心愛の欠席
葵、心愛、薫からの告白から一夜明け、俺は学校へ行く道で悩んでいた。まぁ、悩んだところでどうにかなるものではないんだけど。
「おーい? 護?どーしたの? 心ここに非ずみたいな感じだけど……」
久しぶりに一緒に登校している薫が、話しかけてくる。
実際のところ、昨日の件があったため、誘う事は無かった。しかし、玄関を出ると、そこには薫がいてなし崩し的にこうなったのだった。
「もしかして、昨日の告白の事を考えてるの? 」
薫は、少し顔を紅潮させながら聞いてくる。おい、薫よ。そんな顔を俺に見せないでくれ。こっちも少し恥ずかしくなってしまうじゃないか。
「それはそうだろ。早く返事はした方が良いとは思うし……」
「あたしはそんなに急がないからゆっくり考えてくれても良いよ」
「薫は返事はいつでもできるし、すぐ近くにいる存在だからな」
「うんっ」
問題は心愛、そして葵だ。好意を寄せてくれているのは分かる。だが俺は、返事の日を延ばすことしかできなかった。真剣に答えてやることができなかったのだ。知り合って、まだ一ヶ月ほどしか経っていない。告白を断るにしても受けるにしても、決め手になるものが少なすぎる。
逆に、薫は気の置けない親友である。だからと言って返事を先延ばしにする理由にはならないけど、待ってくれるという安心感がある。
「護。今、葵と心愛のこと考えてるでしょ」
「まぁ、それは間違いではないが……。なんで分かったんだ? 」
「私達何年一緒にいると思ってんの。あんたの心情の変化なんてすぐ分かるわよ。顔にすぐ出るんだから」
「そうか。なんかこんな事を相談するのもおかしいとは思うんだけどさ」
俺は切り出す。
「二人にはちゃんと返事してやれなかったんだよ……」
「大丈夫だよ。二人のことだから、いつまでも待ってる、とか言ったんでしょ。なら心配ないと思うよ?」
「そうか……。なら良いんだけどさ」
俺はそう薫には答えたものの、納得出来ていなかった。帰り際での葵の反応は大丈夫だった。しかし、心愛は少し落ち込んでいたようにも見えたからだ。
〇
「おっす。護。安田さん」
教室に入ると一番に羚が話しかけて来た。
「羚か。お前が二日連続で俺らより早く来るなんてどうした?今日は雨が降るんじゃないか? 」
と言いつつ、俺は羚の先にいた葵を確認した。こちらに笑顔を返してくれる。俺も笑顔を返す。
「俺だってたまには早く来たりはするんだよ」
そう言いつつ、今度は心愛を探すために教室を見渡した。しかしまだいなかった。鞄はまだ無い。まぁ、まだ時間はあるから来ないということはないかと思う。
俺と羚が話していた間に、自分の机の上に鞄を置いて来た薫がこちらに戻って来て。
「大丈夫だよ。まだ時間あるから」
そう言ってくる。なんか薫には俺の考えている事が筒抜けだな、と思う。
「悪いな。心配させて」
「いいよ。これくらいの心配はさせて」
と俺たちの会話の中に羚が割って入ってきた。
「なんの話しをしてるんだ?俺にも教えてくれよ」
薫が止める。
「うーん。教えたくは無いかな?吉田君にも教えたくない事とかあるでしょ? 」
「まぁ……。ない事は無いけど……」
「そういうことだから」
羚は、上手く薫には丸め込まれていた。
そんな他愛もない話をしている間にも、刻々と時間が迫ってきていた。しかし、心愛はまだ来ていなかった。