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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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princesse du nuit #3

「本当にこのまま寝るんですか……? 」

「うん。私はもう寝るからな」

「…………」

一度外した手をもう一度握ると、佳奈は目を閉じてしまった。

こんなに距離が近くないなら寝れるのかもしれない。しかし、今は数センチしか離れていない目の前に、佳奈がいる。さっきまた、手を繋がれてしまったため、離れることも出来ない。

……寝れるのか? こんな状況で……。

佳奈の顔も、俺と同じように赤くなっているが、すぐに寝てしまうことだろう。

……寝ないと駄目なんだけどな……。

咲夜さんに送ってもらえるから、最初考えた時間より早くは出なくても良いが、このままだと明日の朝起きれないなんて事態も、考えられる。

……あ、羚に連絡してないや……。

しーちゃんに集合場所やらを教えてもらった後、羚にも伝え、一緒に行くことにしたのだが、後で集合時間決めようなんてことを言っておきながら、何もしていなかった。

……ヤバイな……。

こっちは送ってもらうことになったし、羚には一人で鳥宮駅まで行ってもらわなければならない。咲夜さんに頼んだら、快く承諾してくれて、一緒に乗せていってくれるかもしれない。

……あ、でも凛ちゃん達と一緒なのかな……。

家が近いと言っていたし、わざわざ現地で待ち合わせる必要が、あの三人にはない。

……考えても仕方ないか……。

今考えても、どうにもならない。早く起きて、連絡するしかない。まぁ、起きれるかは怪しいところではあるが……。

「寝よ……」

俺は一応目を閉じた。寝れるかどうか分からないけど。


……寝れない……。

この体制じゃ時計を見ることも出来ないし、今が何時かも分からない。二時くらいになってるかもしれないし、もしかしたら、三時とかにもなってるかもしれない。

佳奈はもうとっくに寝てしまっているし、佳奈の寝息が普通に感じられる。

佳奈の顔がすぐそこ、数センチの距離にあるということは、佳奈の唇もそこにあるということである。

「すぅ……」

閉じていた佳奈の唇が、艶しく開く。

「…………っ!! 」

俺は顔をそらすことが出来ないので、目を瞑る。

……寝れねぇよ……。

「……護様…………」

「ひあっ…………っっ」

寝返りでもうったのだろう、咲夜さんが俺の背中にぴったりとくっついてきた。

その衝撃で、佳奈の唇と俺の唇との距離が数ミリまでに近づいてしまう。

……あ、危ないっ……。

俺は寸前で、佳奈とキスをしてしまうという出来事を回避した。

回避したとしても、この状態が俺の理性にとって危険だということは、何ら変わりない。

「…………っ」

口を動かすことが出来ない。動かそうものなら、佳奈の唇と俺の唇とが触れてしまう。

といっても、この姿勢から抜け出すことは出来ない。

背中に咲夜さんがいるため、身体を動かすことが出来ないのだ。

……どうすんだ……。これ……。

どうすることも出来ない現実が、そこにある。

いっそのこと、キスしてしまえば楽になる…………、わけがない。

咲夜さんがすこしでも俺の背中から離れてくれれば、この状況を打開することが出来るだろう。

しかし、いつ訪れるか分からない希望は待ってられない。

「護様…………」

咲夜さんは、またしても寝言で俺を呼ぶ。俺が夢に出てきているのだろうか。

それを合図とするように、咲夜さんの手が俺のお腹に回ってくる。俺に抱きつくかのように。

咲夜さんの寝相が悪いのか。それとも実は起きていて、この状況を楽しんでこんなことをしているのかもしれない。もし後者だとするならば、後で少しだけ怒りたいほどである。前者であると信じたい。

「……さくやさーん……」

俺はなるべく口を開かないようにして、背中にいる咲夜さんに声をかけた。

「…………すぅ」

案の定、咲夜さんから返ってきたのは、俺の背中をくすぐる寝息だけだった。

……さて……、どうすっかなぁ……。

勝手に瞼が下がってくれるわけがないし、当たり前だが、寝れるわけがない。普通に挟まれているより、危険な状態になっているのだ。

「まもる………………」

今度は佳奈が寝言で俺を呼ぶ。

……喋らないで佳奈っ……。

幸い、佳奈はごにょごにょと小さく口を動かしただけだった。

それですら、今は危険なんだけど……。

「まもる……」

今度は佳奈はさっきより大きめに口を開き、こちらとの距離を詰めるように。

……動いたらダメだって……。

「…………んっ!!!! 」

俺の唇が、佳奈の唇によって塞がれた。

……あぁ、キス……、しちゃったよ……。

佳奈の舌が、俺の唇の上を少しだけ動く。

……っっっっっっ!!!!

さっきの状態で動けなかったのだから、勿論、この状態でも動くことが出来ない。

「はぁぁ……………………」

佳奈の口からもれた息が、俺の方にへと伝わってくる。

「……っ!!!! 」

さっきよりも柔らかい感覚を持って、佳奈の舌が俺の唇の上を這う。

「ちゅっ……、っ……」

「…………っ」

耐え切れなくなった俺は、後ろに咲夜さんがいるのにも関わらず、自分の唇を佳奈のそれと引き剥がすように、身体を後ろにへと動かした。

「んっ……、ん? 」

まだ寝ている佳奈を起こさないようにしながら、俺は佳奈と繋がっている手を離し、咲夜さんのほうを向いた。

「護……? 」

俺が後ろに下がってしまったことにより、咲夜さんは起きてしまったらしい。

「あぁ、すいません。起こしてしまいましたね……」

「気にしないでください。それにしても、今まで起きていたのですか? 」

「え、まぁ……」

さっきまでのことなんて、口には出せない。佳奈が寝ていたしても、佳奈とキスをしてしまったなんてことは。

「何をしていらしたのかは、聞かないでおきましょう」

……はぁ……、良かった……。

俺は心の中で安堵する。

「しょっと…………」

咲夜さんはもぞもぞと動きだし、どこからか携帯を取り出した。

ベットの周りには佳奈の時計しか置いてないし、咲夜さんの服は少しだけ透けているようにも見えるネグリジェだ。携帯をしまっておくところなんてものは無いはずである。

「もう四時半ですね……」

咲夜さんはそう言いながら、ベットから出てしまった。

「もう起きるんですか? 」

「えぇ」

咲夜の睡眠時間は三時間ちょっとだ。俺ならこんな少ない睡眠時間では、その日眠た過ぎて大変なことになりそうだ。

「眠たくないんですか……? 」

「少し眠たいですが、護の……、いえ何でも無いです」

「ん? 」

咲夜さんが珍しくも口を濁した。

「私はこの後しなければならないことがあるので、護も寝るなら寝ておいてくださいね」

「もう寝れませんよ。今から寝てしまったら恐らく昼頃までは起きてこれません」

「そうですか。なら、着替えます? もう護の服も乾いてますし」

そう言われ、俺は咲夜さんの服を着ていたことを思い出した。

「わ……。そうですね」

「じゃ、持って来ますから待っていてください」

「あ、はい……」

咲夜さんは、俺がはいと言うよりも先に部屋から出て行ってしまった。

「…………」

ベットに潜ったままというのも何か気まずいから、俺もベットから出て、佳奈が毎日勉強する時に座っているであろう椅子に腰をおろした。

ベットが部屋の入り口から見て左端に寄せてあって、今俺がいる場所はそれの丁度反対側。佳奈の寝顔がよく見える。

佳奈はさっきまでのことは何も無かったかのように、気持ち良さそうに寝ている。

佳奈はこの後普通に起きて、いつも通りに接してくれることだろう。というか、そうしてくれないと困る。

「護。戻って来ました」

咲夜さんが戻ってきた。本当にすぐだ。

咲夜さんは、俺が昨日着ていた服を渡してくれる。

「ありがとうございます」

「護は今日も出かけるんでしたよね? 」

「はい。そうですけど……」

「雨……、降ってますよ?」

「……え? 」

寝ている佳奈を置いて、手渡された服を手に持ったまま咲夜さんについて行き、部屋を出る。

「ほら、見てください」

佳奈の部屋から出て、三階のベランダにへと出る。

そのベランダは、横にも前にも広く大きいものだった。

この家は、コの字の形になっているから、反対側にも繋がっているのだろう。

屋根もついているから雨で濡れることは無い。

「本当ですね……」

その雨は、俺に外に出るなと言っているかの如く、強く降っていた。遠くでは、雷鳴が轟く音さえも聞こえる。

家に出る前に天気予報でも見てこれば良かったなぁ、と俺は後悔する。

昨日の朝の時点でとても晴れていたから、明日所謂今日、雨が降るなんて微塵も思っていなかった。

「護? どうされますか? 」

「雨といっても映画を見るのは家の中ですからね……。それは出来るかもしれませんが、買い物は出来ないかもしれませんね……」

この雨の中、傘をさしながらショッピングをするというのは、少しばかり無理があるだろう。

傘では防げないほどの雨が降っている。

「買い物は無理でしょうね…………」

「まぁ、もうちょっと時間経ったら連絡してみます」

「はい。それが良さそうですね」

俺達はその会話を最後に、リビングから出て三階の廊下に戻った。

「じゃ、私は残りの用事を片付けてきますね」

「あ、はい」

「そのまま朝食も作るので、出来たら呼びにきますね」

「分かりました」

佳奈の部屋の前まで一緒に歩き、咲夜さんが階段を下りたのを確認してから、俺は佳奈の部屋に戻った。

「ふぅ……」

さっきは気づかなかったが、雨が降っている音は佳奈の部屋からも聞こえるほどだった。気にし始めたら、余計に降っているようにも聞こえる。

そんな中、佳奈はまだ寝ている。起こすのもあれだし、まだ寝かせておくほうが良いだろう。

咲夜さんが呼びにきた時か、それよりちょっと前に起こせれば、それで良いと思う。

「ん……? 」

部屋の扉の近くに置いてあった自分の鞄から、携帯のバイブレーションの音が聞こえた。

……こんな時間に……?

俺はそう思いながらも慌てて、携帯を取り耳に当てる。

「もしもし? 」

「あ、こんな時間にごめんなさい。護君。凛です」

凛ちゃんのいつも通りの声が、携帯越しから聞こえる。

「凛ちゃん? どうしたんだ? 」

「護君は、今雨降ってるの知ってますか? 」

「うん、知ってるよ。今確認したから」

「そうですか。それにしても護君。こんな時間から起きているのですか? 」

「いや……、今日はたまたま。凛ちゃんこそ、こんな時間にびっくりしたよ」

まぁ、色々あったのだが、言うわけにはいかない。しーちゃんほどでは無いが、聞かれるかもしれないし。

「色々やることがあって、四時に目覚ましをセットしていたのです」

「やること? 」

「まぁ、そんなことより……」

話を変えられた。

「今日……、どうしますか……? 」

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