席替えと転校生は事件の香り #5
「はぁ・・・・・・。疲れた・・・・・・」
家に帰るなり俺は、ベットの上に倒れこんだ。
今回は無事に、校内を案内する事が出来た。だからといって、羚とランの二人が話し込まなかった、というわけではない。
休み時間の時は、どこから案内するかみたいなのを打ち合わせを行った。
その時も、羚とランは話していたし、きちんと聞いていたのか些か、不安ではあったが、ランが羚と話をしながらも、聞いてくれていたのが良かった。案の定、羚は聞いていなかったようだが・・・・・・。
案内の途中でも、羚とランは話し始めるもんだから、無駄に時間がかかったのかもしれない。
まぁ、二人が楽しそうにしていたし、それはそれで良かったのかもしれない。
「どうすっかなぁ・・・・・・」
今の問題は、羚とランの仲の良さではなくて、明後日に迫る、佳奈先輩との約束の事だ。
本当なら今日、調べようと思っていたのだが、予定がずれてしまったのだ。
その上、ララとランの二人に、「今度は御崎市を案内して」と、言われたのだ。
御崎市は、範囲が広いため、どこから案内しようかと思案していたのだが、その時に約束を思い出したのだ。その場では俺は抜けると言いたかったのだが、言うタイミングが無かったのだ。
・・・・・・葵に言っておくか・・・・・・。
携帯を取り出し俺は、葵をコールする。
葵は二コールで出てくれた。
・・・・・・毎回早いな。
「もしもし? 葵」
「護君? どうしました? 」
「明日のさ、御崎市を案内するって話、俺抜けることにるんだけど…………良いか? 」
「用事ですか? 」
「ん。そうなんだけど。あの場では言いにくくて」
「それなら、土曜日でも、日曜でも私は良いですよ? ララちゃんとララちゃんにも言っておきますし」
「あぁ・・・・・・。悪い。その日も予定埋まってるんだ・・・・・・」
「そうですか・・・・・・。まぁ、仕方ないですよね。私と吉田君とで、二人を案内しますよ。場所も御崎駅の近くにしておけば、楽ですから」
「ゴメンな? 」
「いえ。良いですよ。気にしないでください」
「本当にゴメンな。一応、明日言うつもりだが、もし、ララ達の番号を知ってたら伝えておいてもらっていいか? 」
「はい。分かりました。それじゃ、お休みなさい」
「おぅ。お休み」
「ふぅ・・・・・・」
葵は携帯を机の上に置き、ベットに顔をうずめるように倒れる。
「護君・・・・・・」
御崎駅の近辺は家の近くだし、案内するのは簡単だ。青春部のメンバーでも行った場所だし、その事を思い出すことが出来るのは良い事なのかもしれない。ララとランと一緒にいるのも楽しいし、楽しそうにランと話している羚を見ると、こっちまで気分が良くなってくる。
でも。
「護君とも一緒にいたいよ・・・・・・」
こんな事を想うのは、最初に護の事を好きだと、分かった頃以来だ。
青春部に薫や心愛、護と一緒に入ったため、一緒にいることが多くなっていたのだ。
「護・・・・・・君・・・・・・」
「暇過ぎるなぁ・・・・・・」
沙耶はソファの上でくつろぎながら、小さく呟いた。
今この家の中にいるのは、沙耶だけだ。
母さんと父さんは仕事。護は学校に行っている。昨日の夜も電話していたし、護が今日、いつもより早く家を出たのは何か用事があったからだろう、と沙耶は思う。
「あ、そういえば・・・・・・」
沙耶は母さんから用事を頼まれていた事を思い出し、ソファから腰をあげた。
用事というのは、護の部屋を除き、自分の部屋とその他の部屋を掃除する事だ。
「護の部屋もしようかな・・・・・・」
それなら、早くやった方がいいかなぁ、と沙耶は思う。時間がかかるというわけではない。ただ・・・・・・。
「護の部屋からやるか・・・・・・」
護の事を思うだけで、階段を上がる沙耶の足取りは軽くなる。
「到着・・・・・・っ! 」
護の部屋に入った沙耶は、自分では押さえきれない程に、気分が高揚していた。
「我慢出来ない・・・・・・っ! 」
沙耶は自分の体の本能には逆らえず、ベットに飛び込む。
・・・・・・護の匂い・・・・・・。
沙耶は日常的に護に抱きつく事がある。
それは、沙耶が重度のブラコンだという理由もあるがそれだけではない。安心する事ができるから、沙耶はそういった行動に出るのだ。
沙耶自身、この事は自分が親友だと思った相手にしか言っていない。
「すぅ・・・・・・はぁ・・・・・・」
自然と手が下に伸びるが・・・・・・。
「はぁっ・・・・・・! 」
一体何してるのよ、と沙耶は自分自身に問いかける。
まだまだ護が帰って来るまで時間があるが・・・・・・。
「護・・・・・・、早く帰ってきてよ・・・・・・」
薫は今日も青春部の部室に来ていた。
だけど。
「どうしたの? 薫? 」
杏から、そんな声がかけられる。
「いえ。護がいないと少し・・・・・・」
「そんな事言っても、家隣でしょ? あたし達よりかはいつも一緒にいられると思うんだけど・・・・・・」
「そうですけど・・・・・・。護のお姉さんが最近、家に戻って来たんです」
「へぇ・・・・・・。そうなんだ。どんな人? 」
杏はどんな人かとても興味があるらしい。そんな杏を見ながら薫は。
「一言で言えば、杏先輩に似ていますよ」
「あたしと・・・・・・? 」
「はい。髪型とか、その他も」
「一回、見てみたいなぁ・・・・・・」
「じゃ、帰り寄ってみますか? 」
「えっ!? 良いの? 」
杏のテンションの上がりようは誰にでも分かるかのように、グン、と上がった。
「は、はい。良いですよ」
「ん、ありがと」
「いえ。時間どうします? 」
「うーん・・・・・・」
杏は部室内を見渡す。
今、部室の中にいるのは、成美、渚、悠樹がいる。
が、全員、気持ち良さそうに寝ている。
「起こさないように、行こうか」
「はい。それじゃ、行きましょうか」
薫は肩に鞄をかけ、それに習うように杏もかける。
「レッツゴーだよ! 薫」
「待ってください。急ぎすぎです」