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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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princesse du nuit #5

だけど、佳奈はそんなことを気にしているようには見えない。俺が気にし過ぎているだけなのだろうか。

佳奈は一旦俺の肩に手を置き、離れようとするが。

「……っ」

「佳奈っ……!? 」

佳奈はまたふらっとして、倒れそうになる。

俺は腰をおろして、慌てて佳奈を抱きとめる。

「どうしたんですか? 佳奈……」

「わ、分からん……。どうも力が入らなくてな…………」

そう言う佳奈の顔は少し火照っていた。俺の腕に伝わってくる体温も、少し高い。

「失礼しますね……」

俺は佳奈の前髪を分け、おでこに触れる。

……熱……。

「熱あるじゃないですかっ! 」

触っただけだから詳しくは分からないが、三十八度は軽く超えてそうな感じだ。

「そうか…………」

佳奈の声には、いつものビシッとしたものが無かった。

俺は佳奈を抱きかかえ、立つ。

所謂、お姫様抱っこというやつをしているわけだが、今はそんなことをして恥ずかしがっている場合ではない。

「護……、重くないか……」

「何言ってるんですか……。大丈夫ですよ」

「それと……、敬語に戻ってるぞ……」

「今はそんな場合じゃないです」

そんな約束をしたなぁ、と思い出しながら、俺は佳奈をベットに寝かせる。

「はぁはぁ…………」

佳奈の首筋とおでこに、少しだけであったが汗が滲んでいる。

もう六月ではあるが、そんなに暑くはない。やはり、熱が高いからなんだろう。

「咲夜さんを呼んできます」

「あぁ…………」

俺が扉に向かおうとしたタイミングで、勝手にとびらが開いて、珍しく慌てている咲夜さんが部屋に入って来た。

「佳奈お嬢様。どうかされましたか」

「熱があるようで……」

「そうですか」

咲夜さんは、スーツの内ポケットから体温計を取り出した。

この場合、それが必要になるが、どうしてそんなところに入っているのだろうか。もしかして、何かを感じ取って持ってきたと……。

「佳奈お嬢様。少し失礼しますね」

「咲夜か…………。悪いな」

「私は佳奈お嬢様のメイドですから、気にしないでください」

俺はそんな咲夜さんを、無言で見ていた。

「護」

「はい」

「護は今のうちにご飯を食べてきてください。佳奈お嬢様は私が見てますから」

「何言ってるんですか……。俺もここにいますよ」

「ふふ。護なら、そう言うと思ってました」

咲夜さんは一度俺に微笑みかけると、すぐに視線を佳奈に戻した。


体温計が、佳奈の体温を測り終わったということを、知らせる。

「三十八度七分ですね」

俺や薫でも滅多に出ない高熱だ。

植物園の時、佳奈はいつも以上に楽しそうにしていたし、柄にも無くはしゃぎ過ぎたのだろう。家に戻ってから雨に濡れたりもしたし、それも高熱が出たということに関係してるのかもしれない。

「咲夜…………」

「どうかしましたか? 」

「着替えるの……、手伝ってもらっていいか……? 」

「分かりました」

着替えるというのなら、俺のというか男子の出番はもう無い。部屋から出た方が良いのだろうか……。

「護。どこに行こうとしているのですか? 」

さりげなく部屋から出ようとした俺を、咲夜さんの声が仕留めた。

「な、何でしょうか……」

「護には手伝って欲しいことがあるのですから、ここにいてくださいね」

「俺にですか……? 」

俺に何が手伝えるというのだろうか……。

「はい。そこの五段あるタンスの二段目にパジャマが、四段目に下着があるので取ってください」

「あ、はい……」

咲夜さんに言われた通りに俺は、まず緑色を基調としたパジャマを取り出して、五段目に手をかけた。

……ん?

俺は引く前に、手を止めた。

「下着…………? 」

「はい。下着です。どれでもいいですから」

「…………」

どれでも良いとかじゃなくて、え? 俺が出すの? 佳奈の下着を…………?

俺はタンスから目を離し、咲夜さんに視線を向ける。

咲夜さんが笑っている……。何か怖い……。

この部屋に他の人がいれば良いのだが、そんな都合の良いように俺を助けてくれる救世主はいない。残念なことだが……。

仕方無いので、男子共の夢が詰まっている引き出しを開けた。

「…………」

咲夜さんはどれでも良い、と言っていたし俺は目を瞑ったまま、適当に手に取った。

俺はすぐに引き出しを閉めて、咲夜さんに手渡す。

「ありがとうございます。さすが護は優しいですね。正直、今回ばかりは聞いてくれないと思ってました」

「いえ……」

誰ですか……、笑いながらこっちを凝視していた人は……。はぁ……、何かどっと疲れた。これからしーちゃんの家にも行かなくちゃならないのに。

「ん? 」

「どうかしましたか……? 」

佳奈のお父さんとお母さんは昨日から見かけてないから、家にはいないのだろう。となると、家の中にいるのは、俺と佳奈と咲夜さんだけ。

咲夜さんには送ってもらうことになっているから、その間は佳奈が一人になってしまう。

高熱があるから、一人にしておくのにはちょっと不安がある。

「咲夜さん」

「はい」

「こっちから頼んでおいて悪いんですけど、やっぱり電車で行きます。佳奈がこんな状態ですし……」

予定が無かったらずっとここにいたいのだが、そういうわけにもいかない。

「そうですか。まぁ、仕方無いですね。佳奈お嬢様を一人にするのは不安ですから」

「すいません」

「気にしないでください。丁度雨も弱くなってきてますしね」

少し耳をすましてみると、さっきは部屋の中にいても聞こえていた雨音が、聞こえなくなってきている。

良かった。これなら大丈夫そうだ。


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