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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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princesse du nuit #2

咲夜さんは、二十七歳とは思えないような可愛さをたまに俺に見せてくれる。

そんなことを口には出さないんだけど……。

それより、一体いつまで咲夜さんとおでこをくっつけ合っていれば良いのだろうか。若干慣れてきてしまったかも……。

「沙耶様に会いたくなってきました」

咲夜さんは、そうポツリと声をもらした。

「会いに来ますか……? 」

「良いんですか? 」

「えぇ。佳奈も俺の姉ちゃんに会いたいって言ったましたし、丁度良いですから」

「なるほど……」

「佳奈には来週くらいって言いましたが、変えた方が良いですかね? 咲夜忙しそうですし」

「別に私はいつでも良いですよ。忙しさであれば、私より佳奈お嬢様の方が上ですよ? 」

「そうなんですか? 」

咲夜さんの方が忙しそうに見える。家事全般をやっていることだろうし、この広い部屋部屋をを掃除しようと思うと大変だろう。

「はい。佳奈お嬢様は生徒会長ですから」

「あぁ、そうでしたね……」

中学の時とかは、色々な人の頼みで生徒会やらを手伝っていたこともあるが、大変だったとは思わなかった。

まぁ、中学と高校じゃ忙しさにも差がかなりでると思うが。

「護はそういうのやったことないんですか? 」

「手伝ったことはありますよ。かなり頼まれることも多かったですし……」

「護は優しいですから、皆が頼るのでしょう? 」

「頼られるほど、そんなに良いことはしてませんでしたよ? 」

「そうだとしても、護ならやってくれるとそう思われていたのでしょう。優しいですから」

優しいと言われると、ちょっと小っ恥ずかしい。ただ……、まぁ良いや……。

「ありがとうございます。咲夜はやってたんですか……? 」

「えぇ。副会長をしてました」

「へぇ、そうなんですか……」

「やるつもりは無かったのですが、どうも断れなくて……。でも、楽しかったですし、やって良かったと思ってます」

……楽しいか……。

「それも十年も前の話ですし、今はどうか分かりませんよ? 佳奈お嬢様が生徒会長なのですから、厳しいかもしれません」

厳しいのはそうだが、その中にも優しさがあるだろう。俺は優しさの方が強いのでは、と思っている。

「手伝ってみても良いのかもしれませんね……」

「生徒会役員補助員みたいな役職もあるからな、手伝ってくれるなら、私は大歓迎だぞ? 」

「そんなのがあったんですね……」

俺の背後から声がかかった。

「護、咲夜……。こんな時間まで一体何をしてるんだ…………? 」

佳奈の低い、怒りを含んだ声がする。

……あ、まずい……?

話してるだけならまだしも、何度も言うが俺と咲夜さんは、おでこをくっつけ合ったままだ。

「何もしてませんよ? ただ楽しく護とお話をしていただけです」

咲夜さんの声は、佳奈に怯えることなく、きっちりとしたものだった。

後ろから感じることのできる威圧感に恐怖を感じているのは、俺だけなのかもしれない。

「ほぅ……。ただ話すだけだというのに、そんなにくっつく必要があるのか……? 」

「まぁ、ないですね」

咲夜さんはあっけらかんと言う。

「……。はぁ、分かった……。喋ることに関しては好きにしてくれて良い。ただ、あまり声を出さないようにしてくれ」

「はい」

「は、はい……」

その声を最後に、佳奈の威圧感はだんだんと薄くなっていく。はぁ、良かった……。

それにしても、佳奈は普通に引いてくれたなぁ、と思う。もうすこし、咲夜さんと佳奈の言い合いみたいなのが、聞けるかと思ってたのだが。佳奈も咲夜さんどちらも負けず嫌いなような気もするし。

「ふぅ……」

息をもらした咲夜さんは、おでこをようやく離してくれた。

「咲夜……? 」

……そういえばネグリジェ来てたんだよな。咲夜さんって……。

咲夜さんのそんな姿は、俺にとって目の毒だ。

「もう寝ましょうか。時間も遅いですから」

「そ、そうですね……」

咲夜さんが俺から視線を外し天井に目をやったので、俺も咲夜さんと同じように天井を見る。

「おやすみなさい。護」

「はい。おやすみなさい」

もう一回咲夜さんに視線を送ると、咲夜さんはもう目を閉じていた。まだ寝ていないようだけど。

またしても俺は、咲夜さんに倣うように目を閉じてみる。

「……すぅ……、はぁ……、すぅ……」

咲夜さんから寝息が聞こえる。

寝ていないと思ったのは、俺の勘違いだったらしい。

「すぅ………………、すぅ……」

佳奈の方からも寝息が聞こえる。

どうやら二人とも寝てしまったらしい。

ということは、俺が一人寝れずに残されたということになる。

明日も用があるから、そろそろ寝ないと大変なことになるんだけど。

「寝れない……」

俺は一人言のように声をもらした。

咲夜さんと佳奈に挟まれて寝れる人がいるというのなら、俺に寝れる方法を教えて欲しい。

「寝れないのか……? 」

横から声が飛んで来たので驚いてそっちに目をやると、佳奈が起きていた。

寝ていると思っていたのだが、さっきの寝息は演技だったらしい。

「騙された…………」

「ん? どうかしたのか……? 」

「いや……。なんでもないです……」

俺は少し、佳奈との距離を詰める。

「佳奈……? 」

「どうした? 」

「おでこ…………、くっつけますか……? 」

そう言うと、佳奈の目がいつもより輝いていることを確認した。

「良いのか……? 」

「まぁ、咲夜さんともしていたわけですし……」

「さっきは聞かなかったが……、何であんなことをしていたんだ? 」

まぁ、普通は気になりますよね。俺も他の男が女の子とそんなことをしていたら、何故そんなことをしているのかと、その男を小一時間ほど問いただしたい気分になる。

「咲夜さんからしてきたので、俺もよく分かりません。真相は咲夜さんしか知らないです」

「ふぅん。咲夜からしてきたのか」

「そうですね……」

「なら、そろそろやってもらおうか」

……あ、俺からやるんですね……。

咲夜さんとの場合とは違う。

自分からしなければならないとは、何たるハードルの高さだろうか……。

「失礼しますね……」

「あぁ」

佳奈の頭を手で押さえて、少しだけ自分の方に引き寄せる。

佳奈の匂いというか何もかもが、一瞬にして感じられた。

「ち、近いな……」

「そうですね」

「さ、咲夜とはずっとこの距離でいたのか……? 」

「そうなりますね」

咲夜の時とは違う恥ずかしさがあった。

咲夜さんにはとても悪いのだけど、佳奈はほら……、なんというか……、胸が大きいから、こんなに近づくと当たるのだ。柔らかいものが。

「顔が赤くなってるぞ。護」

「それは佳奈もですよ」

布団に潜ってもいるし、余計に体温も上がる。

「護」

「何ですか? 」

佳奈は俺の手を両手でふんわりと包みこみ。

「手、繋いでいい? 」

「繋いでから言いますか……。それ……」

色々と順番が逆なような気がするけど、気にしないでおこう。

「こうすると、断れないだろう? 」

「普通に頼んでくれても良かったのに……」

「護はいつもそうだな。私達の言ったことを全部嫌な顔一つせずに聞いてくれる」

「それは当たり前のことですから」

「当たり前だと分かっていても、なかなかできないものだぞ? 」

「そういうものですか……? 」

「あぁ、そういうものだ」

佳奈はさらに強い力で、俺の手を握る。俺も佳奈の手を同じくらいの強さで握り返す。

「そういえば、明日用があるんだったな? 」

「えぇ」

「場所どこなんだ? 」

「鳥宮駅です」

「ここらは遠いな……」

「そうですね」

御崎駅からでも意外と距離があるのだ。ここの近くの風見駅なら尚更だ。

「送ろうか? 咲夜も良いと言ってくれると思うぞ? 」

佳奈はそう言うのが当然、と言わんばかりに言ってくれる。

「いえ。大丈夫です」

俺は断っておく。

この家までも送ってもらってるのだ。近い場所ではなく、俺が明日向かう場所は風見駅だ。咲夜さんにも、佳奈にも、無理はさせられない。

「遠慮……、してるのか……? 」

佳奈は、少しだけ悲しそうな顔をする。あぁ、もう……。そんな顔をされたら、断れないじゃないですか……。

「分かりました……。なら、頼みますよ」

「ありがとうな、護」

佳奈は何やら勝ち誇ったような顔をしている。

「ちょっとあざとかったか……? 」

「え……? 」

もしかして演技だったの……?

「さっきみたいな顔をすれば、護は了承してくれると思ってな」

「……演技だったんですね」

「悪かったな」

佳奈はニヤニヤしている。

まぁ、こんな佳奈の顔はあまり見ないから良かったのかもしれない。

「寝ようか、護」

「何時ですか……? 」

佳奈は俺のおでこから離れ、近くに置いてある時計を手に取り、時間を確認する。

「一時だな。後五分で……」

結構時間が経っている。

というか、こんな時間まで起きたていたのは初めてだ。勉強やら何やらで、することがあったとしても、こんな時間になることは滅多にない。

「ふぁぁぁ……」

佳奈は欠伸をしながら、手に取った時計を元の位置に戻し、布団に潜り込む。

佳奈も眠たそうにしている。佳奈も、こんな時間まで起きていることはないだろう。生徒会長でもあるし……。

「ふぁ……」

佳奈につられる形で、俺も欠伸をする。

「丁度良い感じに欠伸が出たし、一つ話をしようか」

まだ、寝ないんですね……。

「あくびはうつることが知られているだろう? 」

「えぇ」

「でも実際のところ、この原因もよくわかっていないらしいんだ。最近では、動物のあいだで眠る時間を互いに知らせるためのシグナルになっているという説があるらしい」

「へぇ。そうなんですね……」

「それで、その欠伸は犬とかにもうつると聞く。護は犬飼ってるか? 」

「飼ってないです」

マジか。犬にもうつるのか。飼う機会があれば、試してみたら面白いかもしれない。

名前は忘れたが、何とかというペンギンは、求愛行動をする時に使うとかは聞いたことがあったが、不思議なことがあるもんだ。

「試してみたいな」

「そうですね……」

話し終えた佳奈は、またしても、おでこをくっつけてきた。ついでに、佳奈の胸も柔らかさを伴って俺に当たる。

「もしかして、これで寝るんですか……? 」

「あぁ、そうだ」

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