席替えと転校生は事件の香り #4
ズボンのポケットに入れていた、携帯が鳴る。
またしても、どこかから見ていたかのような、タイミングの良さだ。
「知らない番号だな・・・・・・」
基本的に俺は、知らない番号からかかって来た時、あまり出ないようにしているのだが、この時ばかりは何故か、出なければならない、という衝動に駆られた。
「もしもし・・・・・・? 」
「護君ですか? 私、ランです」
「お、おぅ。急にどうした? 」
まさかの相手からの電話だ。
番号は恐らく、羚から聞いたのだろう。あんなに仲良くしていたことだし。
「い、いえ・・・・・・。どうした、ということではないのですが・・・・・・。今日は迷惑をかけてしまったかな、と」
私達のせいで、予定を潰してしまったと、そう思っているのだろう。
「その事は別に良いよ。明日にでも出来る事だしね。それに二人は楽しそうに話してたし、そんなのの邪魔は出来ないよ」
「すいません・・・・・・」
「謝らなくても良いよ。羚と話すのも楽しかっただろ? 」
「あ、はい。それはもう。フランスにいる時は良く、男の子と話す事もあったんですけど、それ以上に面白かったです」
「へぇ・・・・・・。そうなんだ」
「はい。あ、もう遅いですからまた明日です」
「うん。また明日」
ランはララとは違ってお淑やかなイメージがあったものの、ランも意外と人懐っこい性格をしているのだなぁ、と思う。
ララは最初に受けた印象そのままだが・・・・・・。
「寝るか・・・・・・」
まだ時間は十一時を過ぎたとこらではあったが、俺は早めにベットに入った。
また、姉ちゃんがベットに入って来る、なんて事があれば寝る事が出来なくなってしまうからだ。
携帯のアラームを六時半にセットして、俺は目を閉じた。
「ふぁ・・・・・・」
時刻は同じ頃。凛はピンクの色をしたベットの上に寝転がっていた。
「新たなライバルだね・・・・・・」
新たなライバルというのは勿論、今日やって来た転校生の事だ。
ハーフを見るのも、あんな綺麗な色をしている髪を見るのも、凛はこれが始めてである。
「私が勝てるのかなぁ・・・・・・」
そう呟くが、凛はすぐに首を左右に振り、今さっきまで考えていた思いを払拭する。
・・・・・・勝てるのかなぁ、って弱気になってちゃダメだっ! 勝てると思わないと。
だけど、その為には、
「何が出来るのかなぁ・・・・・・」
護君に聞いてみよう。そして、日曜日が勝負かなぁ、と凛は思いながら、夢の中に落ちた。
楓は思っていた。
凛と栞は大変だなぁ、と。
だけど、本当は。
・・・・・・二人から好かれる羚の方が大変なのかなぁ。
その点に関して、楓は分からない。
・・・・・・こんな事を私が考えても仕方ないんだけど・・・・・・。
恐らく、栞と凛の二人は今度の日曜日に勝負に出ようとするだろう。
その場に楓と護はその状況を見守るという行動しかとる事が出来ない。
本当を言うと。
・・・・・・私も、その輪に参加したいのだけどね・・・・・・。
そう思いつつも、楓は早い内に諦めている。
凛と栞はお互いに好きな相手がバレないように、楓にもバレないように行動している。
だけど。
「二人とも、分かりやすいんだよねぇ・・・・・・」
ちょっとばかし、楓は声に出してみる。それに深い理由は無いのだけれど。
さてと。
・・・・・・私はどうしようかなぁ。
次の日、いつもと同じように起きて、薫と一緒に時点者で、学校に向かう事にした。
「護と一緒に行くのも、なんか久し振りな気がするね」
俺より前を走っていた薫が声を作る。
「そうだな・・・・・・」
別に、普通の人と比べてしまうと、久し振り、という言葉は合っていないのかもしれない。だけど、中学の時ほぼ毎日のように一緒に登校していたから、俺達はそう思うのだ。
「ランちゃんと、ララちゃんだっけ・・・・・・」
「ん? 」
「二人とも、可愛いし、綺麗だよね」
「おぅ・・・・・・」
ララには綺麗という言葉は当てはまらない。どちらかというと元気で溌剌で、杏先輩や成美と似ているような印象を受ける。三人の中なら、心愛よりだ。
ランはその金色で、ウェーブしている髪も含めて、綺麗という言葉がぴったりだ。綺麗なんて言葉じゃ表しきれないくらいだ。三人の中なら葵より。
「ランちゃんは、吉田君と仲が良いよね」
「あぁ。その理由は分かんないけどな・・・・・・」
「そうかな・・・・・・? 」
と、薫はスピードを落とし、俺の横に並ぶ。
「吉田君は、女の子なら誰彼構わず、って感じがするから駄目なんだと、あたしは思うんだよ」
「うん」
それは、薫だけではなく、皆が思っている事だ。
「だから、昨日みたいに吉田君が一人の女の子と話しているのなら、皆の見る目が変わると思うよ」
「そうかもしれんな・・・・・・」
もし、本当にそうなるのなら、羚も大変だなぁ、と他人事のように俺は思っていた。
教室に入ると、もうすでにランと羚が話している姿が目に入った。羚がこんな早くに来るなんて珍しい。これもランの影響だろうか。
二人はまたしても、自分達の世界に入ってしまっているようで、俺と薫が近くに立っても気付かないほどだ。
そんな二人を見ていると、控え目に制服の裾が引っ張られる。
「おはよ。護君。薫さん」
「おぅ」 「おはよう」
「ランと羚君。ずっとあの調子なの」
「まぁ、そうだろうな・・・・・・」
「ララちゃんは混ざろうとはしないの? 」
薫は不思議そうに首を傾げ、尋ねた。
「まぁ・・・・・・。あんなのを見せつけられるとねぇ」
ララが横目で二人を見ながら答える。
「そうだよね・・・・・・」
「今日は、案内出来るか・・・・・・? 」
なんて事を思っている内に、人が段々と集まって来る。
まだ男子は来ていないが、来てしまえば、羚が羨ましそうな目で見られるのは、当たり前の事だ。
「早く、戻って来いよ・・・・・・」
小さく呟きつつ、俺は自分の席に座った。