事件の後の憩いの場はデートのようで #5
「でも・・・・・・、俺、一回食べましたよ? 」
・・・・・・私はそれを分かった上で聞いてるんだがな・・・・・・。
「私は、そんな事気にしないぞ? 」
「わ、分かりました・・・・・・」
護は諦めたような顔つきで、佳奈に自分のアイスを手渡す。
「私のも食べてみるといい。美味しいからな」
護の抹茶味のアイスを手に取ってから、自分のマロン味のアイスを差し出す。
佳奈は、護がマロン味のアイスを食べる前に、抹茶のアイスを口にした。
護はそんな佳奈を確認してから、若干顔を赤くしながら、アイスを食べる。
・・・・・・うん。抹茶だな。
佳奈はそう端的な感想を抱いた。少し味が濃いような気がする。
「抹茶に比べると、マロンは丁度良い感じですね」
護は苦笑しながら、そう答える。
「そうだな」
護がどうなのかは知らないが、基本的に佳奈は、和風なものより洋風なものを好む。食べ物に関しては。
だからといって、抹茶が嫌いだというわけではない。
嫌いであるなら、わざわざ護から貰ったりはしない。ただ、滅多に抹茶を使った食べ物を食べたり、飲んだりしないだけだ。
「護は・・・・・・」
佳奈はそう切り出し、アイスを返してもらってから、気づかれないように距離を縮める。
「どうしました・・・・・・? 」
「いや、なんでもない。それより食べようか。溶けてしまってはもったいないからな」
「そうですね」
真弓は遥に自分達が植えようとしている花の種を、買いに行かせる。
護と二人きりになった佳奈が、どういった行動を示してくれるかを見るためにだ。
アイスをたべながら、楽しげに話そている二人の姿が目に映る
・・・・・・お似合いだね。二人は。
真弓は、心の底から本当にそう思う。
無論、真弓と遥の二人で買う、といったのも作戦の内だ。
自分達が一番知っているというのもあるが、目的は護と佳奈の仲の発展だ。
それだけがきちんと出来ればいいのだ。
・・・・・・頑張れ。佳奈。
佳奈を応援する気持ちは何も変わらない。
・・・・・・本人は自分の気持ちに気づいていないようだけどね・・・・・・。
真弓は苦笑しながら、思う。
だからこそ、自分の気持ちに気づいてもらうために、真弓はこういった行動にでているのだ。
「真弓さん。買ってきましたよ」
遥がビニール袋を片手に提げ、戻ってくる。
「うん。ありがとね。全部あった? 」
「はい。でも・・・・・・、こんな少なくていいんですか? 」
「うん。後は私の家から何種類か持ってくるから」
「分かりました。じゃ、二人の所に戻りましょうか」
遥はショップの外を指し、早く戻ろうとする。
「待って、遥」
真弓は遥を止める。今外に出て、二人の邪魔をされると困るからだ。
「どうしたんですか? 早く行きましょうよ」
この遥の言葉、佳奈には悪いが、早く護の元に戻りたいと言ってるような気が、真弓にはした。
「あの二人を見ても、そう思う・・・・・・? 」
アイスを食べ終えてもなお、楽しそうに話している護と佳奈の姿を、真弓と遥は目にした。
「でも・・・・・・」
「遥が護の事を好きなのは分かってる」
「にゃっ!? どうして・・・・・・」
「見ていたら分かるよ。だけど、今日は佳奈の番だよ? 」
「佳奈先輩の番・・・・・・? 」
「もう。元々、今日のこれは佳奈が護を誘ったもので、私達は無理矢理についてきたにすぎない」
「そう言われれば・・・・・・、そうですけど・・・・・・」
「諦めが肝心だよ・・・・・・? 」
「順番・・・・・・ですもんね。それは杏さんにも言われました・・・・・・」
「杏に・・・・・・? 」
「はい。昨日実は護君の家に泊まったんです。杏さんと私とユウと成美とで」
「そのユウと成美ってのは、友達? 」
「あ、はい」
「護の家に泊まりたいって言ったのは、その四人の中で誰が言ったの? 」
「いえ。提案したのは護君のお姉さんで、私達はそれに乗った感じです」
「なるほど・・・・・・。護ってお姉さんいたんだ・・・・・・」
「えぇ・・・・・・」
「で、遥は護のベッドに入ろうとした時に言われたと・・・・・・」
「・・・・・・。そこまでお見通しなんですね・・・・・・」
「まぁね。じゃ、この話は終わりにして帰るよ
「はい・・・・・・。でもその入り口からは無理ですよ? バレますし・・・・・・」
「分かってる。策はあるから」
真弓は話を切り上げ、レジに足を伸ばした。
「どうかされましたか? 」
「この店、裏口とかってありますか? 」
「えぇ、まぁ、ありますけど・・・・・・」
店員は何でそんな事を聞くのか分かっていない状況だ。
そりゃそうだろう。遥だって分かっていないから。
「その裏口、使わせてもらってもいいですか? 」
「いいですけど・・・・・・」
店員は腑に落ちない様子で、真弓の言葉を承諾する。
「ほらね」
真弓は振り返り、自分の後ろでボーッとやりとりを見ていた遥にピースをする。
「それでは、ついてきてください」
「あ、分かりました」
こうして真弓と遥の二人は、護達に気づかれる事なくショップから出、植物園を後にした。