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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜四章〜
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事件の香りはさらに強く #3

その杏先輩と遥先輩の話を聞いていたかのように、終わったと同じタイミングで、部屋の扉が叩かれた。

「護。開けて」

姉ちゃんだ。恐らく、全員分の飲み物を持ってきてくれている。杏先輩、遥先輩、成美、悠樹、薫、俺、姉ちゃんの七人分、それだけの量を持っていたら扉を開ける事は出来ないだろう。

「今開けるから、ちょっと待って」

「ん、ありがと」

姉ちゃんは、持ってきた飲み物を七つ乗せたお盆を机の上に置くと、その近くに腰を下ろした。

「……………………」

無言が生まれる。

しかしまぁ、この一部屋に七人も集まると、狭く感じてしまう。

「さ、沙耶さん……」

薫が躊躇いながらも口を開いた。

「ん? どうかした? 」

「リビングに降りませんか? 沙耶さんには悪いんですけど…………」

「うん。その方が良いかもね。護はどう? それで良い? 」

「? 別に良いけど」

どうして俺に聞いたのかは分からなかったが、一応、そう言っておく。そりゃ、リビングに降りた方が広いし、のんびりと出来るから。


リビングに向う途中、俺は姉ちゃんに一言だけ言って、その場から離れた。このタイミングで佳奈先輩と連絡しておかないと駄目だと思ったからだ。

俺が離れる時、悠樹は無言でこちらを見つめ、その視線からは「どこにも行かないで」というのが含まれている気がしたが、仕方ない。

それと、いつもなら理由を聞いてくる姉ちゃんと杏先輩が何も聞いて来なかったのが、せめてもの救いだ。

「ふぅ…………」

俺はポケットにしのばせておいた携帯を取り出す。

佳奈先輩をコールする。

一コール、二コール、三コール、四コール、と続くが出る気配が全く無い。

「はぁ……」

まぁ、これで決める事が出来ればそれが一番良いのだけれど、仕方ない。

俺は携帯をポケットに戻すと、皆の待つリビングに足を出した。


リビングに入ると遥以外の表情に変化が見られた。

「……? どうしたの? 」

その微かな変化を遥感じ取り、戸惑いを含んだ声をあげる。

「遥ちゃんには分からないの? 」

「何が……ですか…………? 」

「このリビングには四人掛けのソファがある。そこに護を座らせるのは当たり前として」

その沙耶の言葉にかぶさるように悠樹が。

「その護の隣に誰が座るのかを決めなくてはならない」

その悠樹の言葉を聞いて遥は思う。

ここにいる皆は、護の事が好きなんだなぁ。と

遥自身、護の事が好きだ。

しかし、まだ出会って数時間。この想いが何を意味するのか。それは分からない。

だけど、私は勝てないなぁ、と思う。

「じゃんけんで……決めますよね? 」

遥を尻目に薫がそう言う。

「そうだね。それが良い」

公平なじゃんけんの結果、護の隣には悠樹と遥が座る事になった。

……ユウは本当に嬉しそうだね……。

遥はそう思いつつ、自分も隣に座れる事を喜ぶのだ。





「な、何…………? 」

リビングに足を入れると、皆の視線が俺を捉えた。

「ん? 何もないよ? 」

姉ちゃんは微かな笑みを浮かべながら、そう答える。が、こういう場合の姉ちゃんは本当の事を言っていない。

まぁ、でも仕方ないので、皆が集まってるソファの元に向かう。

リビングには、テレビ前にある一つのテーブルを左右に挟み、四人掛けのソファが二つある。

何故、合計八人座れるようになっているかは知らない。恐らく、来客用とかそんなのだろう。

「護は右側ね」

成美がそう言ってくる。

「あ、はい…………」

どちらも四人掛けだからどちらでも良いのでは?と思ったが、口には出さないでおく。そうする理由があるのだろう。それが何なのかは知る由もないが。

俺が成美に言われた通りに座ると、その横に悠樹と遥先輩が座った。

「………………」

その時に、この二人の間になにやら火花が散ったのは気のせいということにしておこう。うん、それが良い。悠樹と遥先輩がかなり近づいてきたのも気にしないでおこう。


「おっと…………もう七時半だね……。どうする? 」

姉ちゃんが時計を見上げながら、そう言う。気づかなかったが、かなりの時間話し込んでしまっていたらしい。

話し込んでいたといっても、中学時代の話やらで他愛も無いものであったが……。

「帰りますよ。時間も時間ですしね」

杏先輩が姉ちゃんの言葉に同意し、立ち上がる。それにつられ、成美達も帰る準備を始める。

「護。送ってあげてね」

「うん。了解」

俺は皆の後に続き、玄関まで行く。

「ありがとね。護」

「いえ。杏先輩も、成美も、悠樹も、遥先輩も、薫も楽しんでくれたのなら、良かったです」

「うん。また月曜日ね」

そう言い終わると杏先輩は扉を開け、皆もそれに続こうとするが。

「うっ………………」

扉を開けると、かなりの雨が降っていた。道路の至る所に水溜りが出来てしまうほどの。

「これは、帰れませんね…………」

「そうだね」

「だね」

「うん」

「どうしよっか………………」

帰ってくる途中、若干雲が出ていたような気がしたが、雨が降っていたなんて思ってもいなかった。

リビングにいた時もカーテンを閉めていたし気づかなかったのもあるが。

「護。あたしは帰るね。隣だし」

「おぅ。そうだな。また」

「うん。また月曜日」

薫が自分の家に入ったのを確認してから扉を閉める。

「雨が止むまで待ちますか」

「うん。そうだね」


リビングに戻ると、姉ちゃんが驚いた顔で俺達を見た。

「どうしたの? 忘れ物? 」

「いや。雨が降ってたからさ」

「本当に? 」

姉ちゃんは、閉めたままになっているカーテンを開け、確認する。

「あぁ…………本当だね」

「母さんは? 今電話してたんでしょ? 」

俺は姉ちゃんが右手に持っている携帯を見ながら言う。

「仕事が終わらないって」

「マジかよ…………」



「雨……止まないね…………」

成美がそう言葉をもらした。

止まないというよりかは、窓から見えるその雨の様子は段々と強くなっていっているように思える。

「そうですね……」

母さんの帰りが遅くなるというのが分かってから、俺達は晩御飯を作り始めた。

冷蔵庫の中身と相談しながら晩御飯は、オムライスとなった。どこにこんなに六人分ものご飯があったのかは、不思議ではあるが。

そんなこんなで、食べ終わった頃には九時になろうとしていた。

「一つ提案があるんだけど…………」

姉ちゃんがなにやら笑みを浮かべながら、口を開いた。

「………………………………っ!! 」

そう言った杏先輩を筆頭に、皆の表情がこれまでに見たことがないほどに輝いていて、期待しているように見えた。

「良いよ。護も良いでしょ? 」

「あぁ……」

この状況で、嫌だと答えることが出来る強者がいるのなら、俺に紹介してほしい。姉ちゃんの視線を含め、全員の視線を受けると、「嫌だ」と言える立場ではなかった。

「よし、決定だね」

ハイタッチをしている杏先輩達を見ていると悪い気はしないのだが、どうもこれから起こるかもしれないことを考えると、恐怖を覚えざるを得ないのだった。いや、別に恐怖ではないのかもしれん。


頭を抱えつつ部屋に戻ると、またしても丁度良いタイミングでポケットに入れていた携帯が震えた。佳奈先輩からだ。

「こんばんは」

「うん。さっきはゴメン。ちょっと電源切ってて」

「良いですよ」

「でだ。明日の事だな。時間はあるか? 」

「はい。あ……遥先輩も来たいと言っているんですが、良いですか? 」

「遥が? 」

若干驚いている佳奈先輩。まぁ、いきなり言われたびっくりするわな。

「あぁ、構わないよ。こっちも一人友達を連れて行く事になっているから」

「そうですか。なら四人ってことですね。本当は二人きりだったんですけどね」

佳奈先輩の声が少しだけ、上擦る。

「ま、まぁそうだな。だが、私達だけじゃ分からない事も多いから頼りにはなるな」

「そうですね。時間はどうします? 」

「私としてはいつでも構わないのだ。昼前からでいいかな? 十二時くらいでさ」

「はい。昼はそっちで食べる感じですか? 」

「それは、良い考えだな。うん。それでいこう。集合場所は風見駅で良いか? 」

「分かりました。風見駅ですね」

風見駅なら、この場所から一時間ほどで着く事が出来る所にある。

「それじゃ、また明日。楽しみにしているよ」

「はい。俺もです。あ、遥先輩には俺から伝えておきます」

「うん。ありがと。じゃ、明日ね」

「はい。おやすみなさい」

昼前という時間の指定は丁度良かった。

明日の朝はまたいろいろありそうだし、もしそんな状況で、俺と遥先輩だけでその場から抜ける事を杏先輩達が許してくれるはずがない。

「遥先輩に言いに行かないと…………」




「あ、遥先輩」

一階に下りると、洗面所から出てきた遥先輩と鉢合わせた。うん。丁度いい。

「護君」

お風呂に入っていたのだろう。リボンを付けていないのと、若干濡れていてカールしている髪、そして、姉ちゃんの服を着ているところから推測出来る。

……俺も入らないと……。

「お風呂…………入ってたんですよね」

「うん。そうだよっ。あ、時間は決まった? 」

「はい。風見駅に十二時頃なんですけど」

「風見駅………………? 」

「知らないですか? なら、一緒に行きましょうか」

「うん。ありがとね」

「いえいえ」

言うべき事を言い終え二階に戻ろうとした俺を、遥先輩は止めた。

「護君。ちよっと待って」

「どうしたんです? 」

「上がるなら一緒に行こ。私達の寝る部屋は、護君の部屋の前になったみたいだし」

「そうなんですか」

その事情にまたしても頭を抱えつつ、遥先輩と一緒に階段を上る。

「それじゃ、また朝に」

そう言い自分の部屋に戻ろうとすると、遥先輩がまた止めた。

「護君。もう一回、護君の部屋に入っていい? 」

「まぁ、別に良いですけど…………」

「やった」

部屋に入り俺はベットに腰を下ろす。遥先輩もそれに倣らうように座る。

帰ってきた時はこの部屋に七人も集まっていたから狭く感じたが、二人きりの今は広く思う。それは一人の時もそうなのだが。

基本的に必要の無いものはおいてないつもりだから、そうと感じるのかもしれない。

「護君はさ…………」

「はい? 」

「護君は、ユウと成美のこと、呼び捨てにしてるよね? 」

「えぇ、まぁ」

まぁ、そう呼んでほしいと言われたし。

「じゃあさ、私の事も、遥って呼んで? 」

「いいですよ」

その事については良いのだけれど……。うーん、まぁ、気にしないでおこう。

「護君は、本よく読むんだねぇ」

遥は、ベットの後側にある本棚を指しながら言う。

「はい。姉ちゃんの影響ですかね。いろいろ勧められたりもしましたし。遥せ…………遥も読みますよね? 」

やっぱり、最初は詰まってしまう。これは毎回だな……。

「そうだね。図書委員長でもあるからね。護君は何か委員とかしてるの? 」

「クラス委員長をしていますよ。それ以外は何もしてないですね」

「そうなのか。それは自分からやりたいって言ったの? 」

「いえ。先生の推薦ですね。それで断るのもあれですからね」

「そうだよね。図書委員になったのは私も一緒だね。委員長は私からやりたいって言ったんだけど」

「へぇ。そうだったんですか」

気がつけば、だんだんと時間は過ぎていっていた。楽しい時間はなんとやら、というやつだ。

「もう時間だね」

「そうですね」

遥はベットの上からピョンと飛び降りる。

「じゃ、私は戻るよ。明日も早めに起きないと駄目だろうしね」

「そうですね。俺も早く寝るとします」

「ん、また明日ね」

「はい。おやすみなさい」

……さてさて、風呂に入らないと……。

寝るのはそれからと思いながら、俺は洗面所に向かった。

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[気になる点] 護君行動が受け身ですよね。なんでもはいはい聞いてくれそうな気がします
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