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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜一章〜
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心愛の家


 放課後になった。結局、心愛は学校には来なかった。


 「心愛、こなかったね」


 薫が話しかけてくる。


 「うん。そうだな……」


 俺はそうとしか答える事が出来なかった。


 薫は、心愛なら心配ないみたいなことを言っていた。けど、実際は心愛は来なかった。ということは、昨日の告白の件が関係してるのかもしれない。俺があんな風にしか答えてやれなかったから……。


 「護。今日あたし部活も無いし暇だからさどっか遊びに行こうよ」

 「ん? どうした? 薫の方から誘ってくるなんて」

 「なんかさ……。護が落ち込んでるように思ったからさ」


 薫の言う通りではあった。


 「多分さ、心愛が休んだのは俺のせいだと思うからさ」

 「たとえそうだとしてもだよ。そんなに落ち込まないでよ。なんかあたしまでも気持ちが下がってくるからさ 」

 「悪いな」

 「いいよ。気にしないで」


 しかし、どうしたものだろうか。このままでは俺の気持ちが落ち着かない。


 「薫さ、心愛の家知ってるか? 」


 薫は少し驚いた顔を見せ、


 「心愛の家? 知らないよ。知ってどうするつもりなの? 」

 「家に行って少し話でもしてこようかなって思ったんだけどね」

 「私、成宮さんの家、知ってますよ」


 俺たちの話に割って入ってきたのは葵だった。


 「え? 知ってるの? 」

 「もちろん。護君。あなたも知っているはずです。クラス委員の一番最初の仕事の時、そういった感じの仕事をしました」

 「あー。そんな仕事をあったっけ」

 「成宮さんの住所を書いておきましたから」


 と言い葵は俺に住所の書いてある紙を渡す。この場所ならそんなに遠くはない。


 「ありがとう」

 「いいですよ。だってライバルが減ったりしたらつまんなくなりますから。ね、安田さん? 」


 葵は急に薫に話を振った。薫はキョトン顔をし、


 「へぇ? 何のこと? 」

 「あなたも護君の事が好きなんでしょ? 」

 「なんでその事を!? 」


 思わず俺が口を出してしまった。


 「だっていつも一緒にいるじゃないですか。傍目から見たら、それくらいはすぐにわかります」

 「まぁ否定はしないわ。だってその通りだもの。けど、あたしはあなたや心愛に負けるつもりはないわ」

 「私だって負けるつもりはありません」


 二人の間に火花が散る。女の対決が始まってしまったようだ。

 俺はさりげなくこの場から去ろうと試みてみるものの、


 「護!」

 「護君」


 二人の声が俺を止める。俺は振り返る。


 「な、なに? 」

 「護は一体どこに行こうとしているのかな? 」

 「この場から逃げようと……」

 「どうして? 」

 「いや、何となく。あ、強いて言うなら心愛の家にも行かないと行けないからかな」


 俺がそう言うと二人は、


 「あ、そうだね」

 「そうですね」


 分かってくれたようでなにより。


 「それなら早く行ったほうが良さそうですね。もう四時半ですし」


 と葵は時計を指差す。


 「そうだな。家の人に迷惑をかけるわけにもいかないしな」



 俺たちの三人はそれからすぐに教室を出、学校を出た。葵とはここでお別れである。


 「それでは安田さん。護君。また明日」


 葵は一礼をする。


 「おう。また明日」

 「また明日ね」


 俺たち二人は家への道を歩く。少し隣を歩く薫のテンションが低い気がした。


 「薫?どうかしたのか? 」


 俺は薫の顔を覗き込む。


 「え?別に大丈夫だよ。ただこれから護は心愛の家に行くんだなって思ってさ」

 「そうだけどさ。薫の家だったら何回も行ってるじゃん」

 「けど、そういう事じゃないんだよね。なんか気持ちを伝えてる前と伝えた後ではなんかこうね……」

 「ん? 」

 「いいよ。気にしないで。多分言っても護には分からないと思うからね」


 薫が笑った。良かった。あまり気分の下がっている薫は見たくないものだ。


 「じゃ俺はこのまま駅に行くわ」

 「そう。また明日」



 貰った住所によると、心愛の家は俺の住んでいる家から一番近い駅で、電車に乗ればたった二つの距離だった。


 「おー」


 俺は心愛の家を見つけ、感嘆の声をあげる。ここら辺一帯の家は、すべて俺の住んでいる家とは違い豪華であったが、心愛の家はその中でもさらに上をいっていた。


 「すぅーはぁー」


 俺は少し緊張しながら、心愛の家のチャイムを鳴らす。


 「はーい」


 インターホンから声が作られる。声からして心愛の母だろうか。


 「あ、僕、成宮さんのクラスメイトの宮永といいます。今日、成宮さんが休まれていたので少し心配になって………….」


 俺がそう言うと、


 「心愛のお友達ですね。今行きますから待っていてください」


 待つこと数十秒、心愛の母が出てきた。


 「こ、こんにちは」

 「はい。こんにちは」


 心愛の母は、心愛とは違いおっとりとした人だった。雰囲気まで心愛とは正反対だ。


 「そんなに硬くならなくて良いですよ。心愛の部屋に案内しますから、ついてきてください」

 「は、はい」


 俺は心愛母の後をついて、家の中に入る。


 「ここが心愛の部屋です」


 母が指差したのは、心愛、という文字が彫られている木札が飾ってある部屋だった。


 「じゃ、私は下にいますから何かあったら言ってください」

 「はい。分かりました」

 「それでは」



 「すぅーはぁー」


 俺はもう一度深呼吸をし、部屋をノックする。


 「あれ?返事がない」


 もう一度ノックをしてみる。やはり返事がない。寝ているのだろうか。


 俺はドアノブに手をかけ、部屋の中に入った。


 「寝てるのか……」


 案の定、心愛はベットの上ですやすやと寝ていた。あの人も寝ているのなら、そう言ってくれれば良かったのに。


 部屋を見渡してみる。女の子の部屋としては殺風景なほうだろう。薫の部屋には何回も入ったことがあるのだがそれと同じくらいであろう。


 「……………………」


 俺は心愛の顔を見据える。


 少し寂しそうな顔をしているように思える。もし本当にそうなら俺のせいなのだろう。


 俺は何を思ったのか、心愛の髪に手を伸ばす。見た目の通り、さらさらとした髪質であった。


 ふと、心愛に目をやる。


 と、心愛はもぞもぞと動きだし、


 「え……………………?」


 心愛が目を覚ます。目が合う。


 「お、おはよう…………?」

 「……………………」


 心愛は、自分のおかれている立場を理解したようで。


 これはヤバイ。


 傍目から見ると、どう考えても俺が心愛の上に乗りかかっているような構図になっているわけで。


 「あ、アンタ!! 何してんのよ! まさか人の部屋に勝手に上がり込んで、キッ、キスしようなんて思ってないでしょうね!」


 良かった。いつもの元気な心愛だ、と思ったのも束の間、俺は心愛の強烈な頭突きを至近距離でくらい、その場で悶絶した。


 「痛ってなぁ。心愛! 」

 「それはこっちのセリフよ!一体こんなとこでなにやってんのよ! 」

 「お前が、心愛が今日学校休んでたから心配になったんだよ!」


 と言うと心愛のトーンが下がる。


 「な、なんでそんな事思うのよ」

 「だって、俺が昨日あんな中途半端な答えを返してしまったから…………」


 心愛のトーンが元に戻る。


「護。もしかしてそれであたしが休んだと思って、見舞いに来てくれたの? 」


心愛は笑っていた。


 「悪いかよ」

 「悪くないよ。ま、ありがと」

 「いいよ。気にするな。今日休んだのは俺のせいでは無いんだな? 」


 俺はもう一回聞く。


 「うん。違うよ。今日は風邪をひいただけだよ」



 それから俺たちは時間を忘れて、話をしていた。主に昔の話をした。


 コンコン。


 部屋がノックされる。


 「なに? お母さん」


 それに心愛が答える。


 「楽しんでいるところ悪いんですけど。もう八時なんだけど…………」


 俺達ははっとして、部屋に飾ってある時計を見る。その通りだった。


 「あっ!本当だ。それじゃ俺は帰るかな」


 俺は立ち上がる。心愛が俺の制服の裾を引っ張る。


 「ん?どうしたんだ?心愛」

 「今日は、ありがとね」

 「いいよ。明日はちゃんと学校にくるんだぞ」

 「うん。分かった」

 「じゃ、またな」

 「また明日」


俺は心愛と心愛母に背を向け、家を出た。

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