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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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勇気 #3

「それは・・・・・・」

「なぁ・・・・・・、護・・・・・・」

ドンッ!!!!

雷鳴が轟く音がした。

「きゃっ!!!!!!!! 」

「わっ・・・・・・」

近くにでも落ちたのだろうか。停電した。

というか。

「佳奈・・・・・・? 」

今の雷と停電で、佳奈が物凄い勢いで俺に抱きついて来た。

「雷とか無理なんだ・・・・・・」

へぇ・・・・・・。佳奈にも苦手なものってあったんだ・・・・・・。

「だから・・・・・・、しばらくこのままでいさせてくれ・・・・・・」

「わ、分かりました・・・・・・」

今俺に押し付けられているとても大きい二つの膨らみが気になってしまうが、「離れてください」なんて、そんな冷たいことは言えない。

「佳奈にも苦手というか怖いものがあったんですね」

「どういうことだ・・・・・・? 」

佳奈は俺の背中にまわしている手に力を込めながら言う。

「植物園の時にも似たような事を言ったかもしれませんが、佳奈は何でも出来て、苦手な物なんてないってイメージがあるんです」

俺は言葉を続ける。

「だから、こういう佳奈の可愛い一面を見れて良かったなぁと・・・・・・」

「可愛い? 私が・・・・・・? 」

「えぇ・・・・・・」

「本当にそう思っているのか・・・・・・? 」

「はい・・・・・・。嘘なんてついてどうするんですか? 」

「それもそうだな・・・・・・。私が可愛いか・・・・・・」

佳奈は俺の耳元で囁くように言う。

「護」

「はい」

「ありがとうな」

俺はその佳奈の言葉にドキッとさせられてしまう。こんなカッコウでもあるし・・・・・・。

「で、護? 今日・・・・・・、泊まっていてくれるか? 」

「はい。そうさせてもらいます」

「ん・・・・・・」

「佳奈っ!? 」

お礼の代わりなのだろうか。佳奈が俺の頬にキスをしてくる。さっきからドキドキしている心臓が、さらに跳ね上がる。

「お礼だ。気にするな・・・・・・」

いや・・・・・・。気にするなと言われても・・・・・・。

「佳奈お嬢様。護様。大丈夫ですか・・・・・・? 」

停電が直るよりも先に、俺達の前に救世主が現れた。

この感覚から離れると思えばそれはそれで嫌なのかもしれないが、この佳奈に抱きつかれている状態が続けば、俺の理性がどうなるかが分からん。

「ありがとな。護」

唐突な咲夜さんの登場に一瞬体を震えさせた佳奈であったが、俺だけに聞こえるように礼を言うと、俺から離れた。咲夜さんにこんなところを見られるのは嫌だということだろう。

「あぁ。大丈夫だ・・・・・・」

「あ、はい」

暗闇の中でも、咲夜さんがこちらに近づいて来るのが分かる。

「佳奈お嬢様」

「どうした? 」

「着替えを持ってきましたが、今着替えますか? 」

「そうだな。でも停電したままでは無理だ。何も見えん」

「いつ復旧するんですか? 」

「もうすくだと思いますよ。ほら・・・・・・」

おぉ、戻った。二人の姿がよく見える。

「どうぞ。佳奈お嬢様」

「ありがとう」

佳奈が咲夜さんから、これから着替えるであろう服を受け取っている。

それを受け取ると佳奈はカーテンの向こうに行ってしまった。

それと同時に咲夜さんが俺の方に近づいて来て。

「護様」

「わわっ・・・・・・! 」

咲夜さんは、耳元でそう声を作った。佳奈もだったが、何でそう耳元で話そうとするのだろうか。

今の咲夜さんの場合は、佳奈に聞こえないようにそうしてきたのかもしれないが。

「良い思いをされていたようで・・・・・・」

咲夜さんの方に慌てて顔を向けると、咲夜さんは妖艶な笑みを浮かべていた。

・・・・・・バレているのか?

もしそうとするのなら、かなり前からこの場所にいたということになる。

「いつからいたんですか・・・・・・? 」

「停電した辺りからでしょうか。佳奈お嬢様が護様に抱きついていたところもバッチリと見ておりましたよ」

「・・・・・・・・・・・・」

ほぼ最初の方からじゃないですか・・・・・・。

「そろそろ佳奈お嬢様の着替えが終わりますし、また後で色々聞かせてくださいね? 」

それだけを言うと、咲夜さんは少しだけ距離をとった。佳奈に勘付かれないようにしているのだろう。

「待たせた、護」

「いえ」

カーテンの向こうに消えようとすると、背後から咲夜さんが俺を呼ぶ。

「護様」

「はい」

「その今着ておられる服は、そこにある洗濯機の中に入れておいてください」

「あ、分かりました・・・・・・」




「…………」

シャワーを浴びて風呂場から出ると、バスタオルの横にどう見ても女物の服が置いてあった。俺の目には、そうとしか見えなかった。

「佳奈……? 」

恐らくだが、俺が濡れたのは私の

せいだとか言って、自分の服を出してくれたのだろう。

「佳奈お嬢様は、部屋に戻られましたよ? 」

俺の呼びかけに応じたのは、佳奈ではなく咲夜さんだった。

「そうですか……」

「ちなみにそこに置かれている服は私のなので、気にしないでくださいね? 」

……そんなこと言われても……。

「あ、下着はお父様のなのでご安心ください」

「わ、分かりました……」

それを用意出来たのなら、今から着る服も、佳奈の父親の物を用意してほしかった。うん……。切実に……。

「護様? 」

「何でしょうか……? 」

わざわざ自分の服を用意した咲夜さんに、ちょっとした悪意を感じる。

「もしかして、佳奈お嬢様の方が良かったですか? 」

「…………っ!! 」

……そんなわけないじゃないですか……。

「からかわないでくださいよ……」

「ふふ……、すいません。どうしてもそうしたい衝動に駆られたものですから」

そんな衝動なんかに駆られないでください……。

「護様はその服を着てから、佳奈お嬢様の部屋に向かってください。まだ、料理が完成してませんので……」

「そうだったんですか!? それなのにすいません。時間を取らせてしまって……」

「気にしないでください。それじゃ、私はこれで」

「はい。分かりました」


「はぁ……」

咲夜さんがこの場からいなくなったのを確認してから、ため息とも安堵から出る息ともいえるようなものを、俺はもらした。

まぁ、着替えないことにはここから出ることも出来ないから、着るしかないんだけど……。

俺はその服を身に付け、咲夜さんの香りやら暖かさやらを気にしないようにと、早々に佳奈の部屋に足を運んだ。


「やっと来たか…………」

「えぇ……」

今現在、俺が着ている服は、ピンク色で花とかが沢山散りばめられているブラウスと、下はデニムのショートパンツである。スカートでなかったと心の底から思う。今のこの格好でも十分に恥ずかしいのだけど……。

「咲夜の服だな……」

「はい……」

佳奈がベットの横に座ってと目で示していたので、俺はそれに従う。

咲夜さんの私服を着ているわけだし、これくらいは分かって当たり前なのだろう。

「護から咲夜の匂いがするというのは、落ち着かないな……」

咲夜さんの服だと分かったのは、どうやらそれが理由らしい。

「俺も落ち着かないですよ……。他の人の服、ましてや女性の服を着ているってのは…………」

「そうだな……」

小さい時に、姉ちゃんに無理矢理着せられてたこともあったりしたが、その時とは感じる感覚も全然違う。所謂、この姿は恥ずかしいのである。大事なことだからもう一度言っておこう。恥ずかしいのだ。


……護に女装っていう組み合わせは、案外いけるのかもしれないな……。

少しだけ顔を赤くして自分の隣に座っている護を見て、佳奈はそう思う。

佳奈としては、護が自分の服ではなく、咲夜の服を着ているというのが、若干不満ではあるのだけれど。

先に護の服の事について話したのは佳奈だったのだが、咲夜が「私が用意します」と言って聞かなかったのだ。その時咲夜が、恨めしそうに自分の身体を見ていたりしたのが、気になったりした。

まぁ、その気がかりを咲夜に聞こうとしたところで、咲夜が出て行ってしまったので、結局、聞くことができなかった。

……でも咲夜が自分の服を持ってくるとはな……。

てっきり、父の服を持ってくるものだとばかり思っていたから、護が女装して部屋に入って来た時は、驚いた。

「護は……、何回か女装した事あるのか……? 」

「ありますけど…………、どうしてですか……? 」

「いや……。何か着慣れているような気がしてな」

「まぁ、昔よく姉ちゃんに着せられていましたし、慣れているといえば慣れているのかもしれません…………」

「そうか……」

……護のお姉さんか……。

佳奈は護の姉を見たことがない。杏と成美の二人から、話を聞いたことがあるだけだ。

「また今度で良いんだが……、一度護の家にも行かせてもらえないか……? 」

「別に良いですけど……、どうしてです? 」

「護のお姉さんに会ってみたくてな……」

「まぁ、良いですよ。姉ちゃんには気を付けてくださいね……」

「ん? どういうことだ……? 」

「色々あるんですよ…………」

護は何かを考えているかのように、うんうんと頷いている。

「時間いつにします? 」

「いつでも構わない。お姉さんにも用事があるだろう? 」

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