事件の後の憩いの場はデートのようで #2
植物園内に入ると、その沢山の花々に驚くとともに、植物の甘い香りが俺達を包んだ。
「花壇に植えることが出来る花とかもさ、展示されてたりするから、二人二人に分かれて見て回ろうか」
狩野先輩が真っ先に口を開いた。
「そうですね。その方が効率も良さそうですし」
「ペアは、どうするんですか? 」
遥が俺の手を離し、かかり気味に聞く。
「それは、佳奈と遥。私は宮永君とがペアだね。互いに詳しい私と遥がリードすれば、良いと思うんだ」
「わ、分かりました」
遥が若干不機嫌そうに俺の元から離れ、佳奈先輩に近づく。このペアに不満でもあるのだろうか。
「じゃ、行こうか。遥」
「そうですね。あたしに任せてください」
「本当に、頼りにしているからな? 」
「はい。真弓さん。あたし達は右側から回りますね」
「うん。分かった。じゃ、一番奥に店があるから、そこで落ち合おうか」
「分かりました。じゃ」
狩野先輩は先に行った二人に手を振り、見送る。
「私達も行こうか」
「はい。そうですね」
狩野先輩の左横に並び、俺はさっき思った疑問をぶつけた。
「狩野先輩は、ここに来た事があるんですか? 」
「ん? 無いけど……。どうして? 」
「詳しかったから、てっきりそうだと」
「あぁ、なるほどね。佳奈の為だよ」
「佳奈先輩の為……ですか? 」
「うん。いつも振り回してばかりだからね」
「そうなんですか………………」
俺の思っていた見立ては、大方は合っていたようだ。
「宮永君も、よく杏に振り回されているみたいだねぇ」
「まぁ、そんな頻繁にってわけじゃないですけどね」
「それに、疲れたりはしない? 」
「しないって言えば嘘になりますけど、慣れてますから」
「慣れてる? 」
「はい。姉がいるんで、昔からよく振り回されてましたし」
「なるほどね」
「先輩はいたりするんですか? 弟さんとか」
「残念。私は一人っ子だよ。それは佳奈も一緒でね、よく一人っ子ではない杏を昔は羨ましく思ったものだったね」
へぇ、杏先輩って兄弟がいたのか。
それが弟さんなのか、妹さんなのか、はたまた、お姉さんなのかお兄さんなのかは分からないが、大変そうだ。
「杏は意外と良いお姉さんだったよ? 昔一度だけ家に行ったことがあったんだけど、その時は料理してあげていたりと、なにかと凄かったし」
「へぇ…………」
その面倒見によさは感じる事が出来る。だから、皆、杏先輩に振り回されたり、無茶振りを受けたりしたとしても、嫌いになったりは出来ないのだ。
……宮永護君か……。
隣を歩いている、自分より背が高い男の子を見て、思う。
「どうかしましたか……? 」
気づかれた。
「いや、何もないよ」
このペア、真弓と護、遥と佳奈のペアにしたのは、もちろん真弓だ。
こうした理由は、佳奈が好きな男の子が、どんなのかを調べるためだ。
佳奈自身は気づいていないだろうが、護の事を話している時の佳奈が、自分が見ている佳奈の中では一番、楽しそうにしているのだ。
……なるほどね……。
佳奈の気持ちは分かる。
隣にいるだけで感じる事の出来る、この安心感みたいなのが人々を惹きつけているのだろう。
一緒にいるだけで、楽しいと思えるのは凄いことである。
「宮永君か…………」
一人言のつもりが声にでてしまったようだ。
「呼びました? 」
「い、いや。なんでもないよ? 」
「何で、疑問系なんですか………………」
護はそれだけを言うと、周りの花を見渡し始める。
今、歩いている辺りの花達は、花壇に植えるという花ではない。少し大きめの花達だ。
時間の短縮の為、早めに回った方がいいだろう。
「早く………………」
「そういえば……」
二人の声が被さる。
「狩野先輩から、どうぞ」
「良いよ。私は早く行こうかって言おうとしただけだし」
「それ、先に言ってることになりますよね」
護は笑みを浮かべながら言ってくる。
「そうだね……。宮永君は、何て言おうとしたの? 」
「えっと………………、その髪飾りの事なんですけど」
「うん? これ? 」
真弓は自分の猫耳を模した、カチューシャを触る。
「その髪飾り、いつも着けてるんですか? 」
「うーん……。外に出る時は基本着けてるかな。学校でもたまに着けてるよ? まぁ、風紀委員に言われたりするけどね……。以外とこの耳の部分、触り心地が良いんだけど、触ってみる? 」
「い、いえ! いいですよ。気になっただけなので」
「そう? 残念……」
「そんなに残念がらないでくださいよ」
からかい甲斐のありそうだ、と真弓は思う。
「大丈夫だよ。本当はそんな事思ってないから」
「からかわないでください」
……楽しい子だね……。