにもあったりするのだろうか。あったと仮定するならば、その部活に入ってる人の中には、今の俺と同じようなことを考えているのかもしれない。
「どんな……、部活? 」
難しい質問がきた。どんな部活なのか、それは俺も知りたいことだ。
「部員との親交を深める部活かな? 」
こんな感じのことを、杏先輩が言っていたような気がする。あくまで、気がするだけ。
「そうなんだ。似たような部活があるんだね……」
「雪ちゃんの学校にもあるのか? 」
「う、うん。私は入ってないんだけどね」
「へぇ。あるもんなんだな」
雪ちゃんのところにもあるやつも、こっちの青春部みたいな感じなのだろうか。どんなのかは少し気になる。あるかも、とは思っていたが、本当にあるなんて思ってなかったし。
……似たような部活があるんだ……。
と、雪菜は思う。
そのような部活は、自分の学校にしかないものだと思っていたからだ。
自分の友達が、その部活に入っている。
その友達がその部活に入ってから、いつも元気で、毎日を楽しんでいる、という印象を、その娘に対して持っている。
それは、恋というものが関係しているのかもしれない。よく話を聞くことが多い。
雪菜自身、小さい頃護に会ってから、少し変わったと思っているからだ。今日護に会ったことで、また少し、自分に変化が起こるかもしれない。恋に対しての。
「楽しい……? 部活は」
「まぁな。大変な時もあったりするんだけど……」
護は、そっと笑って見せる。
……まーくんは、人が良いから……
と、雪菜は護のことを考える。だから、振り回されることも多いのかもしれない。
「それには、慣れた……? 」
「まぁ、姉ちゃんに毎日振り回されてたしな、中学の時とかは……」
……沙耶さんだっけ……。
「沙耶さん……、元気? 」
「うん。姉ちゃんがしょんぼりしてたりしたら、大変だな。まだそんなところ見たことないし」
「沙耶さん……、いつも元気だもんね」
片手で数えるほどしか会ったことは無いが、雪菜の中には、そういう印象があった。