勇気 #4
「姉ちゃんは家に帰ってきてからほとんど家にいますからね……。いつでもいいですよ? 来週あたりでも……」
「そんなに早くていいのか? 」
「はい。大丈夫ですよ。姉ちゃんにもきちんと伝えておきますね」
「うん。頼む」
護の家に行くことが出来る。それだけで、テンションがいつもより高くなる。
そのテンションの高さは、顔に笑みがこぼれるという形で、佳奈の表情に表れた。
杏達が護の家に行った、泊まったと聞いて、佳奈もそうしたくて仕方なかったのだ。
先を越されるというのは佳奈としても、納得が行かないからだ。
だからこそ、佳奈は家に泊まっていかないか? と提案したのだ。別の理由もあったりするのだけれど……。
……うーん……。
最近、佳奈の中に一つ思い始めたことがある。
それは、護の事に関して、杏達に先を越されたくないという思いだ。ここ数日、この思いが強くなっているようだと、佳奈は思う。
……もしかして……。
「っっ…………」
そう考えてしまうと、顔が急激にカァッーと熱くなるのを佳奈は感じた。
「佳奈? どうかしましたか……? 」
護が心配そうに、こたらの顔を覗き込んでくる。
「な、なんでもない……。大丈夫だ……」
「そうですか……? 」
「あぁ……。ちょっと私は咲夜のとこに行ってくるから、ここで待っていてもらえるか……? 」
このままこの部屋にいるとどうにかなってしまいそうだ、と思ったからそう佳奈は声を作ったのだが、護は。
「わ、分かりました……」
少しだけ嫌な顔をした。
そりゃ、他人の部屋に一人にるのは嫌だろう。佳奈も今の護の立場なら嫌だと思うだろうな、と思う。
「ご、ごめんな……」
「いえ……」
佳奈は、少し慌てるように自分の部屋を出た。
部屋から出た佳奈は、部屋の扉にもたれかかる。
「ふぅ…………」
……最初は普通の後輩だと思ってたんだけどな……。
また考えようとすると、すぐに顔が赤くなってしまう。
「やめだやめだ……」
佳奈は頭を左右に振り、考えていることを振り払う。
「晩御飯できたのかなぁ……」
護と一緒の晩御飯は初めてだ、とそう思うと、自然と咲夜の元に向かう足は速くなった。
「おや? 佳奈お嬢様……? 」
「あ、いたいた」
咲夜は、佳奈と護にご飯が出来たことを伝えようと、佳奈の部屋に向かおうとすると、階段から降りてきた佳奈と鉢合わせた。
「私に用があったのですか……? 」
……てっきり佳奈お嬢様は、護様とくんずほぐれつをしていると思ったのですが……。
「いや。晩御飯出来たかどうかを聞きにきたんだ。そのようだと出来たということだな? 」
咲夜はもうエプロンを脱ぎ、スーツを着直している。
「はい。だから、今伝えにいこうとしていたのですが……」
「そうだったのか。何か悪いな……」
「いえいえ。気にしないでください。それでは護様を呼びにいきましょうか? 」
「うんっ。そうだな」
「ふぅ……。おっと……、危ない……」
息をもらし、ベットに倒れようとしたが、これは佳奈のベットだということを思い出し、俺は自分の身体を元に戻した。
「泊まるのか…………」
フランス料理を食べられるということが、すっかり頭から抜けそうになるくらい、佳奈の家に泊まるということは、魅力的だった。
「まぁ、帰れないしな……」
雨が降ってなかったとするなら、佳奈も泊まっていくなんてことを、言い出さなかったかもしれない。
「むぅ…………」
他の人の部屋に残されるというのは、少しだけだか居心地が悪い。佳奈の部屋でもあるわけだし。
「速く戻ってきてくれないかな…………」
「護。待たせたな」
そう声に出したら、すぐに部屋の扉が開き、佳奈が戻ってきてくれた。
「護様」
咲夜も一緒に来ている。晩御飯が出来たということだろう。
「ご飯が出来ましたので、お呼びにきました」
「はい」
俺はベットから立ち上がり、佳奈達の元に駆け寄った。
晩御飯を食べ終わり、気付けば時間は十一時になろうとしていた。食べ終わったのは案外速かったはずなのだが、如何せん、それからの話に花が咲きすぎてしまったのだ。
料理の話やらその他の話やら、詳しい話はまた別の機会でということで。長くなりそうだし。
出た料理だけ、紹介しておこう。
ブフ・ブルギニオン。鯛のカダイフ巻きエシャロットとベーコンの
シェリー・クリームソース。カレー風味のトマトファルシ。パルメザンとベーコン添えのかぼちゃスープ。デザートに、チェリーのタルトとヨーグルトのアイスクリームがあった。
その出来上がった料理の完成度に驚いていた俺と佳奈に、咲夜さんがこういう名前なんだよと、説明してくれた。