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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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事件の香りはさらに強く #4

「ふぅ………………」

遥がその向かいの部屋から戻って来てから数分後、成美が戻って来た。成美も遥と同じように、沙耶の服を借りている。

「で、遥」

成美は遥の隣に座り、口を開く。

「ん? どうしたの? 」

「遥さっき、護の部屋にいたよね」

成美はしっかりと、遥の目を捉えながら言う。

「そうだけど…………良く分かったね」

遥もその目を見返しながら、驚きの視線で返す。

「護から遥の匂い、遥から護の匂いがしてるからね」

「…………………………」

……なんたる嗅覚……。

と思った遥だったが、その思いをすぐに変えた。成美も護のことが好きだから、分かってしまうのだと。

「遥はどうなのさ……? 護の事好きなの? あたしは好きだけどさ」

「好き…………かも……? 」

「曖昧なの……? 」

「だって、今日護と会ったばかりだよ? 好きなのは好きかもしれないけどねぇ…………」

「そっか」

遥と成美はお互いの気持ちを確認し合った。


「………………」

悠樹は沙耶に頼まれて、皿洗いをしていた。

悠樹にとっては、頼まれなくても「やる」と、申し出るつもりだったので、好都合だった。

それはそれで、良いのだが……。

「悠樹、はい」

気がつけば、隣で杏が手伝ってくれていた。

「杏……先輩…………? 」

……この人はいつも、唐突……。

「ん? どうしたの? 」

「いや……」

基本的に、杏は自分が頼まれていない事は率先してやらない人だという認識が、少しだけだが悠樹の中にはある。

だから、悠樹は思うのだ。これは、沙耶さんに良い所を見せるため? と。

「杏先輩は………………」

「どしたの? 」

「杏先輩は、護の事好き? 」

悠樹は、唐突にそんな質問をしてみる。杏の想いを確かめてみるために。別にそんな事を聞く事はないのかもしれない。この場所に来ているわけだし。 だけど、気になった。

「うーん……。好きと言えば好きだけどね…………」

「…………ん? 」

悠樹はその見当違いの杏の返答に驚く。

「悠樹は、好きでしょ? 護の事」

「うん。それは、成美とかとも一緒の事」

「だから…………なんだよね。あたしはもう三年だし、来年にはいなくなるわけだしね」

「そうなのかもしれない……………………。けど」

悠樹はそんな理由で、身を引いてしまうのかと、思う。

「そんな理由でって、思ったでしょ? 」

……見透かされている……。

「でも、頑張ってみてもいいの? そうなら、負けるつもりはないよ? 」

「私も負けない。頑張るから」

「そうだね。ささ、沙耶さんが戻って来るまえに、終われせようか、皿洗い」

「うん」

二人もお互いの気持ちを確認しながら、仕事に戻った。




「ふぅ……」

それからしばらくして、皿洗いは終了した。

「やっと、終わったね」

杏は肩を回しながらそう呟いた。

「ありがと…………」

悠樹は杏の策略を知っていながらも、礼だけを言っておく。

「いいよ。んじゃ、あたしは沙耶さんに伝えに行くから」

「ん…………」

その仕事は私だと思いながらも、悠樹は杏を見送る。


「終わったかな……」

沙耶は、タオルで頭を拭きながら、リビングにへと戻った。

「悠樹、おわ……」

「沙耶さん。終わりましたっ」

悠樹に聞くまでもなく、沙耶が言い終わるまでに杏が答えてくれた。

「あ、ありがと。悠樹を手伝ってくれたの? 」

少し悠樹に目をやりながら、杏に尋ねる。

「えぇ、まぁ」

「気が利くんだね、杏は」

「いえ。そんなことないですよ」

「お風呂入る? 制服を洗濯しておいてあげるし、服も貸してあげるからね」

「良いんですか? 」

「ん。良いよ。気にしないで」

「じゃ、ありがとうございます」

礼を言うと杏は、洗面所へと向かった。

沙耶は、杏が視界からいなくなるのを確認してから、悠樹の元に足を向けた。

「ありがとね。悠樹」

「ん。エプロンありがとでした」

悠樹はエプロンを脱ぐと、目にも留まらぬ早さで、エプロンを畳んだ。

「うん。杏はいつから手伝ってくれた? 」

「沙耶さんが戻って来る少し前くらいから…………」

「そうなんだ」

……杏は無理矢理、点数を稼ごうとしている……?

「杏先輩が、来たのは誤算だった…………」

「ん? 誤算? 」

「杏先輩は、沙耶さんに良い所を見せたかっただけと思う。そんな事をしなくても、良い先輩なんだけど」

「ふぅん。悠樹はそんな風に考えてたのね」

「まぁ………………、杏先輩にも負けたくないから」

その悠樹の言葉を聞いて、沙耶は確信した。

……悠樹も含め、皆、護の事が好きなんだね……。

「悠樹は、護の事好き………………? 」

沙耶は確認の為だけに、悠樹に問う。

「うん」

その沙耶を見つめる悠樹の目には、それだけで想いが伝わる何かがあった。

「そうだよね。頑張りなさい。恋敵は、多いよ? 」

「うん。沙耶さんにも負けない」

「うーん。一番隣にいる事が多いのは、私だよ? 」

「それでも、負けない」

……この娘のやる気ったら……。

「お風呂あがりましたっ! 」

この空気に割って入るように杏が、戻ってきた。なんという早さ。

「うん。また明日だね」

「はい。おやすみなさい」

「ん。おやすみ」

「…………なんか、話、途切れてしまいましたね……」

「そうだね。悠樹も風呂入ってきなよ。服は貸してあげるからさ」

「ん、ありがとう」


「………………」

風呂から上がり、沙耶によって準備された服を見て、悠樹は唖然とした。

悠樹の前髪から滴れた雫が頬を伝う。

……あの人はもう……。

実際問題、ズボンやらなんやらを貸してもらわなくてもTシャツだけで、身長差やら、悔しいが胸の大きさやらで、隠すべきところは隠れる。

……そういえば、護も……。

以前この家に来た時も、雨に濡れた服の代わりに貸してくれたのは、沙耶の服だった。

その時は、急いでいたというのもあるかもしれないが、こういう所は姉弟だし似ているのかもしれないと、悠樹は思う。

「…………」

仕方ないので悠樹はその服を着て、脱衣所から出た。


「さてと」

沙耶は、悠樹から返してもらったエプロンをテーブルの上に置きソファに腰をおろした。沙耶にとってこれからの問題は、悠樹、成美、遥、杏の四人が泊まっていることではなく、日曜日。

護との買い物だ。

護自身、日曜日に用事があるから、もしかしたら晩ご飯だけになってしまうかもしれないが、そんな事はどうでもいいのだ。護と一緒にいる事が出来れば、それは沙耶にとって良い事なのだ。

「………………っと」

沙耶はおもむろに携帯を取り出し、ある人物に電話をかけた。

その人物とは、鳥宮魅散だ。

沙耶の親友、そして日曜日、護達や沙耶が行くことになっている鳥宮駅の名前の由来になった、といわれている鳥宮神社にいる巫女がその魅散なのだ。

「もしもし、魅散? 私、沙耶だけど……時間ある? 」

「沙耶か、久し振りだね。あるけど、どうかした? 」

「どうかしたって訳じゃないんだけどさ、日曜日、暇? 」

「うーん……、ちよっと待ってね」

メモ帳のページをめくる音が、電話越しから聞こえる。

「うん、日曜日は大丈夫だね。何も予定は無いよ

「良かった。じゃ、買い物に付き合ってもらえる? 」

「買い物? 別に良いけど、唐突だね………………。護君絡み? 」

「うん、まぁ……そういうこと」

「分かった。朝から? 昼からにする? 」

「朝からでいい? 護が出るの、朝だからさ」

「沙耶はあれだねぇ。護君の事好きだよね」

「うん、まぁね」

「じゃ………日曜日」

「うん。無理矢理ゴメンね」

「良いよ。私達の仲だしね。それに、護君にも会いたいしね」

「そう、ありがとね」

「うん、じゃ」

「また、日曜日だね」





「…………ふぅ」

皆が寝静まっているであろう午前一時、悠樹は目を覚ました。

……護……。

悠樹は気づかれないようにゆっくり体を起こし、護の部屋へと向かった。

「護…………」

護の部屋へと忍び入り、さっきは心の中に留めていたことを口にする。自分が好きな人の名を。

「…………護」

護が寝ているのを確認してから悠樹はもう一度、その名を呼ぶ。護に対する想いを強めるために。

……案外ベットも広い……。

一人用のベットではあるし、護自身身長の高い方だ。だが。

……私が入るスペースはある……?

悠樹は静かに寝ている護を起こさないように、自分の身体を重ねる。

……護……を

悠樹はまたしても、護の名を心の中で想う。一体何度呼んだか分からないほど、悠樹は護の名を心の中で呼び、想った。

護が寝ているのを再度確認してから悠樹は。

「…………んっ」

自身の唇を、護のそれに重ねた。

その余韻に浸りながら悠樹は護の横に潜り込み、目を閉じた。

「…………護」

もう一度、想う人の名を呼びながら。


悠樹が護の部屋に入ってから三十分後。今度は成美が目を覚ました。布団から体を起こし、部屋を見渡した成美は。

「先越されたか…………」

この部屋に悠樹がいないという事を確認した。

「私も行こ……」

たとえ先を越されたとしても、ここで行かないと絶対に悠樹に前を進まれると思うから、成美はそうするのだ。

やはりというか、成美が護の部屋に入って真っ先に目に入って来たものは、悠樹がギリギリまで護にくっついている姿だった。

「悠樹……負けないよ…………? 」

この声が悠樹に届かないとしても、成美は悠樹にそう言っておきたかった。

「場所、あるよね……? 」

悠樹と同じように成美も護の横に入る。

「……護」

何故かは分からないが、好きという気持ち以外で護の隣にいると落ち着くのだ。

……皆も、そう思っているのかな……?

そんな事を思いながら、成美は目を閉じた。


「ん……ふぁ…………」

遥は目を覚ます。自分の枕元に置いていた携帯を開き、確認し。

「二時半か…………」

まだそんな時間かと思い、もう一度寝ようとするが。

「…………ん? 」

遥は一つの違和感を見つけた。

「ユウと成美がいない? 」

バッ、と体を起こしてみるがその事実は変わらない。

「護の部屋にいるの? 」

二人ともがこの部屋にいない状況で、トイレに行っているという事は考えられない。

「私も行く……」

そう思い部屋を出ようとするが、そんな遥を止める声が生まれた。

「遥」

その声に振り向くと、俯せになってこちらを見ながらニヤニヤしている杏と目があった。

「杏さん。何故止めるんですか? 」

「なぜって。この状況、成美と悠樹の二人が護の部屋に行っているのは分かるよね? 」

「えぇ…………まぁ」

「という事はだよ? 二人は護のベットで寝てるってわけ」

「はい…………」

「もう、最初に悠樹がこの部屋を出てからは一時間以上が経ってるから、諦めるべきかな」

「はぁ……」

遥はしぶしぶ、布団の中に戻る。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで護君の事好きな人が増えると特定の人と付き合う結末は考えられ無さそう。まだ増えそうだし。それに護君の気を引く手段が思いつかない。告白しても駄目、キスしても駄目、添い寝しても駄目、後は○…
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