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せいしゅん部っ!  作者: 乾 碧
第一編〜三章〜
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そしてまた日常の始まり #1

  「護。起きなさい」


  俺を呼ぶ声が聞こえる。


  もう少し寝かしておいて欲しい。


  薫が自分の家に戻ったのは二時頃だったが、それから約二時間、四時頃までは寝れなかったのだ。


  そして六時半にセットしてあるアラームが鳴ったという記憶もない。


  「後、十分…………」


  俺は、はっきりしない意識のなかそう答えた。


  「何言ってるのよ。早く起きて」


  俺を呼ぶ主は、俺の体を揺さぶりながら起こそうとする。


  「んっ……………………」


  ん? ちょっと待て。


  俺は段々と戻ってくる意識の中で考える。


  基本的にアラームを六時半にセットしている為、その時間から十五分経つ六時四十五分になると母さんが起こしにくる。


  そして今起こされているということは六時四十五分になっているということだ。


  それよりもだ。母さんが俺の部屋にまで入ってきて俺を起こそうとはしないし、体を揺さぶるなんてことはもっともだ。


  ということは今、俺を起こそうとしているのは母さんではないわけで。


  「はぁっ!!」


  勢いをつけ起き上がり、横を見ると、そこには驚いた顔でこちらを向いている成美の姿があった。


  「起きるなら、起きるって言ってから起きなさいよ。驚くから……」


  そんなことは出来ません。


  「てか、成美先輩がなんでここにいるんですか?」

  「先輩はいらないって言ったはずだよ?」

  「………………なんで成美がここに?」

  「なんでって護の母さんが、どうぞ、って言ってくれたから」


  母さんよ。一体何をしてくれてんだよ……。


  「そんなことより護。早く着替えて降りてきてね。朝ご飯作ってあるから」


  あまりの驚きに気づいていなかったが、成美は制服の上からエプロンをつけている。


  「成美が作ってくれたんですか?」

  「い、いや。ちょっと手伝っただけだよ」

  「そうなんですか?」

  「う、うん。あたし渚と違ってあまり料理得意じゃないからね」

  「それでも、作ってくれてありがとうございます」

  「良いよ。礼なんて。美味しく出来たかなんて分からないんだから」


  成美はそう言うと、少し恥ずかしそうに扉を開け、下に降りて行ってしまった。


  それにしても。


  「女の子に起こされるのはこれで二回目か………………」


  無論、これは高校に入ってからの話である。一回目は心愛、二回目は今日、成美だ。


  朝ご飯を作るのを手伝っていたということは、六時くらいには俺の家に着いていたいたということになる。


  成美の家がどの辺りにあるのかは分からないが、朝早くから起きていたのは事実である。


  「後で、お礼を言っておくべきだよなぁ…………」


  それより、成美が料理が苦手だということには少々驚いた。なんでもやってのけてしまいそうなイメージがあったからだ。イメージだけなら渚先輩の方が出来なさそうに感じる。


  「よしっ……」


  後で成美に家の場所を教えてもらおうとかなんとか思いながら、俺はキッチンへ向かうため階段を下りた。



  「あっ…………」


  キッチンへと向かうためにリビングへの扉を開けようとした。


  だが、顔を洗っていなかったことに気づき、俺はその扉の前で踵を返し、洗面所へと向かった。


  洗面所から戻ってくると丁度、リビングから出て来た母さんと鉢合わせた。


  母さんは俺を見るなりこちらの顔をマジマジと見つめ、


  「護」

  「何?」

  「あなた。やっぱりお父さんと似てるわね」

  「ん? そりゃ似てるだろ。親子なんだし」

  「そうじゃないわよ。もっと別の所で似てるのよ」


  俺は、母さんのその言葉で頭の上にはてなマークを三つほど浮かべていた。


  が、母さんはそんな俺を気にせず、俺がさっきまでいた洗面所へとスリッパを鳴らしながら行った。


  「一緒に朝ご飯食べないのかよ」

  「食べるわよ。先に洗濯物を干すだけ。護は成美ちゃんと一緒に食べてなさい」」

  「了解」


  母さんが成美の事を北山さんではなく成美ちゃんと呼んだということは、仲良くなったという風にとれる。


  母さんは、滅多に他人の事を下の名前では呼ばない。 薫や咲ほどになると別の話になるのだが。


  まぁ、母さんの中では成美の事も薫達と同じ立ち位置になったということなのだろう。


  キッチンへと行くと成美はフライパンで何かを焼いている?ところだったので、俺は。


  「何か手伝えることはありませんか?」

  「んー、別に良いよ。護は椅子に座って待っていて」

  「分かりました」


  待つこと十五分くらいだろうか、


  「出来たよー」


  その声と共に成美が運んできたのは、ベーコンエッグのホットサンドだった。


  「成美…………」

  「ん、何?」

  「家に、ホットサンドメーカーありましたっけ?」

  「無いよ。だからフライパンでやってみたんだけど………………」


  なるほど。


  「フライパンで出来ました? 」

  「うん。護の母さんにもコツとか教えてもらったし」

  「そうですか」


  母さんもフライパンでホットサンドが作れるのならそう言ってくれれば良かったのに。


  ホットサンドメーカーが無いためにホットサンドを作ることを何回諦めたことか……。


  「護。どうかした?」

  「いえ。なんでもないです」

  「そう。じゃ、食べよっか」

  「はい」


  そう言いつつ、成美は俺の正面へと座る。


  「あ、髪型。今日は結ばないんですか」

  「やっと、気づいてくれたね。今日からは降ろすことにしたんだ」

  「そうですか」

  「護がこっちの方が良いって言ってくれたからね。いつになったら気づいてくれるのかなってずっと思ってた」

  「すいません。エプロン姿にちょっと驚きまして」


  最初起きた時に成美のエプロン姿を見たため、その他の情報が起きた時の俺には入ってこなかったのだ。


  「それは、あたしのエプロン姿に見惚れていたということかなぁ」


  成美は身を乗り出すようにして、こちらの頭を撫でようとしてくる。


  俺は成美にされるがままに。


  「えぇ。まぁ…………」


  俺がそう答えると、成美は少し驚いたような表情を顔に作った。


  「最近。はっきりと答えるようになったね」

  「だって、わざわざ嘘ついても成美にはバレるじゃないですか」

  「まぁ、それもそうだけどね」

  「そうです」


  こう喋っている間にもずっと成美は俺の頭をわしゃわしゃと撫でているわけで。


  「いつまで撫でてるんです?」

  「護は嫌なの?」

  「嫌じゃないですよ。その…………」

  「ん? 言ってごらん」

  「…………気持ち良いですし」

  「恥ずかしいこと言ってくれるじゃないの」


  そう言いつつも、成美はさっきよりも頭を撫でてくる。


  いつもと違って髪の毛を降ろしているものだから、成美が頭を撫でるにつれて、髪の毛が揺れてそこからシャンプーの香りが俺の鼻腔をくすぐるのだ。


  撫でられているのとその香りとの相乗効果だろう。


  ……もうずっとこのままでも良いかも……。


  俺はそう思っていた。


 「護も撫でてよ」

 「え!? 俺もですか?」


 成美の唐突の言葉に俺は驚きを隠せなかった。


 その成美の申し出は願ったり叶ったりなのだが。


 「昨日の昼寝の時。撫でてくれたじゃん」


 それを聞いて俺はさらに驚いた。


 俺は成美が寝ていると思っていたために成美の頭を撫でたわけだからだ。


 「起きてたんですか……?」

 「まぁね。だからね?」

 「本当に良いんですか?」

 「何を遠慮しているのさ。あたしが頼んでいるんだから」

 「じゃ…………じゃあ。失礼します」

 「はい」


 俺は、やはり少し遠慮気味に成美の頭にへと手を伸ばした。


 俺が成美の頭に手を置くと。


 「みゃう……」


 と、可愛らしい声を出した。


 成美が喜んでくれるのなら、それでいいか。


 俺と成美はこの頭の撫で合いを楽しんでる(?)わけではあるが、この状況を第三者が見たらどう思うのだろうか。だが、そんなことは気にしたくはない。


 なぜなら、気持ち良いし、こんな成美の表情が見れるのも珍しい。


 どれくらい時間が経っただろうか。唐突に成美が口を開いた。


 「護はさ」

 「ん? 何です?」

 「護は、頭撫でるの上手だね。昨日はそれで寝ちゃったくらいだし」

 「それを言うなら成美の髪をさらさらしていて気持ち良いですよ」

 「ありがと」

 「い、いえ…………」


 この「ありがと」という言葉と共に言う成美の笑顔に俺は毎回ドキッとさせられてしまう。


 「護も髪、綺麗だよね。何かしてるの?」

 「いえ。何もしてませんよ」

 「本当かなぁ」

 「うーん。強いて言うなら、母さんと同じシャンプーとかを使ってるからでしょうか……」


 あまり、シャンプーとか、そういうのは気にしない。


 「なるほど。護のお母さんは髪綺麗だもんね」

 「ありがとうございます」


 母さんの髪の綺麗さには驚かされる。


 腰の辺りまでの長さがあるのだが、あそこまで長い髪の毛をきちんと手入れしようとしたら、どれだけの時間がかかるのかは考えたくはない。


 それを考えると短い髪の方が楽だなぁと思うのだ。


 「みゃう……。護に頭撫でられてると、何もする気が起きなくなるよ………………」

 「俺もです。成美も上手ですよ」

 「そうかな? この護の気持ちよさには叶わないと思うんだけどね」

 「いえいえ。そんなこと無いですよ」


 そう言えば中学生の頃に薫や咲の頭をふとした拍子に撫でてしまった時にもそんな事を言われたなぁ。


 「護は、兄弟とかいる?」

 「お姉ちゃんがいます」

 「そうだったんだ」

 「今はいませんよ。もう独立してますし」

 「そうなんだ。どんな人?」

 「とても元気ですよ。まぁ、杏先輩とかなり近いですね」

 「へぇ」

 「母さんとは全く正反対です。髪も短いですし」

 「ふーん。護は髪、長い方か短い方かどっちが良いの?」

 「別に髪の長さについては好き嫌いは無いですよ。その人に似合ってれば良いと俺は思ってます」

 「やっぱりそう答えると思ったよ」

 「? どうしてです?」

 「どうしてって言われてもねぇ………………?」


 成美は俺の頭を撫でながら、目を閉じなにやら考え始めた。


 「どうしてだろうね」

 「なんですか……」

 「まぁ、護はそのままが良いからね。何も考えなくてもいいよ」

 「そうなんですか」

 「うん」


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