姉ちゃんの襲撃!? #2
「護。そんな所でなにボーッとしてるのよ?」
その声にハッとして閉じていた目を開くと、顔前に姉ちゃんが迫って来ていた。しようと思えばキスが出来てしまう距離にいた姉ちゃんに驚きつつ。
「ごめん」
「手伝ってあげるから。ほら、行くよ」
「サンキュ」
姉ちゃんの部屋の大きさは俺の部屋と一緒なのだが、少しだけ広いように感じた。
それはベットと中身の入っていないクローゼットしか部屋に無いからかもしれない。
でも、それ以外にも、姉ちゃんが二年もの間、この部屋を使っていなかったということも、広く感じた理由の一つなのかもしれない。
「本棚はどこに置くの?」
「んー? ベットの所」
そう言われ、ベットに目を向けると、壁とベットの間に丁度、本棚が入るほどの隙間があった。
「ここに置くの?」
「うん。そうだよ」
「でも、ここに置くと危なくないか」
「そうかな」
「そうだよ。地震とか来たらどうすんだよ」
「うーん。まぁ、その時はその時だよ」
「………………」
本の量が少ないのならいいのだが、姉ちゃんの場合、そんな事はない。しかも、ベットの配置上、もし本棚から本が落ちて来たら頭の上に降りかかってくる。
「まぁ、地震そんなにこないけどさ……」
「そそ。早く、残りの物も運ぶよ」
「了解…………」
その後は本が詰まっているダンボールや、おそらく服やらが詰まっているだろうと思われるダンボールを運んだりさした。
その作業は実に骨の折れる苦労だった。
姉ちゃんもついて来てくれたが、それは本当について来ていただけで、俺が運んでいる姿を楽しそうに見ていたり、終いには椅子に座って部屋に荷物を持って来る俺を眺めていたりした。
「お疲れー」
「本当だよ。どうして手伝ってくれなかったんだよ」
「私はこれから、このダンボールの中に詰まっている本を、本棚に入れないと駄目だからね」
「…………」
それくらいなら、俺がすると言いたかったが、姉ちゃんには本を入れる順番にもこだわりがあるのかもしれない。
「……。戻っていいか?」
「駄目に決まってるじゃない」
「何で…………?」
姉ちゃんは、本棚に本を詰めながらこちらに振り向かず答える。
「護にはまだやって欲しい事があるからよ」
「やって欲しいこと?」
積まれていたダンボールはもう無かったはずだし、もう無いとは思ってたんだけど。
「うん。そこのダンボールの中の物をクローゼットに仕舞って欲しいなぁ」
「俺が? 良いの?」
「良いよ。適当に入れておいてくれれば」
まぁ、俺はそういう意味で聞いたのではなかったのだが……。仕方ない。
「はぁ……」
さて、やるしかないだろう。この四箱くらいある内の全部に服とかが入っているのだとしたら大変だ。
「…………………………っ」
開けたダンボールの中身をチラッとみた瞬間、そのダンボールを俺は目にもとまらぬ早さで閉じた。どうやら、開けるダンボールを間違えたらしい。
その見てしまったものは…………そのまま記憶から抹消しておこう。うん。それがいい。
「どうかした?」
「いや。なんでもない…………」
「そう?」
俺のちょっとした動揺に姉ちゃんは気づいたのだろう。深く追求はしてこなかったのが、せめてもの救いだ。絶対に気づいているような気もするが。
俺はその後もせっせとダンボールの中から服を取り出し、クローゼットに仕舞っていった。
姉ちゃんも順々と本を整理していったものの、途中、本を読み返したりしてたので、早く終わるだろうと思っていた俺の思いは結局儚く散り、母さんが「晩ご飯だから、降りて来なさい」と部屋まで呼びに来るまで続いた。
晩ご飯の時は母さんが姉ちゃんの一人暮らしについて聞いていた為、俺に話題が振られる事は無く、無事に(?)終わった。
この話が行われなかったら、俺の高校生活について聞かれていた事だろう。別にそれに関しては良いのだが、女の子の名前を出してしまった時に、いちいち、その子について説明するのに骨が折れるのだ。
まぁ、中学の時からそれについてはもう慣れてしまっているのだが、聞かれてしまうとかなりの時間が食われてしまうので、俺は自分のお皿を流しに持って行くと自分の部屋に退散した。
○
「はぁ……。疲れた」
現時間は午後十時。あの後、俺は、自分の部屋にいてもどうせ、隣の部屋に姉ちゃんがいるのだからと思い、姉ちゃんに気付かれないようにお風呂に入ったのだ。
風呂に入ってしまえば、姉ちゃんが来ないと思っていたのがそもそもの、間違いだったのだ。
実際、姉ちゃんはお風呂に入って来てしまったし、高校生活の事も聞かれたし、全部話す事になった。
俺は逃げるという動作をしてみたのだが、そんな事が姉ちゃんに通用する事は無く、後ろからがっちりとホールドされた。
風呂場なんて所で抱きつかれてしまったので、言う他に選択肢は無く、俺は後ろから俺を包み込んで来る柔らかさと暖かさに耐えながら話したのだ。
「さて…………と」
今日のしーちゃんとの話を羚に伝えなければならない。明日の朝でもいいような気がするが、早めに伝えてやったほうがいいだろう。
携帯を取り出し、羚をコールする。
羚は三コールで出てくれた。
「どうした? 護」
「日曜の件だけど…………」
「あぁ。で、場所は?」
「鳥宮駅だって」
「鳥宮駅だ? なんでまたそんな遠い所で…………」
「しーちゃんの家がそこの近くにあるんだと」
「へぇ。という事は一之瀬の家に行くのか?」
「おう。そうみたいだな。服を見に行くのは昼からで、朝はしーちゃんの家で映画を見るんだって」
「映画? 一之瀬の家でか?」
「うん。DVDがいっぱいあるんだと」
「なるほど。んで、時間は?」
「九時くらいだって。俺は結構早めに家でるけど、一緒に行くか?」
「そうだな。なら、黒石駅で集合するか」
「了解。時間は…………また今度でいいな」
「おう。じゃ、また明日」
「じゃあな」
〇
「ん……?」
羚との電話を終え、トイレから戻ってきた時机の上に置きっぱなしになっていた携帯が光っているのを見た。
画面を見ると着信は葵からだった。こんな時間にかけてくると言う事は、よほどの急用があるかもしれない。
もしこの着信が羚からであれば無視するところなのであるが、俺は椅子に座ってからに葵電話をかけた。出ないという選択肢はない。
「もしもし。葵?」
「あっ! 護君。良かったです」
「ん? どうして? 」
「さっき出なかったので、もう寝てしまったのかと……」
トイレが終われば寝るつもりだったし、葵からの電話の着信は丁度良かったのか。
「悪いな。一回目で出れなくて」
「いえいえ。私が悪いんです」
実際に姿を見なくても、葵が携帯を耳に当てながら首を左右にプルプルと振っているのが分かる。
「それで、話なんですけど。護君は明日、いつもより早く学校に来る事は出来ますか?」
「うーん…………。出来ない事はないけど。どうして?」
「はい。先生から頼まれたんですけど、明日に転校生が来るらしいんです」
(転校生、か……)
この時期に転校生か。
「それでその娘達の椅子と机を準備を私達でやって欲しいとのことなんです」
「なるほど」
(ん? その娘達……?)
「その娘達って言うからには、転校生は一人ではないってことか?」
「あ、はい。二人来るらしいです。しかも、フランスからだそうで」
「フランス!?」
フランスとな。一度は行ってみたいと思う国だ。テレビでその風景が流れる度にそう思う。
「そうみたいです。私もどんな娘達が来るのか楽しみです」
「そうだな。それで、どれくらいにそっちに着けば良い?」
「えっと、七時四十五分。この時間くらいでいいかと思います」
「了解。七時四十五分だな」
「はい。それと、転校生を出迎えるにあたって席替えもするそうです」
「席替えか……」
中学の時の席替えは先生が適当にパソコン勝手に決めていた、という記憶がある。乱数的な何かで決めていたのかもしれない。さすがに、担任の山田先生はそんな事をしないと思いたい。
「それで、その席替えをふつうのクジでやるかあみだクジでやるかも、考えておいて欲しいとの事です」
「それは、普通のクジの方がいいだろう。その方が時間もかからないだろうし」
「はい。そうですね。私もそっちの方が良いと思います」
「おぅ。じゃ、また明日だな」
「はい。おやすみなさい」
その言葉を最後に俺は通話を終わろうとしたが。
「ま、護君っ!」
俺は慌てて、そのボタンから指を離す。
「どうした?」
「また、席が近くなると良いですね」
「お、おぅ。そうだな」
「それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
葵との電話を追えると俺は椅子から立ち上がり、ベットの方向へと声をかけた。
「姉ちゃん。出て来たらどうだ?」
「えへへ。バレてたか」
「そりゃ。バレるわ」
電話の途中ふと視線を感じ、ベットが少し膨らんでいた。その時は一瞬驚きはしたが、すぐに姉ちゃんだと分かったし。
「で、早く部屋から出て行ってよ…………」
「つれないなぁ」
「俺は早く寝たいの」
「別に、一緒に寝れば良いじゃない」
いやいや、それは普通に駄目だから。