心愛の告白
葵からの告白があった後、俺はしばらくその場に突っ立っていた。気持ちの整理がしたかったからだ。
「ふぅ…………」
告白というのをされるというのは、こんなにも心を動かされるものだとは知らなかった。いや、そういう経験が無いわけではないんだけど、何かこう…………。あぁ、上手く説明出来ない……。
まぁ、こんな所で立っていても何もすることも無いし、次の時間までまだ時間があったため俺は教室に戻ることにした。
〇
もう入学して一ヶ月が経過していて、部活動の体験が始まっているため教室に残っている生徒はあまりいない。このクラスには誰も残っていない。
「はぁ……」
教室に戻り、自分の席に座り時計を見上げながら溜息をついた。
「まさか委員長…………、葵が俺の事を好きだったなんて」
改めて。さっきの屋上での出来事を振り返る。お互いクラス委員長としてそれなりに接してきたし、仕事をしている時に他愛もない会話をしたりはした。しかしだ、やはり考えにくい。
「閉めないと…………」
教室の扉を開けっ放しにしていたことに気づき、俺は閉めようとした。その時。目の前に一人の少女がいた。身長はかなり低くツインテールを揺らしながらこちらに歩いてくる。しかし俺が扉の前にいることに気づいていないようで。
「あいたっっ」
前を見ないからそうなるんだ。
「成宮。一体こんなところで何してるんだ?」
「え? わっ!? 宮永?」
「そうだ、俺は宮永だが。成宮は何してるんだ?」
成宮はぶつかったのが俺だと気づいたようで、特に悪びれる様子もなく、頭を少しさすりながら逆につっかかってきた。
「あ、アンタこそ! 何してるのよ! 屋上で待ってなさいって手紙に書いたでしょ! ……………………あ」
成宮は自分の失態に気づき慌てて口を抑えるが遅かった。
(こいつが?)
(成宮が、俺に?)
「まさか!あの手紙お前なのか?」
「そうよ!? 悪い!?」
凄い剣幕で聞いてくるので俺は否定しか出来なかった。
「いや、悪くはないけどさ。何か用でもあるのか? もうここで言ってくれ」
屋上に行く必要がない。ここにこうして二人がいるのだから。
「なら、ここで言うわよ」
「お、おう」
「アンタ。好きな人いる? 」
本日二回目の質問である。
「いや、いないけど」
いないと言えばいない。いると言えばいる。そして、俺を好きだと言ってくれる人がいる。
「そう、なんだ…………」
成宮は深呼吸をし、顔を真っ赤にしながら。
「あたしさ実はアンタの事が……、好き……なんだ」
成宮はそう静かに言う。いつものうるささはない。
本日二回目の告白である。しかし素直には喜べない。喜べるわけがない。
「そうか……」
その反応に成宮はムッとしたようで。
「なにアンタッ! あたしに告白されて嬉しくないの!?」
「嬉しいよ。嬉しくないはずがないだろう? 成宮は、まぁ……、その……………………」
俺は口を濁す。
「あたしがなんなのよ?」
「まぁ、成宮は可愛いからさ……」
こういう部分があるものの、それを除けば問題ない。羚もそう言っている。何故だろか、羚は色々と詳しい。
俺がそう言うと成宮の顔はさっきよりも赤くなって。
「んもーっ!!!!!!!! 急になんてこと言うのよっ!!!!」
〇
しばしの間、俺と成宮の間に沈黙が生まれる。その沈黙を破ったのは成宮ではなく、俺だった。
「な、成宮」
「こ、心愛って呼んでっ! あたしも護って呼ぶから」
「なる・・・・・・心愛。一日考えさせてくれないか。まだ、心の整理ができていない」
俺自身、これは苦しい言い訳だったと思う。葵にも告白されて、一日でなんか選べるはずもなかった。
しかし心愛は、
「うんっ。良いよ。別に。一日じゃなくても良い。いつまでも待つから」
そう言ってくれる。
「ゴメンな」
俺は心愛にそう謝ることしか出来なかった。
「じゃあたし用事があるから、もう行くね?また明日」
「おぅ。また明日な…………」
心愛はそう言って、俺に背を向け帰っていった。俺はその後ろ姿をただ見る事しかできなかった。